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影の勇者~2度目の異世界転移~  作者: yusaka
二章 異世界ネルミス
18/31

武器ではなく

「……やっぱ、ここの飯はうまいなぁ」

 『旅人の休息』の食堂、そこでステーキの肉を食いながら俺は呟く。

「そうだね。やっぱりどこと比べてもここが一番おいしいと思うよ!」

「何か、昔からここの料理は他の宿とは違う感じがしますよね」

 俺の呟きにそう同調するように言うユミアとメリア。

「まぁ、それがうちの宿の売りの一つだからね」

 そういいながら食堂の『関係者以外立ち入り禁止』みたいな扉から出てきたのはキーニアルだ。

「確かに。シンプルに言っちゃって飯がうまいのがこの宿の売りだもんな、キーニアル。それと、さっきぶり」

「売り、じゃなくて売りの()()だよ。それと、さっきぶり」

 そう言って俺の挨拶に答えたキーニアルは、こんなことを言った。

「さて、久しぶりの再会はもう済んだみたいだね」

「ん? 何のことだ?」

「私だよ、私」

 自己主張したのはメリアだ。

「あれ、キーニアル。お前メリアがこの町にいること知ってたのか?」

「まあ、この宿に泊まる事もあるから」

 特別料金で、と付け足したキーニアル。

「なるほど、そういうことか」

「ついでに、そこの青髪冒険者様もこの宿をごひいきしてくれてるよ」

 そう言って彼はディニギルを見た。

「その様子だと、さっきの決闘で打ち解けたみたいだね」

「ついでに同行させてもらうことになったよ」

 俺と同じステーキを食っているディニギルは、そう答えた。

「というより、さっきの決闘の事知ってたのか?」

「まあ、広場を破壊するほどの決闘だからね。さすがに耳に少しくらい届くよ」

「俺は破壊なんてしてないやい。やったのはディニギルだ」

「わざとじゃないんだよ。それに、戦闘をしたら破壊は意外と起こるじゃないか」

 確かに、戦闘をすればあれくらいの破壊はつきもの、か?

 ま、あれは俺への攻撃だったわけで別に破壊を目的としてやったわけじゃないからわざとじゃないのか。

「で? お前は何しに来たんだ、キーニアル」

 俺がキーニアルにそうふると。

「いえいえ、お得意様に新サービスのご報告を」

 などと言いながら(なぜか敬語で)恭しくお辞儀してきた。

「新サービス? なんだそれ」

「何? その新サービスって」

 俺とほぼ同時に、気になるのかメリアがそうせかすように聞いた。

「お風呂、ですよ」

「……お風呂?」

 キーニアルの言葉をメリアがそう復唱した。

「実は、ここ一年ほど、この宿の地下を掘り進めまして」

「ん?何でそんなことをしたんだ?」

 俺が疑問に思ってそう聞くと彼は指を振ってこういった。

「落ち着いて。それもこれから話しますよ。それで、何故地下などを掘り進めたのかと言えば、実は一年前、このミクアの町の近くに温泉を発見したのですよ。その時、私は思いました。この温泉をどうにかしてこの宿の営業(サービス)に取り入れたいと。それをこの宿の経営者、つまり父に相談してみました。すると、地下を作ってそこでお風呂を作ればいいのではないかと言われました」

「あ、それたぶん俺があの人に言ったことだ」

 俺がそう横槍を入れるとキーニアルは大きく頷いた。

「そう、それはかつてソラに教えてもらったことだと父は言っていました。そして、つい先日、その温泉を引いたお風呂が完成したのです! 今まで一般家庭では基本的には比較的高価な魔法具が無くては入ることがかなわなかったお風呂が、この宿ではなんと、1000(エレスト)ではいることが出来るのです!」

 ……と、まあ。こんなプレゼンテーションのようなものをキーニアルは終えて。

「っていうわけなんだけど。タイミングよくこの宿の恩人さんも来てくれたことだし、どうせなら一番最初に入って欲しいなって思ったんだよ」

 という言葉で締めくくった。

「というか、わざわざ敬語で話すことだったのか?」

「癖だよ癖。商売人としてのね」

 と、言ったディニギルに、メリアが言った。

「というより、よくそんなものが見つかりましたね」

「そんなものって?」

「温泉のことですよ。どうしてそんな、どこにあるかわからないものを見つけることが出来たのでしょうか?」

「さあ、そればかりは運と言うしかないね」

「だとしたら相当な運ですね」

「商売人には時には、運も必要さ。……で? どうする?」

「うん! 入る、入るよ!」

 そう聞いてきたキーニアルに、真っ先にメリアが答えた。

「別に断る理由もいないわけですし、いいと思います」

「お風呂なんてそう簡単に入ることはできないしね」

「私も入りたいなぁ」

「どうします? マスター」

 ほぼ満場一致の中、特に反対する理由もなく。

「ああ、別に構わないよ」

「そうかい。それじゃ、早速準備にかかろう。時間になったら呼びに行かせるからそれまで部屋で待機していてくれ」

 そう言われて俺達は、食べ終わった人から順に各々の部屋へと戻って行った。


 数時間後、宿の店員が俺の部屋にも来た。

「お風呂の準備が終わりましたので、ご案内いたします」

 そういった店員の後ろには、すでに俺、フラン、フレイ以外が全員いた。

「お風呂はどのくらいの大きさなのでしょうか?」

「そうですね、宿の部屋の大きさで言えば大体10×10くらいでしょうか」

「結構広いな」

「ですが男湯と女湯に分かれているので実際には10×5ほどの大きさになります」

「それでも結構広いですね」

 最初に質問したユミアがそう言った。

 確かに、宿の部屋は三人くらいまでなら十分な広さの部屋だといえる。実際、俺はフラン、フレイと一緒にいるわけだけど、それでも不自由さはあまり感じない。

「マスター、私たちはどうしたほうが良いでしょうか」

「とはいっても、お前はどうしたいんだ?」

「いえ、私はどっちでも良いのですが」

「私は入りたいよ!」

「……だ、そうだから、お前も付き添いで入ればいいんじゃないか?」

「そうですね。そうすることにします」

 自分から俺に意見を求めてきたフランの表情はとても嬉しそうだった。確か二年前、フランは始めて風呂に入ったときにとても気持ちよかったとか言っていたっけか。

 そう話をしているうちに階段を降り、俺たちは浴場の前へと着いた。

「とりあえず、入り終わったら、各自自分の部屋に戻るって事で」

 俺はそういって男湯の扉を開いた。女湯の方はメリアが先導して開いて入っていき、続いてユミアも入っていった。

(……ん? ふたりだけ?)

「ソラ、早く入ろうよ~」

 疑問に思った次の瞬間、俺は後ろから声をかけられた。

「マスター、どうかしましたか?」

 俺に声を掛けたフレイの後ろで、俺の表情を伺うようにそう聞いたフラン。……いや、どうしたもこうしたも、今僕の目の前にいる()()()のせいなんだけどね?

「僕は先に入ってるから」

 俺の横をディニギルがそういって通り過ぎる。奴が横を通ったとき、俺は見逃さなかった。

 あいつ! にやけてやがった!

「……お前達、何でここにいる?」

 疑問、少なくとも俺にとってはとてもありきたりな疑問を投げかける。

「ソラが入るのを待ってるんだよ」

「待って、どうなる?」

「一緒に入るよ?」

「いや入んねぇよ!」

「えぇっ!」

「いやびっくりすんなよ! むしろこっちがびっくりだわ!」

「でも私、ソラのお背中お流ししたいよ!」

「……お前、俺達とメリア達が別れた理由、わかってる?」

「男の子と女の子の違いでしょ?」

「わかってるならさっさと女湯の方に行けよ」

 俺が少し突き放すような口調で言うと、こう返してきた。

「でも、私武器だもん。男の子も女の子も関係ないよ」

「……お前。それは冗談のつもりか?」

「え?」

 自分でもとっさに言葉が出た。そして、止められない。

「もしそうだとしたらやめろ。確かに、お前は武器だ。フレクラエアという剣だ。でも……仲間だ。俺の、仲間なんだよ。別に武器とか関係ない。たとえ性別も、種族も、生まれた世界が違くても、仲間は仲間だ。そういう言動はやめてくれ。お前は武器でも、心を持ってるじゃないか。普通の武器は持ってないぞ、そんなの。その心は、女の子のものじゃないのか?」

 そういうとフレイは少し俯き、そして徐に顔を上げた。

「そっか、そうだよね。……ありがと、ソラ」

 微笑んでそういったフレイは、そのまま女湯へと向かった。

「……で、何でお前はここにいるんだ?」

「マスターが先程、フレイの付き添いで入ればよいのではないかと言われましたので、そのようにしようかと思いまして」

「お前、せめて止めてくれるとかしてくれないのかよ」

「実は、私も出来ればマスターのお背中をお流ししたいと思ったので」

 頬を少し赤く染めてフランは言い、女湯へと入って行った。

「……意識しちゃうからやめてくれないかな~、そういうの」

 頭をかきながら一人、呟いた。

 俺だって男だ。なるべく勘違いとかしないようにはしているが、どこかでそういうのに期待してしまっているところもあるだろう。頬を赤く染めてそんなことを言うってことは、もしかして俺のことが好きなのかも、みたいな勘違いを俺がしでかす可能性だってあるわけで。今のフランはまさにそれだと思う。

 大事なことだから二回思う。俺だって男だ。そういう願望だってあるさ。

(まあ、そんな勘違いはしないけどな)

 まさか、フランみたいな可愛い奴が、俺のことを好きになるとは思えない。明美や海華もそれに当てはまるな。まあ、あいつらが好きなのは総司か。ユミアは二年経ってさらに綺麗になってるな。コミュニケーションがやや苦手だった昔と比べてとても愛想がよくなったと思う。

 例外といえば、メリアくらいか。まああいつ、実際には……あれ、二年前が八歳位だったから十歳位か。普段覚醒状態だからそうは見えないあいつなんだけど、二年前に告白されたときはびっくりしたっけな。俺よりもっといい人はいるって言ったんだけど聞かなくて、そのまま俺にべったりくっついてきてたか。ちなみに、告白してきたときは覚醒状態の、しかも一番強いやつだったな。確か、空孤モード、だったかな?

「っと、そろそろ風呂に入ろうかな」

 すっかり考えてたな。なんか俺の独白みたいになってたな。みたい、というより、独白か。

 そうして俺は自分が最初に開けたはずの扉を、二番目にくぐって行った。

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