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『むかしむかしある町に』

いいすたあ

作者: はいいろ

木野かなた様企画、【たまご、あるいは、うさぎ。そして庭。】参加作品。

先行配信こえ部にて、灰色作【いいすたぁ!! 頂いたお声でぷちMIX】→http://koebu.com/topic/%E3%81%84%E3%81%84%E3%81%99%E3%81%9F%E3%81%81%EF%BC%81%EF%BC%81%E3%80%80%E9%A0%82%E3%81%84%E3%81%9F%E3%81%8A%E5%A3%B0%E3%81%A7%E3%81%B7%E3%81%A1MIX%E3%80%82

 

 前回までのあらすじ。


 むかしむかしある町に、親を亡くして二人だけで暮らすとても仲の良い兄妹がおりました。兄の名前はエシュリー、妹の名前はリシャ。とある冬の日、エシュリーは寒がりな妹リシャのために西の森へと『あったか石』という奇跡の石を取りに出掛け、そのまま森から帰って来ることはありませんでした。

時が経ち、妹リシャは大人となり三人の子供が産まれました。長男アシュリーン、長女スエラに次女ミエラ。三人の子供達はリシャの兄エシュリーの話を聞き西の森へと向かいます。そうして森の中で石となっていたエシュリーをリシャと子供達は見事救いだし、皆で仲良く暮らしていたのでした━━━。



 そんな西の森には『森の番人様』と呼ばれる薄紫色の長い髪と赤色の瞳を持つ子供の姿をした不思議な存在がいます。森の番人様は、その森に立ち入る人々に『たった一つのもの』を差し出せと要求してきます。ですが最近ではそれも聞かない話となりました。何故なら森の番人様にも『たった一つのもの』が出来たからです。





『満月が、来たな』


 森の番人様は満月を見上げ、にやりと笑った。







━━━━━━━━



「アシュリーン、森の番人様から手紙が来てるわよ」

「手紙?」


 母リシャの言葉にアシュリーンは首を傾げます。森の番人様から手紙などと言うものはこれまで一度も来たことがありません。さらに言えば、森に住む精霊とも呼ぶべき森の番人様が人が用する手紙という手段を使い連絡をして来るということも、アシュリーンには不思議でなりませんでした。


「はいこれ」

「んー」


 アシュリーンは母、リシャから手紙を受け取り中を確認します。そこには兎と卵が描かれた可愛らしいメッセージカードが一枚入っていて、そのメッセージカードには「来い」という一言だけが書かれていました。


「めっちゃ命令形だな」

「アシュリーンが全然会いに行ってあげないからだよ」


 ソファに座り本を読んでいたエシュリーが顔も上げずにアシュリーンに言います。


「アシュリーンに会えなくて寂しいんじゃない。森の番人様」


 そうからかうエシュリーは、森の中でずっと石となっていたアシュリーンの伯父です。森の中で石となっていた間成長が止まり、今では自身の甥であるアシュリーンと同じ年となってしまっているエシュリー。更には悲しきかな妹であるリシャまでもがエシュリーより先に大人となっている始末。

 そんなエシュリーの前には山のように積まれた大量の本があります。エシュリーは遅れを取り戻すかの様に毎日毎日色々な本を読んでいるのでした。


「ちゃんと会いに行ってあげないとね」

「エシュリーおじさん。自分の事じゃないからって軽く言わないでよ」


 エシュリーは笑います。


「アシュリーン、それ、下の方にまだ何か書いてあるわよ?」

「え?ホント?」


 メッセージカードを覗き込む母リシャの言葉にアシュリーンも再度メッセージカードに視線を向けます。確かに「来い」のメッセージの下に追伸が書いてありました。


「P.S、スエラミエラも連れて来い……か。何だろ、何かあるのかなぁ」

「子供達皆で来いって事かしらね」


 アシュリーン一人ならエシュリーが言った通り森の番人様がアシュリーンに会いたいという意味なのだろうけれど、妹達まで連れて来いとは如何なものでしょう。訳がわかりませんが、アシュリーンはとりあえず直ぐに向かうことにしました。


「スエラぁー、ミエラぁー」


 妹達を呼びに行ったアシュリーン。その場に残されたリシャは未だ本の虫となっている兄エシュリーを見ます。


「エシュリー兄さんはいかないの?」

「僕はいいよ。呼ばれてないしね」

「あら、でもエシュリー兄さんも立派な子供よね?」


 本から顔を上げエシュリーはリシャを見ます。リシャはにっこりと微笑みますが、エシュリーは眉間に皺を寄せます。


「リシャ、僕は君の兄だよ」

「私はもう二十も過ぎたけれど兄さんは一体おいくつかしら?」

「…………」


 結局エシュリーもアシュリーン達と一緒に西の森へ行くこととなりました。




 アシュリーン、スエラ、ミエラ、そしてエシュリー。四人は西の森へと向かい家を出ます。


「まったく。昔は寒い寒いっていつも僕に泣きついてきたくせに。ちょっと自分の方が大人になったからって僕より立場が上になったと勘違いしてるんじゃないかなリシャは。僕はまだ子供だけど君の兄なんだからね!そこの所もうちょっと自覚して貰わないと困るよ」

「もういいじゃん。エシュリーおじさんが母さんより歳が下になっちゃったのは事実だし」

「それも事実だけど、僕があの子の兄なのもまた事実だよ!」

「エシュおぢさん、おかあしゃまとけんかしちゃったの?」

「違うわミエラ。おじ様はちょっと僻んじゃってるだけ」

「ひがむ?ひがむってなに?アシュにいちゃん」

「んー?僻むって言うのは」

「一、 物事を素直に受け取らずに曲げて考えてしまう事。二、自分が不利なようにゆがめてゆがんだ考え方をする事。三、 物の見方がかたよっているため偏屈な考え方をしてしまう事。スエラ、君は僕がそんな人間に見えるって事だよね?僕の事そういう風に見てるって事だよね?今の発言はそういう事なんだよね?」

「もうおじ様五月蝿い!!」


 そんなこんなで、四人は西の森へと到着しました。森の中暫く進みアシュリーンはいつものように叫びます。


「森の番人様ぁ!」


 暫く待つと何処からともなく風が吹き抜け、そうしてアシュリーン達の前に薄紫色の長い髪と赤い瞳の『森の番人様』が現れました。


『来たな、アシュリーン』


 森の番人様はにやりと笑います。


「来いって命令がありましたので」

『命令とはまた乙な言い方だな。私はお前に会いたかっただけだぞ?』


 森の番人様はアシュリーンの頬を撫で上げます。そんな森の番人様に苦笑するアシュリーン。


「俺も忙しいので」

『私に会いに来るぐらいの時間もないとは。よっぽどの忙しさなのだろうな』

「ははは」

「ねぇそこの二人。いちゃラブするのは勝手だけどそういうのは二人だけの時にしてくれない?子供達の目の毒だよ」


 エシュリーの言葉に二人が振り向けば、スエラもミエラも遠巻きに二人を見ていました。


「いちゃラブ……お兄ちゃんがいちゃラブ……しかも相手が森の番人様……これはありなの……?大丈夫なの……?いいの……?」

「いちゃっちゃー!」


 スエラはぶつぶつ呟き、ミエラはきゃらきゃらと笑います。森の番人様はふふんと鼻で笑いエシュリーに近付き言います。


『エシュリー、お前は下世話な奴だな。そんな大人の本ばかり読んでいるのかお前は』

「………っ!」


 かっと顔を赤くするエシュリー。

 まだまだ子供だな。そんな森の番人様の言葉にエシュリーが更に爆発する、その前にアシュリーンは二人の間に入る事に成功しました。


「あーっと!森の番人様っ、用事は何だったのですか?」


 そうだったな、と森の番人様はごほんと一つ咳払いし「春が来たな!」と宣言しました。


「はぁ。まぁ……そうですね」

『そんなわけで卵狩りをするぞっ!』


 卵狩り?

 森の番人様の言葉にミエラ以外の三人は首を傾げ、ミエラだけが「ちゃまご!!」と嬉しそうに声を張り上げました。


『ミエラ、ノリノリだな』

「ミエラ、最近卵料理大好きだから」

『そうなのか』


 森の番人様曰く、この森にイースターエッグを沢山ばらまいた。それをお前らは探して見付けてエッグハントだ、という事らしい。

 森の番人様は楽しそうに笑います。


「イースターって何?」

『いい質問だなスエラ。イースターというのは復活祭の事だ』


 死んだものの復活を祝うお祭り、イースター。それはここよりずっとずっと遠くにある国の大切な大切な行事の一つ。


『イースターは満月の日から数えて今日この日。森の中は私の結界があるから安全だ。各自、イースターエッグを存分に狩って来い!!On your marks!……』


 森の番人様の唐突な「よーい……」のかけ声にアシュリーンとスエラは慌てます。ミエラはきちんとスタートの体勢。


『Go!!』

「きゃはぁぁぁぁーーっ!」

「ちょ、ミエラ!!」

「スエラミエラ!!ばかっ、一人で行くなっ!」


 ミエラは走りだし、スエラとアシュリーンはそれを追いかける形で森の奥深くへ。

 ですがエシュリーだけはその場から動こうとはしませんでした。


『エシュリー、お前も行け』

「僕はいいです。それより……このイースターのエッグハントってもしかしてリシャの企みですか」


 じとりと自分を見るエシュリーに森の番人様はにやりと笑います。それが答えでした。


「やっぱり。可笑しいと思ったんだ。森の番人様から手紙が来るって言うのも、アシュリーン達と一緒にやけに僕までここに行かせようとしたのも」

『リシャは心配していたぞ?お前が全く外に出ようとせず家の中で本ばかり読んでいる、とな』

「…………」

『外に出て、自分の知らない時間を見るのが怖いのか?』


 エシュリーが石になっていた時間。その時間、エシュリー以外のものは止まることなく進み続けていた。変わった景色に変わった人々。日常だったものが、もうそこには無い現実。


『エシュリー、復活祭はお前のためのものでもあるんだぞ』

「……二、三個取ってくればいいですよね」


 観念したのか、そう言ってエシュリーも森の中へと一人歩いていきました。森の番人様はそれを見送り、そして『私も行くか』とその場から姿を消しました。






 ミエラは一人、森の中を意気揚々と進みます。


「ちゃっまごっ、ちゃまっご、ちゃまごー!みえらのちゃまごっー!!」


 ミエラはきょろきょろと卵を探しますがなかなかイースターエッグは見付かりません。しゅんとしてしまうミエラ。そんなミエラの前に、何処からかやって来た一匹の兎が鼻をヒクヒクさせながらミエラの傍に近寄ってきます。そして不思議なことにその兎はミエラを見てその小さな口で語りかけてきたのです。


『君、ミエラだよね』

「うしゃぎ!」


  ミエラは見たことの無い喋る兎にキラキラとした瞳を向けます。


『一番小さな子、ミエラ。君はまだ小さいから特別に僕がイースターエッグの沢山ある場所まで案内してあげる。着いてきて』


 兎はそれだけ言うとぴょんぴょんと跳ね走っていきます。ミエラは走っていく兎を見て嬉しそうにそれを追いかけるのでした。



 一方その頃スエラの方は。


「ミエラを見失っちゃった……。でもきっとアシュリーンお兄ちゃんと一緒だよね」


 スエラは一人てくてくと森を進みます。イースターエッグを探して早く帰ろう。そんなことを考えながらスエラは森をさ迷い歩き、最終的に辿り着いた場所は果ての全く見えない広い広い花畑でした。


「うわぁ……!綺麗」


 スエラは花畑の中ゆっくりと足を進めます。すると何処からか小さく内緒話をする声が聞こえてきました。


「アタチ、みちゃったんだわよ」

「みた」

「みた」

「それはホントのはなしデシカ」

「ホントだわよ。むこうさんのその庭はハナで溢れていたんだわよ」

「ここより」

「ここより」

「そんなバカに」


 その声は一体何処から聞こえて来ているのでしょうか。スエラは声の主達を探しますが、全くその姿を見つける事ができません。


「一体誰なの?」




 そしてアシュリーンはというと。


「スエラ、ミエラ……大丈夫かな」


 アシュリーンは妹達二人が心配で心配で仕方ありませんでした。森の番人様が結界を張っているから大丈夫だとは言ってはいても、妹達二人はまだ幼い。きっと森の中何処かで怯えているはず。


「早く見付けてやらないと」


 ですが妹達よりも先にアシュリーンが見付けてしまったものがありました。それはイースターエッグ。しかもそこにあったイースターエッグ達はカラフルな卵に手と足が生えた不気味な生き物と化していて。

 不気味な生き物《イースターエッグ》は自分達を見ていたアシュリーンに気付きます。


「……う、やな予感しかしない」


 アシュリーンのいやな予感は的中します。イースターエッグ達は徐に「On your marks!」の体勢を取り始めてしまったからです。


「げっ、嘘だろぉ……」


 アシュリーンが呟くと同時、イースターエッグの大軍はアシュリーンに一斉に襲いかかって来たのでした。


「今日俺丸腰なんだけどぉ……っ!!」




 そしてその頃のミエラ。



「きゃゎーーっ!!ちゃまごぉぉっー!!」


 大量のカラフルな卵、イースターエッグがある風景に興奮を隠せずミエラはその場でぴょんぴょんと飛び跳ね回ります。


『ミエラ、早く拾おう』

「うーっ!!」


 ミエラは卵を拾い始めました。一つ、二つ、三つ。ですがミエラの小さな体では卵を抱えるのには四つほどが限界。それ以上拾おうとしたミエラの手から一つ、また一つと拾う度に卵は転がり落ちてしまいます。ですがミエラはそれに気付いているのかいないのか。一心不乱に卵を拾い続けます。


『ミエラ、ミエラ。落としてるよ。おいコラ』


 そんな兎の言葉にも気付いているのかいないのか。ミエラは黙々と卵を拾い続けます。


『ミエラ、ミエラって。ねぇ、この篭をつかいなよ。って言うか使ってよ、お願いだから』


 兎はミエラに置いてあった篭を指し示します。


『篭を使った方が沢山あつま……ぐぇっ』

「うしゃぎしゃんっ!」


 ミエラは兎をぎゅっと抱き締めました。兎は苦しそうにもがきます。


『うっ、こ、これはありがとうな気持ちって事だよね。うん。分かった。分かったよミエラ。君の気持ちは分かったからお願いだから離してくれないかな。ちょ、マジメに苦しい』


 そして兎とミエラは篭に沢山のイースターエッグを集めきりました。


『いやぁ集まったね。集まりすぎてミエラが篭を持ち運べるかどうか疑問だけどまぁ良かった良かった』

「うしゃぎさんっ、はい!」


 ミエラは篭から一つ卵を手に取って兎に差し出します。


『え?もしかして僕にくれるの?そんな別にいいのに……。でもまぁくれるってんなら貰わないと失礼に当たるよね。ありがとう……って違うんかい』


 兎に差し出された卵。でしたが、兎が受け取ろうとするとミエラはすいっと卵を自身の方へ戻してしまいました。そしてミエラは叫びます。


「ちゃまご!作る!」

『え、何なに。作るってまさか卵料理を今ここで作るって事かな』

「うんっ!」


 ミエラは兎にお礼に卵料理を作るというのです。


『ミエラの手料理が食べられるなんてとても光栄な事だよね。でもさミエラ。ここにはフライパンもボールもお箸も火でさえないんだよね。君はどうやって僕に卵料理を振る舞うつもりなのかな。うん。まぁ、何となくそうなるんだろうなと思ったんだけどもしかして僕に卵を割って出てきた黄身と白みを丸のみしろと?』


 ミエラは傍にあった石に卵を打ち付け始めました。ですがイースターエッグは固いのかなかなか割れてはくれない様子。


「うーー!!」


 カンカンカンカンッ!


『ミエラミエラミエラ。そんながむしゃらに卵打ち付けてたら端から見たら怖い子に映っちゃうよ。というかさ、ミエラそれ普通の卵じゃなくてイースターエッグだから割っても中から出てくるのは黄身と白みじゃなくて……』


 ガンッ!という一際大きな音と共にイースターエッグはついに割れ、中からポロリとボールの形をしたチョコレートが出てきました。


「…………?」

『うん。あのねミエラ。イースターエッグっていうのは普通の卵じゃなくて、中にはお菓子とかオモチャとかが入ってて子供達が大層よろこぶ……ってミエラ、お願いだから僕の話を聞いてくれないかな』


 ミエラは兎の話そっちのけでまた卵を石に打ち付け始めました。コツを掴んだのか、卵は二、三回ほどで割れてはくれますが中から出てくるのはオモチャやお菓子ばかり。

 何度かそれを繰り返し、ついにミエラは卵を割る手を止めてしまいました。


『えと……。ミエラ、大丈夫?』

「…………ふやゃぁあぁぁぁぁぁちゃまごぉぉぉぉぅぉぉえぉーゎーぉぉぉっ」


 ミエラ、大号泣。




 そしてスエラは。


「ね、おハナなんだわよ」

「ハナよ」

「ハナね」

「ハナでしょ」

「……き、気持ち悪い」


 スエラは声の主、小さな小さな小人達とともにお花畑よりもいっぱい咲いている『おハナ畑』にやってきていました。そこには沢山のハナ、いや『鼻』が咲いていて。


「ハナがいっぱいなのよ。悔しいのよさ」

「負けた」

「まけだ」

「そんなバカに」


 小人達は悔しがります。ですがスエラはこのおハナ畑よりも先程のお花畑の方が断然素晴らしいと思い小人達に言います。


「私はさっきのお花畑の方が好きだけど」

「そんなバカに」

「スエラはバカでしか」

「バカ」

「カバ」

「……失礼すぎる」


 そんなスエラの前でおハナ畑のハナ達が風にそよられ揺れ動きます。しかしスエラは風を感じません。何故ならそれはハナ達の呼吸だったからです。


「ハナ息だわさ」

「ハナ息」

「息」

「素晴らしいデショ」

「やっぱりやだぁぁぁ!」




 アシュリーンは。


「かったい……っ!」


 襲いかかって来たイースターエッグ達。それらをアシュリーンは拳や蹴りで払い除けます。ですがイースターエッグ達のあまりの固さにアシュリーンの手は赤くなってきていました。


「全然割れないしっ……」


 払い除けても払い除けてもイースターエッグ達はアシュリーンに襲いかかって来ます。これでは拉致があきません。そんな時、何処からか吹いてきた一陣の風。感じた覚えのあるそれに、アシュリーンは姿が見えるよりも先に叫びます。


「森の番人様!」

『アシュリーン、楽しんでるか』


 にやりと笑顔を浮かべ薄紫色の髪と赤い瞳の森の番人様はアシュリーンに言います。


『運動が好きなお前のための特別仕様だ。どうだ?』

「っ、どうだもこうだも無いですよっ!今日俺丸腰なんですよっ!こいつらめっちゃ固いしっ」


 手も足も痛い。いい加減逃げたくなってきたアシュリーンであった。


『丸腰……そういえばそうだな』

「えっ!?いま気づいたんですかっ?」

『よし分かった。ちょっと待て』


 そういうと森の番人様は徐に小型のナイフを取りだし、自身の薄紫色の長い髪を纏めザクリと切ってしまいました。


「…………っちょ!?」


 そうして切られた森の番人様の髪はしゅるしゅると、編み込むかの様に一つの形となっていきます。その形は『剣』。

 髪は原型をなくし、森の番人様の手には赤紫色の刀身の一振りの剣が現れました。


『アシュリーン、特別にお前にこれをやろう』

「ばっ……バカですかっ!!」


 アシュリーンは叫びます。


「何で切っちゃったんですか!しかもそんな乱雑にっ!!」


 剣を差し出す森の番人様でしたがアシュリーンは剣を受け取るよりも先に、森の番人様の切られて短くなった髪を触ります。


「あぁっ、こんなに短くなっちゃってっ」

『髪はまた生えるだろ』

「生えますけど、せっかくの森の番人様の綺麗な髪が!」

『…………』

「後でスエラに切り揃えて貰いましょうっ、というかそんなやり方で剣出さなくても、その小型のナイフで俺は十分だっ……森の番人様?」


 森の番人様はアシュリーンの首に抱きつきます。重さのない森の番人様のそれは、風がアシュリーンの体に纏わりついたかのようでした。


「あのー……?」

『たった一つのものとは良いものだなっ、アシュリーン』

「はぁ」


 にこにこと笑う森の番人様。頭の中はてなマークのアシュリーン。


『来るぞ、アシュリーン』


 そんな森の番人様の言葉にアシュリーンは剣を受け取り、イースターエッグ達を向かい撃つのでした。







「で、結局ちゃんとイースターエッグを取ってきたのはエシュリー兄さんだけなのね」


 西の森から帰ってきたアシュリーン達を見て、リシャは呆れます。子供達はイースターという御祭りを楽しんできたはず。なのに皆それぞれ手に持つ品が違うのです。


 ミエラは腕の中に喋る兎を抱いて。


「だってちゃまご……ちがうもん」

『ミエラのお母さん、お願いだからミエラに普通の卵をあげてくれませんか。そして僕を森に返して頂けるととても助かります。僕のお持ち帰りは厳禁なんだかっ、ら、っく……、苦しい!ミエラっ、死んじゃう!僕が死んじゃうからっ!力を緩めてっ!』


 スエラは奇怪なハナ束。


「スエラ……それは何なの?」

「お鼻のハナ束。……だ、だって引っこ抜いていってって言うんだもん!私もいらなかったケド、お花畑よりあふれているのは嫌だっていうんだもん!しょうがなかったんだもんっ!!」


 アシュリーンは赤紫色の刀身の剣。


「アシュリーン」

「いっ、いやだって母さん。俺もね、本当は置いて帰ろうとしたんだよ?だけどさ、コレスッゴク切れ味良くてさ、しかも森の番人様が言うには凄いのは切れ味だけじゃないって言うし。そんなの俺が手放せるわけないじゃんっ!色々試してみたくなるじゃんっ!」


 リシャは子供達それぞれの言い分を聞き、大きく大きくため息を吐きます。

 そして唯一イースターらしくカラフルな卵を手に持つエシュリーに声をかけます。


「それで、エシュリー兄さんは楽しかったの?」

「…………」


 エシュリーは手の中のイースターエッグを弄りながら「……まぁ、そこそこ」と顔を背けて少し照れ臭そうにそう言うのでありました。


 エシュリーが楽しかったのならまぁいいか。

 リシャは自信を納得させ、そう微笑むのでした。


子供たちを書くのがとても楽しいよ!!


以下、またしても(無断中の無断な)コピペのコピペ(申し訳ないっ☆)


■【タマゴ】【ウサギ】、もしくは【庭】の出てくる短編を書いて遊びませんかっ?■


そういう物体が実際に出てくるのでも、あるいは、暗喩(メタファー、比喩)としてタマゴっぽい、ウサギっぽい、庭っぽい、のでもO.K.です。


タマゴ、ウサギ、庭は、全部使っても、ひとつでも大丈夫です。

キーワードにして下さってもよいですし、あるいは、脇役的な使い方でもO.K.


もしも台詞を指定するなら、

「春ですね(だね)(だな)」

「その庭は、花で溢れていた(いる)」

「走っていくウサギを見た」

でしょうか。こちらも、全部でも一部でも。

語尾や言い方などはアレンジ・変更可

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― 新着の感想 ―
[良い点] 葉月さま、素敵な物語、ありがとうございました!((o(^∇^)o)) 文字数の割に(!?)読みやすく、特にちびっこたちの可愛い振る舞いに、ぐいぐいと引き込まれて、気づけばエンディングテー…
[一言] アシュリーンと番人様のやりとりにニヤニヤしました。 エシュリーの前回からのその後が知れて良かったです。 不思議な童話の世界観で、読んでて楽しかったです^ ^
2016/03/27 10:00 退会済み
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