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短編集

偽物ヤンキーの私と、自称アイドルの彼

作者: 三原すず



ある高校で噂される『金の一匹狼』とは私のことだ。

高校では驚くことに、友達がいない。本当に、誰も、いない。

たまにいる委員長的な存在すらも、私には近づかない。

なぜなら、私は金髪で_____目つきが悪かった。


私の母はイタリア人。父は日本人。私はいわゆるハーフである。

容姿は母から受け継いだ。金髪でブルーの目。父親の血はどこに行った、と思ったら大間違い。父の血は、目元に集中した。

父は日本人でも珍しい悪人面である。加えて空手の師範。ここまで言えばわかるだろう。

金髪で目つきが悪人面の血を引いた私は一見、ヤンキーである。

街で出歩いているとまあ、寄ってくる奴らがいるが、父直伝の空手技で倒す。

さあ、素晴らしい式が出来上がった。


ヤンキーに捕まる→一発入れる→警察を呼ばれる→その様子をうちの学校の誰かが見かける→女ヤンキー判定される→噂が広がる


素晴らしきかな我が高校生活。笑っちまうぞ。

そんな私に最近、秘密ができた。

アイドルを自称するホームレスに、懐かれた。


『おねえさん、キレイだね』


そう言って私を呼び止めたのは大学生くらいの若い男だった。

私をキレイという彼は、そっちこそキレイな顔だったけど小汚さがちょっと目に付いた。


『あんた、なんか用?』

『おねえさん、かわいいね』

『……バカにしてんの?』

『いいや?ほんとにそう思ってるよ?』

『……殴っていい?』

『いやいやダメダメ!オレは顔が売り物だから!』

『……はあ?』


初めの会話はこんな感じだった。そこからなんとなく仲良く?なった。

あいつの名前は知らない。あいつも、私の名前を知らない。

まあ、期間限定の友人?関係だ。こんなものだろう。


「あ、こんにちは。おねえさん」

「どうも。はい、これあげる。今日のお昼、購買だったけど買いすぎたから」

「わあ、ありがと!いつもごめんね」

「余っただけだから」


はっきり言うと図々しい。でも、仲の良いひとなんかがいない私にはなんだか心地良い。

なんというか、認めたくないけど……楽しい。

今日だって、買いすぎたわけでないし、昼食だって母特製・和食弁当だった(イタリア人なのに……とかはツッコムだけ無駄である)。

でもこいつは正直に言うと引きずりそうだから、私はそういうことにする


「そーだ……私、もうここには来ないから」

「……、…。え?」

「もう、ここには、来ないから」


今日ここに来たのはそれをいうのが目的だった。

数週間前、両親から転勤すると告げられた。行き先は母の故郷イタリア。とてもじゃないが高校生の娘を置いていける距離じゃないのはわかった。

出発は明日。学校にも届け出を出し、近所に挨拶に行き、家を片づけ、あとは時間を待つだけになった。

そして、こいつに挨拶するべきか悩み、結局こうして来た。


「なに、言って…、」

「悪いな。もうあんたに食べものやれなくなった」

「そんなことどうでもいいよ!どういうこと?ここに来ないって」

「引っ越すんだよ。行き先はイタリア。簡単なことだろう?」


そう言うと男はぐっと押し黙った。

……寂しがっていると、自惚れてもいいのかな?

自意識過剰なんて思わなくてもいい?


「……なあ」

「おねえさん、いくつ?」

「は?」


唐突な質問にびっくりして返すと男は真剣に繰り返し訊ねる。


「おねえさん、いくつ?」

「じゅ、十六……」

「じゃあ四年後、今日と同じ日に、ここに来て。それまでにオレは、自称アイドルなんて思われないようにするから」

「(…バレてたのか)」


いきなりすぎる要求に、私はおっかなびっくりだ。

けれども男は私のブルーの目から、その目を離さない。へなへなしていたはずなのに、なぜかその目には芯が通っている。


「ねえ、約束してよ、おねえさん」

「……なんで、そんなことしなきゃいけない?」

「オレがおねえさんが好きだから」


……、好き?

目つきに悪い、態度の悪い私が?どんなゲテモノ趣味だよ。馬鹿言うなよ。

そう言いたいのに、喉がカラカラで声が出ない。


「オレは絶対にアイドルになっておねえさんに会いにくる。だから、ここに来てよ」

「…あんた、いくつ?」

「二十一。若いでしょ、四年後でも。四年後にもう一回告白するから……。お願い」


切実な願いに私は頷けない。

だって、だってそんなこと言われたって忘れるかもしれないでしょう?


「……私…」


その時だった。

彼の後ろにバットを持った、男の影が見えて_____。


「っ!」

「このっ!」


彼を引き寄せて、そのままの勢いで投げ飛ばす。


「よお嬢ちゃん、この間は世話になったなァ」

「…ああ。どこかで見たことがあると思ったら」

「ちょ、おねえさん!?」

「……さっさと逃げろ。約束は、約束しない」

「なんだァ?オメェもこの女の仲間か?」

「こいつなんか関わりたくもない。あんたの相手は私でしょ」


こっちに意識が向くように手首が鳴らす。

男は以前私が一発殴った本物ヤンキーの一人だ。やり返しに私を見つけたんだろう。


「でも、おねえさん!!」

「うるさい!アイドルになるクセになに言ってんの!?顔が売り物なんでしょ!?さっさと行って!!」

「な、んで、覚えて……」


忘れないよ、そんなの。だって、私だって……。

思考が続いたのはそこまでだった。

バットを片手に突っ込んでくる男に私は地面を蹴る。


「四年後、おねえさんの名前を聞くから!だから、オレの名前を覚えてて!オレの名前は_____!」


最後に聞いたのは、あいつのそんな声だった。


***


久しぶりにここに訪れる。

あのころから、私の身体はだいぶ変わった。悪かった目つきはクールだと言われるようになり、イタリアで出来た友達から美人になったと言ってくれた。

あと周りは変わった。

目つきが悪いと、怖いと悪口を言われていたはずが成長するにつれて、態度が変わった。

私自身の性格は変わってないから、結局意味はないけど。


「ねえ、リョウが結婚するって〜!」

「知ってるよお!!ショック〜〜っ!」

「ハーフの一般女性って記事にあったけど、誰よリョウを盗ったの!!」


すれ違う女の子たちの会話に苦笑する。

私も、今朝駆け込んできたニュースに目を剥いた。大人気アイドルであるリョウが結婚。

リョウとはここ二年急激に人気の出ている男性アイドルである。

そのリョウが電撃結婚を発表したのだ。


駆ける足音に思考が中断される。

隠れるように私に近づくのは小綺麗にしてサングラスをかけた若い男だった。


「…こんにちは、おねえさん」

「………」

「約束、守ってくれてありがとう」


声質が変わってる。バリトンな声にちょっと色気が増したような声。


「みっつ、質問してもいい?」

「なに?」

「……リョウってあんたのことだよね?」

「うん。二つ目は?」

「今朝のニュースの結婚相手のハーフ女性って誰?」

「もちろん、おねえさんだよ」

「はあぁあ!?」


ちょっと予想したけど!まさかほんとに私!?許可してない!!

そんな私の心の声が聞こえたのか、男は笑って、口を開いた。


「おねえさん、あなたの名前を聞いてもいいですか?」

「……さあ?教える義理はないけど。ここまで来てあげただけで

いいと思うけど」

「まあいいですけど」


男は地面に膝をついて、私を見上げる。

ポケットから小さな箱を取り出して、箱を開く。

そこにはキラキラと輝く指輪が収まっていた。


「おねえさん、四年前から好きでした。手順が違うけど、オレと結婚してもらえませんか?」

「……じゃあとりあえず、私の家に来てもらうから」

「わかってるよおねえさん。俺なんて眼中にないって………え?」

「言っておくけど、うちのお父さん、強いから」


私は箱を取り上げて、彼の手を引く。

すんなり立ち上がった彼に私は初めて笑いかけた。


「喜んで、あなたと結婚するよ」

「〜〜っ!!ありがとう!」


彼が私を抱きしめる。

我ながら恥ずかしい、四年越しの恋愛だなんて。

それが、成就するなんて。


「じゃあおねえさん。もう一度お願い。……名前を聞いてもいいですか?」

「……私の名前は、」


そういえば、みっつめの質問をしてない。

一番聞きたかったことだけど、質問する前に答えを出されてしまった。


―――まだ、私が好き?


私が名乗ると、彼は本当に嬉しそうに顔を綻ばせた。



fin.



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