第二十三話
さて、こうして順を追って説明してきたんだけど、ミツキが出した結論について、どう思うだろう? 最初にも言ったけど、僕の結論とミツキの結論とで差異が生じたんだ。同じ状況を観察していたんだけどね。
簡単に説明すると、ミツキの結論は、マナミがアマナがいなくなったことを利用して、今回の事件を企てた、ということ。
だけど、僕の結論は異なる。
「それって、僕が間違ってるってこと?」
暇な飛行時間を使って僕が今回の状況を再構築していると、ミツキが低い声で言った。ジト目で僕を睨んでくる。ミツキも普段ずっとしているゴーグルを止めて、それなりにしゃんとすれば可愛くなると思うんだけど、なぜかそうしない。今回の旅行で、ミツキがエムだということが分かったし、いつか素敵なダンディーでも現れたなら、こちらで相手にアドバイスしてあげないといけないな。そうじゃないといつまでもミツキは処女を守っていそうだ。結婚するまでは、なんて今の時代に似つかわしくないことだし。
「間違ってるわけじゃない。ただ、認識のずれがあるんだ」
「それって間違ってるってことじゃなくて何なのさ」ジト目に頬のふくらみも加わる。「本人だって、認めてることだろ」
「そう、彼女が今回の事件を企てたのは確かだし、彼女が実行したのも確か。だけどね、ミツキ、僕は、マナミが犯人じゃないと思うよ」
「はぁ? センテンスの前半と後半で矛盾してるよ、ナナキ」
「それはミツキの思い込みだよ」
「マナミが犯人だ」
「彼女が犯人だけど、それはマナミじゃない」僕のセリフに、ミツキの眉がゆがむ。けれど、僕の表現でどうやら気が付いてくれたようだ。「ミツキは彼女イコールマナミだけど、僕が観察した結果を言えば、彼女はマナミじゃない」
「アマナ?」
正面に僕が座っていたなら、黙って大きくここで相槌を打つだろう。だけど、残念ながら僕に本体はない。だから、ここはもうしばらく沈黙し、ミツキが僕の考えをきれいに理解してくれるのを待つのが早い。
「だけど、そんなのは仮定だけで、どちらがどちらだろうと関係がない。客観的事実から、彼女が犯人で合ってるんだ」
「ミツキという客観と、あそこに存在していたマナミとでは、客観が異なっている」
「どこにそんな要素があった?」
「マナミとアマナ、どちらがおしゃべり?」
「そんなの、マナミだろ?」
「ミツキに、確認するよ」間髪入れずに答えたミツキに質問をする。「ミツキはアマナと直接話した?」
「ラーサと話した」
「マナミはコンピュータに強い?」
「強い」
「そう、マナミはおしゃべりで、コンピュータに強い。ミツキはアマナが女王の時に彼女と話をしていない」
「その通りだ」
「ティアマと偽ティアマが記しているが、その特徴はアマナのものだ」僕は偽ティアマが記した文章を声に出す。「何もしゃべらず、ただ静かに座っていることが関の山。これは彼女がマナミを表して言った言葉」
再びミツキの表情が歪む。
「つまり、どこかのタイミングでアマナとマナミが入れ替わっていた?」
「おそらく、偽ティアマと交渉していた以降に」
「つまり」同じ接続詞をミツキは続ける。「僕は、最初からアマナに騙されていた。僕がどのように解釈しようとも、僕が到着した時点でマナミとアマナが入れ替わっているなんて、気がつくこともない」
「気が付かなかったのは、ミツキの観察方法と、僕の観察方法とが違うからで、だからといってミツキが出した結論で答えが変わるわけじゃない」
「確かめに戻る?」
「いや、そこまでするほどのことじゃないよ。エナジーも無駄だしね。だけど僕の解釈だと、どうしても説明ができない点が幾つか残るんだ。僕がこの事実を客観的に考察すると、僕の存在が架空のものになってしまう」
「物騒な物言いだね」
「多分」僕は一呼吸追いてから続ける。「ミツキがラーサに約束した、彼女をあそこから他の場所に移動させる方法を会わせて考え合わせると、ね」
「影で糸を引く?」
「神はサイコロを振る」
「物騒な物言いだ」
「それで、説明が付かない点を、ミツキは説明ができる?」僕の質問に、ミツキがその点を早く言うように目が睨んでいる。「アマナとマナミ、それにティアマと偽ティアマ。人の入れ替わりがたくさん起きていたけれど、どうして彼らはそれに気が付かなかった? 彼らはまるで、ミツキ以外の人物に関心がないように思えた。もちろん彼らも彼らなりに考えて動いているように見えたし、人との関係を作り上げていた」
「ナナキ」ミツキがうつむく。「それは僕が、最初に女王に会った時、それが映像であり、本物ではないと気が付かなかったのと、同じ答えだよ」




