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9 修羅場/ラージフット

「彼女ってどういうことなのよ! お兄ちゃん!」

「――は?」

 ――お兄ちゃんって……。


「まさか、こころ?」

「あっ……」

 シンは今更口を押さえる。しかし、時すでに遅かった。


「おまっ……ネナベプレイって……いや、それは別にいいけどさ……なんで僕のパーティにわざわざ……」


「ちょっと待ってくれるかしら。いまいち話が読めないのだけれど」

 姫がニアとシンの話を遮った。

「俺も流れが読めないんだけど。もしかして、シンって……近田の妹の、心ちゃん?」

 サクノが言った。キャラ作りどこ行った。


「ああ……ああ、そうよ。悪い?」

「まさかの逆ギレ!?」

 ニアは反射的に突っ込んだ。


「つか、俺なんか目じゃないほどキャラ作ってたな……びっくり」

 何故サクノが肩を落としているのかは、ニアにはよく分からなかった。


 現在の状況を簡単に説明すると、つまりは、


 ニア=近田ちかだ道人みちひと

 シン=近田(こころ)。道人の妹。ネナベ。

 サクノ=佐久間さくま宏之ひろゆき。道人の友人。ネカマ。

 姫=永井ながい真姫まひめ。道人の恋人(?)。


 ということになっていた。


「世間って狭いな……」

 ニアは呟いた。

「いや、マジでそうじゃん。世界はお前を中心にして回ってるのか?」

「それは違うだろ……」


 聞くと、シン――心がこのゲームをやり始めたのは、ニアがこのゲームをやっている姿を見たからだそうだ。

 それで、ニアにバレないように監視するため、キャラクターも男にしてネナベプレイをしていたらしい。

 昔から、心には異常なほど心配性な部分がある。

 ニアがこのゲームでトラブルに巻き込まれていないか心配だったみたいだ。母ちゃんかよ。


「そんなことよりも、問題は姫って人のことよ。あたし、お兄ちゃんに彼女いるなんてこと知らなかったんだけど」

「あら、兄が人と付き合うのに妹の許可が必要なのかしら」

 姫が煽るような言い方をした。

「必要よ!」

「いや、あのな……」


「おお、修羅場だ修羅場だ!」

 唐突にサクノのテンションが上がった。

「「「うるさい!」」」

「フルボッコやめろし……」


 結果的に見れば、サクノの一言で二人の熱は鎮火した。

 これからはサクノのことを、生ける潤滑油と呼ぶことにしようとニアは思った。


◇◆◇◆


 ニア達は酒場の外に出た。ツンとした冷気がニアの体を刺す。

「よし、一旦みんなフラットな状態に戻そう。口調もいつも通り、あくまでここはネット上で、相手は見ず知らずの人だと仮定しよう」

 ニアは提案した。崩れた人間関係を元通りに戻すのはこれしかないと思った。

「その上で、今度オフ会をしよう。佐久間――サクノは抜きでな」

「いや、だから俺――私の扱い酷くない?」


「……仕方ねえな」

「やむを得ずね」

 シンと姫もうなずいた。


「さて……これからどうするか……」

「ねね、これからザミーナ火山行かない? 南の街道より敵のレベル高いから効率良いし」

 サクノは言った。

 いつも適当なことを考えているのに、たまにはいい提案をするものだ、その時はニアもそう思っていた。


◇◆◇◆


 ザミーナ火山とは、ラヴィーンより北の、この世界で発見されているダンジョンの中で最も北のダンジョンだ。

 入口付近は非常に凍えるような寒さだが、中に入っていくうち次第に火山らしいマグマが近づいてきて暖かく、もしくは熱くなっていく。


 ニア達はその中を、シン、ニア、姫、サクノという順番で進んでいた。

 姫が後ろからの奇襲で死なないように、後衛ポジションであるがレベルの高いサクノが一番後ろに回っていた。


 ちなみに、サクノの職業ジョブ補療師エイダーだ。

 サブで回復術も使うことが出来るが、基本的には補助術の方面が優遇されている。


「にしても……ここ異常なほど寒いじゃん……」

 一番後ろを歩いているサクノが白いローブを震えさせている。


「ちょっと現実リアル的な部分に、拘り過ぎてる部分は否めねえな……」

 シンは体こそ寒そうではなかったが、顔が青白かった。VRゲームはそのような心の機微をキャラに強く映し出す。

「情けないわね。男ならこれくらいの寒さは耐えてみせなさいよ」


「私女……」

「オレも女……」

 前者は間違いなく男であった。


「前に来たときはこんなに寒くなかったはずなんだけど……おかしいなぁ」

 サクノは言った。

「あるとすれば、季節……か」


 この〈Eternal Job Online〉、通称EJは現実の二倍の速度で自然環境が回っている。

 そのため、必ずしも日本の季節と一致するわけではない。現実では今、夏真っ盛りだ。

 但し、NPCを含む全ての人間は、現実と同じ速度で時間が進んでいる。

 VR技術は人間の時を凌駕することが出来なかったらしい。


「そういえば、冬にここに来るのはやめろって前のパーティーの人が言ってたような……」

 サクノが言った。


「え」

 衝撃の発言に、ニアが口をぽかんと開けた。


 話をしている間に、ニア達は大広間のような場所に辿り着いた。


 その時――ズドォン! という音が地響きと共に鳴る。

 目の前に体長6メートルはあるであろう巨大な白いゴリラが落下してきて、立ちはだかっていた。


 奴の頭上には『ラージフット』という名前が表示されている。


「おい! なんだよこれ!」

 シンは巨大な盾と片手剣を構えながら言った。


 そして、突然、

【緊急クエスト『雪火山からの脱出』】

 と目の前に現れた。


 緊急クエスト――それは特殊クエストの一種だった。

 緊急クエストは他のクエストと違い、強制的にクエストを受領させられる。

 ニア以外にもこのクエスト発生画面は見えているはずだ。


「とりあえず、通路に引き返して――」

 ニアがそう提案しようと思ったが、

「ダメだ! 後ろの道が崩れてる!」

 興奮している様子のサクノが男口調で遮った。


「チッ、やるしかないってことかよ!」

「ちょっと、これ大丈夫なの!?」

 姫が焦りを含んだ言葉を放つ。彼女も両手に二丁拳銃を握っていた。

 レベルの問題で火力が低いかもしれないが、銃の基本スキルは一応2つほど持っているはずだ。


「わかんない!」

 恐らく『ラージフット』はクエストボスだ。

 クエストボスは弱いモンスターから強いモンスターまで、千差万別だった。


「来るぞ!」

 シンの一言で、ニア達のボス戦が始まった。

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