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クリスマスの串刺し公

作者: 蒼峰峻哉

メリークリスマス! 蒼峰峻哉です。

例年通り、今年もクリスマス短編を書きました。

恐らく今までで一番訳の分からなく面白くもない話な気がします。ノリと勢いで書き切りました。

毎回季節物の短編をふざけて書く場合、書きながら虚無感に襲われるのですが、今回は何か哲学に目覚めそうでした。

 現代における吸血鬼の祖と呼ばれる偉人、ヴラド三世。十五世紀ワラキア公国の君主として力を振るった彼は生前、対立するオスマン帝国の者のみならず、数多くの自国の民や貴族までを串刺し刑に処したことから〝串刺し公〟と呼ばれ恐れられていた。

 時は流れ二〇一四年。彼の死後約五四〇年が経過した。正確には〝人間〟として死後五四〇年が経ったと言うべきか。彼は吸血鬼として現代に今も生きているのだ。

 普段は夜の世界を暗躍する彼だが、一年の内のある日だけ、表立って人々の前に姿を見せることがある。

 ヴラドはクリスマスを間近に控える一二月の一九日に亡くなった。そのためクリスマスに対する執着が尋常ではない。故に彼は、この日だけは人前に姿を現す。

 だがそれは、人間達とクリスマスを無邪気に楽しもうとしている訳ではない。キリストの生誕を祝う聖なる日にイチャコラするカップル達に裁きを与えるために現れるのだ。もっと言えば吸血鬼になってからというもの色恋沙汰とは五百年以上無縁なので、公然とイチャつく連中が腹立たしいのだ。平たく言えば嫉妬だ。

 さて、彼が現れる国が何処なのかと言うと、クリスマスにカップルと過ごすのが通例となっている日本がそのターゲットとなっている。そして今日こそがそのクリスマス。

 今年もヴラドがやってくる――――。





 雪が舞い降るホワイトクリスマス。夜になれば街にはカップルが溢れ大きな賑わいを見せる。

 イルミネーションの輝きと人々の話し声で視覚、聴覚ともに賑わう街の中、何処からやってきたのか。季節に不釣り合いな真っ赤な薄手のコートを纏った青年が、装飾の施された人の背丈ほどクリスマスツリーを肩に乗せて立ち尽くしていた。

 男にしては長い、肩辺りまで伸びた髪の下に見える赤く輝く瞳と、にやりと笑うと顔を見せる鋭い犬歯は、どう見ても怪しく辺りの雰囲気とは不釣り合いなものだった。

 行き交う人々からはコスプレと思われているのか。皆、彼の方へ目を向けることはあってもそれ以外のことをしようとするものはいない。変わった男だ。寒くはないのだろうか。その程度の認識だった。

 男はおもむろに担いだクリスマスツリーをくるくると回し出す。まるで槍か何かを扱っているかのようなクリスマスツリー捌きに、往来の人々は初めて足を止めて彼に目を向けていた。

「ダアアアアアッ!!」

 男はツリーの先端を人々の方向に向け、思いきり地を蹴った。回転のかかったツリーが近くのカップルの内、男の方の腹に深々と突き刺さる。

 ツリーに滴る血液がその手に伝わる。男はそれを舐めると恍惚とした表情を浮かべた。

 そう、彼こそが吸血鬼ヴラド三世。吸血鬼となり心身共に若々しくなった故に、カップルに対するどうでもいい嫉妬を募らせている偉大な吸血鬼だ。

「出た! クリスマス名物迷惑吸血鬼だ!」

 毎年クリスマスにこの辺りに現れては大暴れしていくため、ヴラドはここらの地域では有名な存在であった。彼に会えばロクな目に遭わないのは必須なため、クリスマスには誰もが彼に遭遇しないことを祈っている。

「クリスマスはお前らが乳繰り合う日じゃねぇ!!」

 ツリーに男を貫いたまま、ヴラドは逃げる人々、主にカップルを狙って突進を続ける。次々と貫かれていくカップル達。圧倒的突進力。ホワイトクリスマスは瞬く間にレッドクリスマスへ早変わりする。

 一見とんでもない大虐殺だが、全員気絶しているだけで命に別状はないから安心だ。完全に腹にツリーが突き刺さって血まで出ているが、それでも大丈夫なものは大丈夫なのだ。彼等はただ、クリスマスをヴラドの身勝手に付き合わされ棒に降るだけだ。実に迷惑な話である。

「キリスト舐めんな!」

 キリスト教徒であるヴラド的には、クリスマスは家族で過ごすなり教会に行くなりするのが普通。キリストの誕生を祝う日にヨロシクやってる連中に対するヴラドの怒りは最高潮に。

 実際のところはやっぱり個人的な鬱憤晴らしのためで、たいして深いことは考えていないのであった。

「お前何してる!!」

「お前クリスマスに仕事してるのかよ! ざまぁみろ!」

「ほっとけ!」

 騒ぎを聞きつけてやってきた警察官に向け、ヴラドからの無慈悲な一言。警察官だから仕方がないが、彼女と別れて久しい彼にとっては胸の刺さる一言だ。

 結局警察官の制止に聞く耳も持たないヴラドは、やってきた警察官をツリーのフルスイングでホームラン。メジャーリーガーもびっくりな大ホームランだ。

 ヴラドはもう十分人を貫いたクリスマスツリーをその場に立てる。突き積まれた人々はツリーの飾りのようだ。

 もう一本のツリーを何処からともなく出現させたヴラドは、その赤き瞳と牙を輝かせ、次なるターゲットに狙いを定める。

「こちとら五百年以上なんもないってのにお前らは!!」

 遂に本音が口に出た。建前を並べてはいたが、結局はこれが彼の行動の全てだ。その巻き添えを食らう人々は彼のことを訴えれば確実に勝てるだろう。

「じゃあ誰か良い人見つける努力しろよ!」

 逃げながら誰かがそんなことを言った。至極まっとうな意見だろう。

「うるせぇ! お前らが誰か紹介しろ!」

 最早ただの我儘。そもそもクリスマスツリーで人を突き刺してくる不審者なんぞに女性を紹介する奴はいないだろう。もっと言えば、自分から女性を紹介してくれる可能性のある周囲の人々を襲っているのだから本末転倒なのである。

「……一通り終わったか」

 ヴラドは一息つくと、握っていたツリーをまたしても地面に突き立てた。周囲にそびえるクリスマスツリーは優に十を超えており、その全てに人間が突き刺さっている。

 繰り返し言うが、彼等は全員生きている。ただ腹に穴が開いて串刺しにされているだけであって、全員無事である。放っておけば勝手にツリーから抜け出していくだろう。何故無事なのかとか、そういうことは聞いてはいけない。強いて言うならギャグ補正とかいうのだ。

 そろそろ場所を移そうか。ヴラドがそう考えていた時、何処からか女性の怒号が聞こえてきた。

「まああああたアンタかクソ吸血鬼ィィィィ!!!!」

「げぇ!? 出たなエセシスター!」

 イルミネーションの輝きの中を陸上選手張りの速さで駆けてきたのは、修道服を身に纏った金髪のシスターだ。可愛らしい外見にそぐわぬ、神に仕える者とは思えない言葉遣いの彼女のことを、ヴラドは『エセシスター』と呼んでいる。

 彼女はセシリー。この街の教会に仕えるれっきとしたシスターなのだ。彼女は毎年、暴れるヴラドの前に現れては彼をボコボコにして討伐している。そのため、ヴラドにとってセシリーは因縁深き存在。今年こそは返り討ちにしてやろうと思っているヴラドだが、顔は引きつり足が小刻みに震えている。明らかにビビッているのであった。

「俺だから良いものの、毎年毎年エグイことばっかりしやがって……。去年のなんか今も夢に見るぞサディストが!」

「眼球とニンニク入れ替えたくらいでギャアギャア喚くんじゃないわよ、アンタ吸血鬼でしょうが」

「吸血鬼だからって何でもやっていい理由にはならねぇだろ!」

「憂さ晴らしの為だけにカップル襲ってるアンタが言うな!」

 それを言われると閉口せざるを得ないヴラドであった。

「と、とにかくだ! ここで会ったが百年目よ。今年こそは」

「オラァ!!」

 ヴラドが悠長に話している間に一気に距離を詰めてきたセシリーが、彼の股間に思い切り蹴りを浴びせた。

 吸血鬼になったとしても急所は健在。声にならない悲鳴を上げながら、ヴラドは顔を真っ青にして膝から崩れ落ちる。

「オマ……、オマエ……。ソレハ、ダメダロ……」

「知らないわね。先手必勝って言葉知ってる?」

 うずくまるヴラドへ、セシリーは容赦なく追い討ちをかけていく。

「天にまします我らの父よ。汚らわしきこの者に罰を与えることをお許しください」

 言い終わってから行動に移すのではなく、言いながらヴラドの身体にナイフで傷を付け、そこにすりおろしたニンニクを擦り込んでいくセシリー。股間の激痛に加え、ただでさえ弱点のニンニクを傷口に擦り込まれたヴラドは全身をビクビクと痙攣させている。

「これで終わりっと」

 そうして最後にセシリーは、うずくまって無防備になっているヴラドの尻に人の腰辺りの高さの十字架を突き刺した。

 ヴラドは泡を噴きながら白目を剥き、涙まで流している。見るに堪えない。

「後はこいつをコンクリ詰めして海に沈めるだけね。まったく毎年面倒な奴……」

 完全に意識を失っているヴラドは首輪を巻かれ、セシリーはそこに繋がれた鎖を引っ張り彼を引きずる形でその場から立ち去って行った――――。




「……結局こうなるのか」

 吸血鬼特有の回復力のおかげでコンクリ詰めにされる直前で意識を取り戻したヴラドは、命からがらセシリーの手から逃げ出し高層ビルの屋上から街を眺めて呟いた。ヴラド自身随分暴れたと思っていたのだが、街はカップル達で相変わらずの賑わいを見せており、先ほどまでの騒動は嘘のようだ。

「毎年邪魔しやがってあのエセシスター……。来年こそは泣かしてやる……」

 ヴラドの決意は固い。その表情は真剣そのものだ。未だに股間を抑えてプルプルと震えてはいるが。

 彼は気付いていない。クリスマスに彼が暴れる理由が、今ではカップルに対する嫉妬からセシリーを呼び出すための手段に変わっていることに。

 ある種そういう意味では、ヴラドは彼女のことが気になって仕方がないのかもしれない。こういうパターンから恋に発展していくこともあったりするが、彼らの場合はまずあり得ないことだろう。

「来年まで首を洗って待ってやがれ」

 踵を返し、ヴラドは街の賑わいを避けるように闇に向かって歩みを進める。尻に十字架を突き刺したまま――――。

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― 新着の感想 ―
[一言] カッコイイ見た目だったり吸血鬼となり現代まで生きているヴラド公爵という現代ファンタジー系でかなり濃い役割を果たしそうな存在なのにやる事はカップルの討伐というその自分勝手さ、そしてその行動が示…
2014/12/25 18:53 退会済み
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