決闘と剣
「これから、ディニギル・サイハンとソラ・アオノの決闘を行ないます」
ミクアの広場、そこで俺とディニギルは向き合っている。
「決闘はどちらかの戦闘不能、または戦意喪失で決着とします」
審判役のユミアの声が広場に響く。周りにはギルドでのやり取りを知っている冒険者達、それと町の住人や商人達がいる。冒険者達はこの後どうなるのか、町の住人や商人達は何が起こるのかという好奇心からそれぞれ集まっているんだろう。なんか、結構な人数がいるな。
「武器の使用は特に制限はしません。魔術等の使用も許可します。ただ、相手を死に至らしめるような攻撃は即刻止めるのでそのつもりで」
ユミアは俺とディニギルを見ながらそう言った。
決闘、それはこの世界にある競技の一つ、といったほうがわかりやすい。決闘は、決闘空間の中で一対一で戦うと言うとてもシンプルなものだ。決闘空間というのは、昔は決闘というのは見世物で、そしてそれを見る観客に被害が出ないようにするための、いわば結界だ。観客――つまり野次馬、それと審判はその結界の外で決闘を見ることになる。
そして決闘は、その時によって何かを賭けたりすることもある。ルールはその時で多少変わったりするが、今回の決闘はどうやら基本的なルールで(+賭けありで)行なうらしい。
「それでは二人とも準備が完了したら始めます」
「別に、俺は特に準備と言うほどのものはないんだけど」
いや、だってそうだろう。今は武器と言えるものも持ってないしな。
「僕は……これで準備完了だ」
ディニギルはそう言いながら背中に背負っている剣を引き抜いてそういった。その武器は柄から剣先までほぼ青色をしていて剣の外周に沿って白色のラインが三重に引かれている。
……これは、余計な事を考えている場合じゃないな。
この武器は恐らく、魔法武器だ。
魔法武器は、その名の通り魔法の武器。正確には魔法具というカテゴリの中の武器を総じて魔法武器と呼ぶ。
魔法具には魔法が封じられていて、それを使う人はその武器に封じられている魔法を使えるようになるというものだ。ただ、魔法具って言うのはとても希少だ。その理由は危険なダンジョンでしか発見できないと言うところにある。そして、そんな物がどっかにそう簡単に売られるわけがない。つまり、こいつは自力でこの魔法武器を発見して、持ち帰ってきたということになる。と、いうことは少なくともディニギルにはそれが出来るだけの力があるってことだ。……これ、本当に勝てるかどんどん心配になってきたぞ。
「君! ソラって言ったっけか」
「ああ、そうだけど」
「そうか……じゃあ、ソラ! 僕は君になんて負けはしないっ!」
そう言って俺に剣先を向けてきた。その目には嫉妬が混じっているように俺には見えた。いや、多分実際に混じっているんだろうな。
「あー、悪いけど俺も負ける訳にはいかないんだよなぁ」
そう言うとディニギルは俺をさらに睨んだ。
でも、仕方ないだろう? だって、俺がこいつに負けてしまったらメリアは嫌なのにずっと一緒にいることになるんだろ? 強制的なずっと友達状態みたいな感じなんだろうな……いや、友達では無いか。まあともかく、仲間がそんな目に会うなんて俺は嫌だからな。
「では、お互いに離れてください」
俺達は五メートルほど離れ、そしてディニギルは剣を構え、俺は重心を低くする。
「それでは……」
ユミアはそして、こう言った。
「決闘開始っ!」
決闘開始の合図と同時、ディニギルはこちらにものすごいスピードで走ってきた。
「はあっ!」
ディニギルはその勢いのまま、剣を振りかぶり、そして振り下ろす。
(早いっ!)
それを俺は間一髪横に飛んで避ける。空振った剣はそのままの勢いで地面を粉砕した。レンガをいとも簡単に破壊し、地面を貫通したと言う事実はつまり、ディニギルの攻撃の強さを表している。
(これは、受けたらまずいな)
俺は攻撃が空振って隙のあるディニギルに向かって数度拳を繰り出す。狙いは顔面だ。
だがそれをディニギルは完全に見切って最小限の動きでかわす。
「ははっ、当たらないよそんな攻撃」
そう言われてさらにパンチをするが、ディニギルは俺の拳をかわし剣を横薙ぎした。
「うおっと!」
また間一髪、しゃがむことで俺は避ける。
「なら、これはどうだっ!」
俺はそう言い、しゃがんだ状態から全体重を乗せたアッパーを顎めがけて繰り出す。それもまた、ディニギルは仰け反るようにしてかわす。……だが。
「なっ! 高い!」
「せいっ!」
「――がっ!」
俺の攻撃はそれだけじゃない。俺は奴がアッパーをかわしたその直後、そのまま空中で顔の側面に蹴りをお見舞いした。アッパーをした時に俺は奴の顔がちょうど俺の足元になるように、また体をひねりながら跳び、その回転する勢いを利用してディニギルに蹴りを食らわしたのだ。まあ、最初から狙ってなきゃ今の俺にはこんな機転のきいた攻撃できないからな。
顔に蹴りを食らったディニギルは地面を転がる。だが、ただ転がるわけではなかった。
「くっ、水刃!」
ディニギルがそう叫ぶとどこからともなく大きな水の刃が高速で俺に向かってきた。
(この速度は避けきれない……なら!)
俺は体の前で腕を交差させ、水の刃が急所に当たるのを防いだ。
「ぐっ!……いってぇ」
急所に当たるのだけは避けたが、腕にはだいぶダメージが入った。制服の袖もぼろぼろだ。
「どうだい? 僕の魔法の威力は」
起き上がったディニギルは俺にそう言う。
「ああ、なかなかだよ。お前の武器の魔法はな」
「ああ、そうだろう? なんていったってSランクのダンジョンで見つけたんだからね」
……こいつ、俺の皮肉に自慢で返すとは。
とは言っても、このままじゃ防戦一方だ。そろそろこちらからも仕掛けないとな。
「あれ、まだ続けるのかい?」
俺が重心を低くすると、不思議そうにディニギルは聞いてくる。
「何でそんなことを聞く?」
「さっきの僕の魔法、まともに食らったらただじゃすまないよ? それだけじゃない。このまま続ければいずれ……」
「……当たらねぇよ」
「ん? いまなんて?」
「聞こえなかったか? 耳の悪い奴だ。お前の魔法……いや、単調な攻撃なんてまともにどころかかすりもしないよ」
「……へぇ」
……どうやらディニギルは俺の挑発をかかったようだ。
「それじゃあ、意地でも当ててあげるよ!」
ディニギルはそう言い、さっきよりさらに速くこちらに駆け寄り剣を振り下ろす。
「はぁっ!」
それはとても速く、とても強力な一撃だった。その証拠に、振り下ろした剣の延長線上に人の身の丈より大きな真空波が発生していた。そして、それはその先の結界に当たるまで地面を穿ち続けていた。
……だが。
「だから言っただろう。いや、言おうとしたか。まあ、どっちにしろ同じかな。僕はさっきこう言おうとしたんだよ。君は」
「……お前、誰に向かって話してるんだ?」
「――え?」
俺はそう言うと、奴のがら空きに顔面を思いっきり殴った。
「がぁっ!」
奴は地面を派手に転がった後起き上がり、そして『何故』、とでも言いたげな顔をこちらに向けた。
俺はその思考を先読みするようにこう言う。
「簡単な話だよ。さっき言ったろう? お前の攻撃は単調だって。今の攻撃、威力は確かに強力だったよ。でも、ただ一直線だった。そんな攻撃、ただ横に移動すれば避けられるんだよ」
ディニギルは俺がそう言うと、信じられない、という風な顔をした。いや、こっちか信じられないよ。こんなの少し考えればわかることじゃないか。
「なら、お前に避けることの出来ない攻撃をすればいいんだろう!」
そんな俺の思考をよそに、そう奴は言って今度は小さな水の刃を、無数にこちらに向けて放った。
「さすがに多すぎだろっ!」
しかも速い。これもディニギルのいった通り、さっきと同じで避けることは出来ないだろう。そしてこの刃の多さ、俺を戦闘不能にすることは容易いことだろう。
(くっ! 万事休すか?)
俺がそう思った次の瞬間。
「……は?」
ディニギルは、いや俺も、そして多分野次馬達も何が起こったのかわからなかっただろう。
さっきまで俺に向かっていた無数の水の刃が一瞬にして消え去ったのだ。
そして、その原因と思われるものが俺とディニギルの間の地面に刺さっていた。
それは……剣だ。
柄の部分まで綺麗に刺さっている一本の剣。それが無数の水の刃を切り裂くように水の刃の間を通り抜けたのだ。
「こ……これはっ!」
その剣を見て、ディニギルは驚いたような声を出した。
「何だ? この剣は」
「この剣は、フレクラエア。一年前程にとある人物が見つけたとされる剣だよ」
俺の疑問に奴はそう答えた。今が決闘中と言うことを忘れてるのか? それともそれどころじゃないのか?
「この剣は意思を持っているとされていてね、この剣を見つけ出した人物に長らく使用されていたんだけどその人物がどこかへと行ってしまったらしくて、現在は新しい所有者を探し回っているとされているんだよ」
ディニギルはそう言うとフレクラエアに近づいた。
「お、おい」
「この剣がここに来たということはつまり、僕が選ばれたということだろうね」
「いやなんでそうなるんだよ」
「そうでなければこの剣がここに来るはずがないんだよ」
奴がそう言って剣の柄に手を伸ばしたその時。
「…………は?」
「ぐうっ!」
フレクラエアは、俺の肩を切り裂いた。
フレクラエアは突然ひとりでに動き出し、ディニギルに向かって飛んだ。が、俺はディニギルを突き飛ばし、その代わりに飛んできたフレクラエアの攻撃に当たったのだ。
まるで焼けるような熱さを感じる痛みに、俺は顔をしかめた。
「な、何で……僕に……なんで庇って……」
絶句気味のディニギルに俺は赤くなった肩を左手で押さえながら言う。
「お前は選ばれたんじゃないってことだろう。今の攻撃でわかったが、それどころか、何でかお前を殺そうとしてるようだぞ」
今のあの剣の攻撃、完全にディニギルに当たっていれば急所に確実に当たって致命傷だった。あの剣のスピードと狙いの正確さは、やばい。
このままではもしかしたら最悪、こいつが死んでしまうかもしれない。
(どうにかしないと……)
そう思った俺は――
「剣、借りるぞ」
「あ、おい待て!」
ディニギルの剣を半ば強引に借りたその時、呼び止められる。
「無茶だ! あの剣は君が到底勝てるようなものじゃない! この世界の中で一、二を争う魔法武器の一つなんだぞ!」
ディニギルはおびえたような声で、絶望したような目で俺を見ながらそう言った。
「へぇ~、そうなのか。情報サンキュー」
そう言って俺はフレクラエアに向かって歩く。
「そうなのかって……君、死ぬつもりか!」
その言葉に、俺は動きを止める。
「……その言葉の後半部分、そっくりそのままお前に返すぜ」
俺は続ける。
「俺はな、ディニギル、生きることを諦めるようなやつは嫌いなんだよ」
「え――」
「お前、どうせ自分が狙われてるなら自分が死ねばこの場が収まるかも、なんて思ってるんじゃないのか」
「…………」
奴の目を見て心の奥底でそう思っているであろうと放った言葉に、ディニギルは図星なのか答えない。
「そんなことを思うくらいなら、少しでも生きる可能性に賭けろ。生きることを諦めるんじゃねぇよ」
「…………」
再び、ディニギルは答えなかった。
俺もこんな状況じゃなかったが同じようなことを思ったことがある。でもそれは間違いだと、そう思ったときにいわれた仲間の言葉で気付いたんだ。
だから、そんな馬鹿なことを思う奴には言ってやらないといけない。
生きることを諦めるな、と。
とまあ、今の俺の言葉で――
天狗の鼻は、折れたかな。
俺はフレクラエアに向かって歩く。剣、フレクラエアは一言で言って、とても綺麗だ。剣身は銀色で金色のラインが数本あり、柄は剣身にあるラインと同じ金色だ。
「さあ、待たせたな。観客も待ってるから、とっとと始めようか」
冗談交じりにそう言うと、フレクラエアは俺に向かって一直線に飛んできた。
俺はそれを横に移動して避ける。と、剣は方向転換をして再び俺に向かってきた。
俺はそれを再び避ける。それが二、三度続き、剣は急に動きを止めた。
(何だ? 何をしてくる?)
次の瞬間、フレクラエアは俺に向かって飛んできた。そして俺は避け……ようとした。だが、剣は俺の手前で急に動きを止めた。その剣先は空へと向いている。
そして、そこから剣先を空から地面へと、俺を斬りつけようとしているのを察して、俺はそれをディニギルの剣で受け止める、が。
「ぐぅっ! お、重い……っ!」
その力に耐え切れずに、剣を弾かれた。それに伴い、体勢が崩れる。
「っ! まずいっ!」
今の剣を弾かれたと言うこと、それはフレクラエアの攻撃を受け止めることも出来ず、体勢も崩れているため攻撃を避けることも出来ないと言うことだ。
(どうする? この状況で、この状況を打破することは出来るのか?)
俺がそう思っている間にも剣は俺を再び斬りつけようとしていた。
そして、その剣が振り下ろされた――
だが。
「……ぐっ!」
「ディニギル!」
「うおぉぉっ!」
フレクラエアを、ディニギルが剣で受け止め、そして弾き返した。
「なんだ、お前。死ぬつもりじゃなかったのか?」
「……君の言葉が、正しいと思ったんだ」
「え?」
「少しでも生きる可能性に賭ける。それを今したし、今からもするつもりさ」
「……へぇ。わかってくれて何よりだよ。……で、どうするつもりなんだ? 具体的に」
そう聞くとディニギルは剣を俺に渡し、言った。
「フレクラエアは多分だけど僕を狙っている。だから僕が囮になるからどうにかしてくれ」
確かに、フレクラエアを見る限りさっきからまともに自分の相手を出来ていない俺よりも、自分の攻撃を弾いたディニギルに注意を寄せているように思える。
なるほど、その作戦は有効だろう。
「はいよ。どうにかしてあの剣を止めてやるさ。だから」
そして、俺はディニギルに、そして自分に言う。
「――死ぬんじゃねぇぞ」
「もちろん。君もしくじらないでくれよ」
ディニギルのその言葉を合図に、俺達は違う方向へと走り出した。フレクラエアは当たり前のようにディニギルの方へと向かっていく。
「いいぞ、こっちだ!」
ディニギルがそう挑発するとさらに加速した。そして、フレクラエアはものすごいスピードでディニギルを突き刺そうとする。もう肉眼では追うのがやっとの速さでフレクラエアはディニギルに向かう。
そんな攻撃をディニギルは――――避けたのだ。まあ、そんなに驚くことじゃないけどな。何でかと言えば、
「その攻撃は単調すぎるよ!」
つまりはそういうことだ。こいつ、結構失敗して成長するタイプなのか。自分の失敗を逆に生かすとは。今のフレクラエアの攻撃は一直線、つまり俺の避けたディニギルの攻撃と同じなのだ。直線的な攻撃は横に移動すれば簡単に避けることが出来る。それをこいつは覚えたんだ。ユミアは天狗になってる阿呆と言っていたが鼻を折ったら案外阿呆じゃなかったようだ。
「ディニギル! こっちに向かって走れ!」
俺がそう言うとディニギルは俺に向かって走ってきた。その後ろを、フレクラエアは追ってきている。
そして、フレクラエアは加速する。
「避けろ!」
「でも、僕が避けたら君が!」
「余計な心配するな! いいから避けろ!」
軌道上フレクラエアを避けたら俺に当たるのは間違いない。でも、そんなことはわかってる。だからこそディニギルを俺に向かって走らせたんだ。こうなることも想定済みだ。
「ソラッ!」
そして、ディニギルは剣を避けた。その剣は俺へと向かってくる。
ここはしくじれない。と言うか、しくじったら俺が死んでしまう。
まあ、しくじる気なんて――
「ないけど、なっ!」
俺はフレクラエアが俺を貫こうとした瞬間、上から剣で叩きつけた。
「んぐううぅぅぅ!」
フレクラエアは俺の振り下ろした剣を少しずつ押しのけて俺に向かってくる。俺はそれを押さえつけようと必死になるが、それでもフレクラエアは止まらない。
(このままじゃまずい! 何か、他に何かないか!)
と、そこでふと、今使ってる武器のことを思い出す。
(ディニギルは水系の魔法を使っていたはず……! そうだ! なら!)
この魔法武器は水属性の魔法を封じていることになる。
ならそれを使えばこの状況を打破できるはずだ。そう思い至ってすぐ、俺は行動に移した。
「水球!」
俺はフレクラエアを中心とした水の玉を魔法で作り出した。だが、そんなものでフレクラエアの突進は止まらない。
だが、そこは水の中。
わずか、フレクラエアのあの突進の速さなら、ほんのわずかしかない猶予。だが、そのわずかが勝負の雌雄を決した。俺が剣を振り上げる、それが出来るくらいの猶予が。
「エンチャント! 水滴撃ッ!」
俺は剣に付与効果の魔法を掛け、そして剣を振り下ろした。
水、それだけに限らず液体に当てはまることだが、高いところから水を落とせば当然地面に着いたときに落とした場所が高ければ高いほど水は飛び散る。この付与効果の魔法は前に俺がこの世界にいた時にこれをイメージしながら作った魔法だ。その効果は、今の場合標的であるフレクラエアから高いところから攻撃動作をやめずに攻撃すると普通の威力の何倍もの威力が出ると言うものだ。それは高ければ高いほどさらに威力が増す。 故に俺は今の状態で達することの出来る一番上から、俺のありったけの魔力を魔法にこめて、今の余裕から出来る最大の高さから振り下ろした。
フレクラエアは俺の攻撃を受けて、地面に落ちていた。
「終わったか――はぁぁ~、よかったぁ」
俺はそういいながら地面に力なく座り込む。魔法にありったけの魔力をこめたからな。それだけじゃなく、しくじれば俺も死ぬという緊張も相まって全身に疲れがどっと出る。
「ソラ、何だったんだい、今のは」
ディニギルはそう言いながらこっちに近付いてくる。その時、魔力回復用クェリアをもらった。
「ああ、後で説明するよ」
俺はクェリアを砕きながらそう言い、立ち上がる。
「どうしたんだい?」
「ん、もうこんな事になるのはこりごりでな。少なくとも、この剣からはもうこんなことが二度と起きないようにしようと思うんだ」
「えーと、つまり?」
「この剣を破壊する」
「……本当にかい? この武器は魔法武器だよ?」
「関係ないさ。それともなにか、お前はまたこんな経験したいか?」
そう聞くと「嫌さ」と答えるディニギル。
「俺は俺の知らない奴でも、知ってる奴でも、こんな経験しないほうがいいと思ってるからな」
「……そうか。確かにそのほうがいいね」
その言葉に俺は頷き、フレクラエアに近付く。そして、手に持っているディニギルの剣にもう一度ありったけの魔力を注ぎ、振り下ろ……
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
……そうとした時、何か声が聞こえた。
「誰だ?」
「私です私、あなたの目の前にいるじゃないですか!」
「この声の主はどこにいるんだ?」
ディニギルがそう疑問を口にしたとほぼ同時、俺はある可能性を思いついた。
「あ……まさか…………フレクラエア?」
「そうですそうです!」
俺の質問に少女の声、フレクラエアは肯定した。
そして剣は大きな光に包まれ、その光が収まったところにいたのは、銀色の髪に縦に三本の金色のラインが入っていて、金色の目をしている、少女だ。
「あなたは私のご主人様にふさわしいです! ぜひ、私をあなたの武器として使ってください!」
……ちょっと、いきなりすぎやしないか?