お酒モード(メリア、ユミア、フランの場合)
「あー美味い。美味すぎる」
俺は目の前の皿に盛られている豚肉の料理に目をやる。豚肉の表面は肉汁によって程よく光り、切断面は灰色できちんと中まで焼けていることを証明している。そしてその切断面から先は今まさに俺が咀嚼しているわけで。この味がこの肉から出ていることを実感すると、この肉を見ただけで次から次へと食欲がわいてきている気さえする。
「あーやばい。この店あたりやわ、ホンマ当たりやわ」
そんなエセ何とか弁みたいなのがでるくらいテンションが上がってる俺だ。
「そうですね。値段も手ごろですしこのチーム最初の依頼達成の祝杯の場としては、なかなかにいいのではないかと」
そう言いながらながら色とりどりの野菜と鶏肉の入ったサラダを食べるユミア。その姿はまるで貴族に付き従う礼儀正しきメイドという感じだ。というか、服装からしてそうとしか見えないのだが……
「そういえばユミア。お前いつまでその格好でいるんだ?」
ふと、俺は気になった。旧王都から今までメイド服で同行してくれているユミアだが、昔はメイド服なんて着ていなかった。もっと軽装で、身軽な服装だった。
「えっと、必要に駆られるまでは特に服を変えようとは思っていませんよ。それにこの服、意外と動きやすいんですよ?」
微笑みながらワンピースのスカート部分をひらひらするユミア。
「う~ん、全然そんな風には見えないけどなぁ……」
そう漏らしたのは俺の横にいるフレイだ。いやぶっちゃけ、俺もフレイに同意見だ。コスプレとかでよく見るようなタイプならともかく、ひざ下まで丈があるタイプのものを見て「うわぉ! めちゃめちゃ動きやすそう!!」とか、俺は思えない。
「ホントですよ? 戦闘でも問題なく動けますし、物を隠し持つことも容易で、割と便利です」
とても、とてもいい笑顔でそう言ったユミア。
「そ、そうか……」
何か迫力のようなものを感じた俺は、それ以上何も言おうとは思えなかった。
「そらぁ~、らいて~?」
「抜け駆けはずるい……私を抱いて?」
「ダーメーでーすー! マスターは今夜は私とお楽しみなんですー!」
……えーっと? ちょっと待っててな、何でこんな状況なのか思い出すからさ。
確か……そう、俺たちが食事を始めて二時間は過ぎようかという頃だ。メイド服の暗殺術マスター―――ユミアが酒を頼みだした。最近飲んでないから飲みたいとか言ってな。まあそれ自体は良いんだけど……あいつは酒にそんなに強くないくせに三杯もおかわりを飲んでしまった。そして今は頬が火照り若干ろれつが回っていない。そして最近の口調が解けて昔の口調でさらっと俺に夜の相手を求めている。いや、なんかこいつから直球で言われると殺されるかもしれないって気がする……気がしない?
次に金髪孤族―――メリアだ。メリアはユミアが酒を頼んだのと同時に酒を頼みだした。飲んだ量はユミアの半分かそれ以下だ。
それでも、酔った。前から極端に酒に弱いから酔った。……いや、もしかすると実際の歳が十歳くらいであるってことが原因の可能性とかもあるにはあるの、か? まあ、ぶっちゃけこれは俺にはわかんねぇな。
そんなメリアは極端に酔って完全にろれつの回らない感じで俺に同衾を求めてるかわいいよちくしょう。
そして最後に銀色の髪を持つ剣ちゃん―――フランについてだ。
彼女については、あー、まぁ、ご愁傷様って感じしかしないんだなこれが。なんでって、ユミアとメリアに飲まされたんだよ、無理やりにな。
知っての通りフランは武器だ。意思持ちの武器だ。だから食事とかそういう事は必要はない。必要はないがしても別に問題はないわけだ。だから酒を飲んでも問題ない、と説得(?)されながら勢いに流されて飲まされた。……その量は二人の飲んだ分量の合計の二倍とか、そんくらいの量だ。そんくらいの量の増されながらもまだ普通に立っているし話せているからすごいとは思うのだけれど。それでも酔っているのは明らかなほど顔は赤く、そしてはっちゃけたようなことを言ったり、しようとしたりする。
まあ、今夜二人でやらなきゃいけないことがあるのは確かではあるんだけどな……
ちなみにディニギルはユミアとメリアよりも飲んでいるにもかかわらず、まだ酔っているようなそぶりは無く、フレイに至っては飲んではいない。そして俺も飲んでない。流石に既に酔っている奴がいる以上俺は飲む事はないだろうな。だって全員が酔ってしまったら後が大変だものな。
……実のところ確証はないんだけどディニギルあたりはめちゃくちゃ酒に強そうな気がするんだけども。
「……まぁすぅたぁ!? 聞いてますか!?」
「うおっ! なんだよ近くででかい声出すなよ!」
耳元で鼓膜が破れんばかりの大きな声を出されて思わずフランに怒鳴った。
「だって聞いてないじゃないですか私達の話! 駄目ですよちゃんと聞いてなきゃ! 最終的にマスターに選んでもらうことになるかもなんですからね!」
「いや、選ぶって何をだよ」
若干どういうことかわからなくもないけどここは聞くに限る。
「だからぁ、今日は誰と一緒に寝るんですか!」
「俺一人だけど」
「ちがふでひょ~、ほらはあらしろねるろ~」
「私と一緒にキャッキャウフフフのグチュグチュネチョネチョギシギシアンアンでしょ?」
「お前ら少し黙ってろ!!!」
駄目だこれ収拾つかねぇぞ……
思えばメリアは用とすぐろれつが回らなくて何を言ってるのか読み取るのも一苦労だったし、ユミアは酔った時の言動がいろいろとこう、アレだったっけな……
「マスタぁ? 別にいいんですよ? お二人に遠慮せずに私と寝るって言ってしまえば全て終わりますよ?」
「ちょっおま……」
フランがそう言って、俺の腕に自分の腕を絡める。俺の体に密着したフランの体はかなりの量の酒を飲んだのにもかかわらずあまり酒臭くなく、むしろ彼女の匂い、というかそんなものがふんわりと伝わってくる。フランは俺の腕に絡めた腕はそのままにさらに俺に引っ付いてくる。そしてフランは自分の下腹部を俺の太ももへと擦り付けるよう……
「流石にそれはダメだろ!?」
「ふぇ?」
俺は堪らずフランを引き剥がした。
「えー、なんでですかぁ!?」
「いや流石に今のはダメだろうと判断したまでなんだが」
抗議を続けるフランを適当にいなしていると、ふとユミアがこう言った。
「……流石に今回は負け、か」
「は? いやユミアお前何言ってんの?」
「そうれ、ほれはまへまへ、らいはんひまう」
「メリアまで何言ってんの……」
(メリアは半分呂律的な意味も含めて)よくわからないことを言いながら席を立った。
「先に宿に帰ってる」
「ひはらいよろひく~!」
「あっおい! ……まじで帰りやがったな」
ユミアは確かな足取りで、メリアは若干ふらつきながらも確かに宿の方向へと帰っていってしまった。
「てか、支払いよろしく、て……俺が金を管理してるって立場じゃなかったらぶん殴りたくなる台詞だな」
「まあまあ、お疲れ様」
そう言ってディニギルが樽ジョッキをこちらに突き出した。
「ああ、うん、なんかありがと」
ぶどうジュースの入ったコップで返した俺は改めてディニギルを見る。まるで酔った様子も無く樽ジョッキの中身をあおっている。
「ディニギル、お前ってやっぱかなり酒に強いほうなのか?」
「うーん、そうかもね。あんまりほかの人とお酒を飲むことがこれまでなかったから何とも言えないかなぁ」
言って薄く笑いながら酒を飲むディニギル。その姿からはなんだか哀愁みたいなものが漂っていて……
「……なんか、ごめん」
「へっ?」
「いや、もしかして今まであんまり人と一緒に何かをしたことがないタイプなのかなって思って……」
それで俺が傷をえぐるみたいな感じのことをしちゃったんじゃないかと思って思わず謝ってしまった。
「あはは、別にそういうわけじゃないから大丈夫だよ」
俺の言っていることの意味を完全に把握しているかどうかはさておき、ディニギルは笑ってそう言った。
「そういえば、フレイちゃんはお酒を飲んでないよね」
「ああ、そうだな。特に飲むなとは言ってはないし、飲むのが進まないとか、そんな感じか?」
ディニギルの言葉であまり発言をしていなかったフレイに目が向く。ディニギルの言った通りフレイは酒に一口たりとも口をつけていない。実のところさっきからフランがあれやこれやと飲ませようとしたりしているんだが、頑なに飲もうとしなかったのもあって、俺も少し気になったので興味本位で聞いてみた。
「うーんと、多分そんな感じ、かな?」
「多分?」
「うぅん、なんていうか、ね。よくわかんないんだけどさ、私がお酒を飲むとなんかすごく変な感じになっちゃうような予感がしてるんだよ、ねぇ」
「なんだそれ」
「私にもよくわかんないんだけど、本当になんかそんな感じがするんだよ」
「ふぅん……」
「大丈夫ですよぉ、もし酔ってもマスターが優し~く介抱してくれますもん」
「俺頼みにするなよ……」
人に頼られるのは悪い気はしなけどこれはたぶん違う……
「……でも、そこまで言うんなら私も試しに飲んでみようかな」
「いや、別に無理に飲む必要はないだろ。まあ、本当に飲みたいってんなら止めないけどな」
俺がそう言うとフレイは少し逡巡して、
「ううん、今はやっぱいいや。また今度の機会に飲んでみるよ」
手元のコップに入っているぶどうジュースをちびちびと飲んだ。




