異世界から生中継
はーい、みんな!こんにちは。
俺、神埼蓮。25歳、独身。フツーの会社員。
この前出張で客先からの帰りに、山のてっぺんにある神社に寄ってお参りしたんだ。仕事が取れますようにって験担ぎにさ。で、ちょっと催しちゃったからついでに側にあったトイレに行って用を足して外に出てみたら、なんか知らないとこに出てきちゃったわけ。
しかもトイレに雷が落ちてトイレはなくなるし、しばらくボウっとしてたんだけど、人の気配が全然しないんだ。人っ子一人いないの、ホントに。
埒が明かないから山を降りてみたわけ。
スマホを見ても電波も入らないし、なんか嫌な予感がしてしょうがない。アプリのマップも使えないし、現在地が分からないって。今までスマホにどれだけ頼ってきてたんだって凄い実感したね。神さま、もうスマホばっかりしないから許してくださいって何度祈ったことか。
山を下ろうにも、舗装された道はないし、服はびしょ濡れで風邪ひきそう。
降りたところで、さっきてっぺんから見た感じずっと森が続いてる。
なもんで、ますます自信が確信に変わっちゃってる。
ここ、異世界だって。
ドキドキワクワクしてるかって?
俺、もう25歳だし、そんなんで興奮する歳じゃなくなったんだよね。今はもうひたすら家に帰りたいよ。家に帰って風呂入ってゆっくり寝たい。
え?じゃあ、今何してるって?
今はなんか狼みたいなやつに襲われてるところ。日本じゃ狼なんていないから絶対ここ日本じゃない。
まじヤバい。死に物狂いで走ってるんだけど、もう追いつかれそう。
身体が凄い熱くなってるから、逆に頭が冷静になってこうやってみんなとお喋り出来るし、この先自分がどうなるか分かってる。
お前らと話してなかったら、もう少し長く生きていられたかもしれないけど、どっちにしろ遅かれ早かれ食べられる運命だったってことには変わりないね。
突然、
「ガッ」
俺は後ろから狼に噛みつかれて背中に物凄い熱さを感じた。後ろから覆い被さるように飛びかかる狼にも構わずひたすら走っていたけれど、さらに横からもう1匹の狼がタックルを食らわせてきて、遂には吹き飛ばされてしまった。
3匹は俺を囲むようにうろうろと回っている。俺がもう動けなくなるのを確認しているようだ。
「ここまでか」
今頃になって傷みがやってきて、それから
「まだ死にたくないよう」
涙がポロポロと零れた。今まで虚勢を張っていたけど涙と一緒に剥がれ落ちてしまったみたいだ。
それから狼が一斉に跳びかかって来るのを見て俺は死を覚悟した。
その時、ドォオオンと物凄い音と火の玉が飛んできた。火の玉がいくつも狼に向かって飛んで行き、狼に直撃したのが分かった。で、狼が黒焦げになったのを見て気が抜けたみたいで意識を手放しちゃったんだ。
だけど気絶する前に、綺麗なお姉さんの姿がこちらに向かってくるのが見えたような気がした。