プロローグ1
夢を見ていた。
月明かりの中、目の前にはもう何年も訪れていない祖父と一緒に住んでいた家があった。門に掛かった表札も、玄関横にある鉢植えも、すべて記憶にあるままそこにある。
敷地に足を踏み入れる。本当にあの頃のままだ。
視界が一瞬暗転し、景色がが切り替わる。どうやら入り口から裏庭へと移動したらしい。
「お前さんとはかれこれ半世紀以上一緒にやってきたが、それもそろそろお仕舞いか」
背後から聞こえた声に振り向けば、縁側に腰掛けた祖父がいた。祖父は何をするでもなく、一人で月を見上げている。
「なに、自分の死期くらい察するさ」
カラカラと笑う周りに祖父以外の人影は感じられない。おそらく、祖父は『彼』と話をしているのだろう。
「私が死んだらお前は寛人の所へ行くだろう。見ていればわかる、やはりあれは私の孫だ。お前とも気が合うだろうよ。」
会話の内容から、今見ている光景が祖父の亡くなる少し前の出来事だと察した。
「天城のばぁさんもいい歳だ。おそらく数年のうちにアマテラスの覡が代わる。そうなればきっとまた、一波乱起きるだろう」
目を閉じた祖父の表情からは憂いが感じられた。確かに祖父の言う事は、まもなく現実になるだろう。
不意に、景色が白み始めた。あたりを見渡せば、徐々に遠くが見えなくなってきている。これが夢ならば、もうすぐ目が覚めるということだろうか。
「私は一応お前に仕える身なのだろうが、同時に掛け替えの無い友だとも思っている。」
「寛人は優秀だ。私の教えたことをしっかり身に着けた。きっと私以上にお前の力を引き出せるさ。
先達としては何も心配していない。だからこれは祖父として―――」
最後に残った縁側に座った祖父は朗らかに笑った。
「孫を頼む。我が友、建御雷よ」
そうして、俺の意識は現実へと戻った。