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松島くんと松崎さんと松岡君  作者: BLOOD TYPE code AB
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調査

食卓を囲むこの時間が家族にとって一番大切な時間らしい。父は必ず僕に今日の学校の出来事を聞いてくる。僕はありのままそれに答える。隣の席の福田がいつも僕にちょっかいを出すから先生に怒られてしまうことや、好きな女の子の話等、父は全て聞き入れてくれる。


「それでね、そのときカマキリの羽がバーって広がって笠原くんの顔にカマキリがとまったの。笠原くん泣いてとってとって~って言って教室中走り回ったの」


「ははは、それは怖かっただろうな」


父は優しく、笑顔でいつも僕の話を聞いてくれる。母はそんな優しい父に惹かれて結婚したんだそうだ。


「優、お箸をブンブン振り回してはダメって何回言わせるの!お母さんもうご飯作ってあげないわよ!」


「ごめんよ、母さん」


「本当にこの子は、何度同じことを繰り返すのかしら」


「まあまあ、母さん、元気な証拠じゃないか。優、よく聞きなさい。このお箸を振り回して、もしもだぞ?隣にいる母さんか父さんのどちらかの目にでも刺さったらどうする?二度とお前の顔を見れなくなっちゃうんだぞ。お前はそれでもやめないのか?」


父はいつも優しく、分かりやすい言葉を選んで僕に教える。


「そんなの、ヤダよ!母さんごめんなさい!もう二度としません!だから許して!」


父と母はお互いに顔を向け合いながら笑う。


「分かればよろしい」


僕は優しい父さんと母さんが大好きだ。いつまでもこのまま仲良く暮らしていけたらいいのにと思う。でも、それも長くは続かなかった。



あの後、学校から戻ってまっすぐ庭に駆け寄るとあの釜はなくなっていた。母さんが処分したらしい。エンモも昼寝をしている。


「絶対に宝の地図に決まってるんだ。どこに処分したんだろう」


家の中に戻り、自室へと向かう。


「たしか、タイムカプセルだったよな?じいちゃんの」


ランドセルをベッドに放り、ドタドタと部屋を出る。


向かった先は祖父が生前使用していた部屋だ。今は物置き変わりに使用されている。


「たしか、ここら辺にあったはず」


本棚をズラし、風呂敷を投げ飛ばす。部屋の角に祖父の昔のアルバムが何冊も積み上げられていた。


「えーと、何年頃だろ?じいちゃんの若い頃ってことは、大体ここら辺のかな?」


慎ましく整理整頓されている。高さにして1m程、祖父は決して神経質症ではなかったが、アルバムはキチンと年代別に振り分けられている。下段の方に私立雪月花高校と金の生地で刺繍されている黒いアルバムを見つけた。一冊一冊、丁寧に扱いながら他のアルバムを下ろす。


「雪月花高校?そんな学校この辺にあったかな?」


黒いアルバムの1ページ目を捲ると校歌が記されている。


パラパラと捲り、クラス別写真に目を凝らす。


「松島、松島…いた!じいちゃんだ!」


若々しい祖父が満面の笑みでこちらを見ている。やはり面影は残っている。おそらく、左ページから右ページにかけてア行からワ行で構成されている。祖父は右ページの端の方に写っていた。


「女子も結構いるんだな」


この中に当時祖父が大恋愛をした相手がいるのか見当もつかないがまず、情報を集めよう。


玄関に向かい、靴を履いているとインターフォンが鳴った。正面扉の横の硝子戸に黒いシルエットが浮かんでいる。


「どちら様ですか?」


母から教えてもらった一言を思い出す、知らない人は入れちゃダメと言われている。


「あっ、お忙しい中すいません。私、この辺りで探偵事務所を営んでおります、筒井と申します」


探偵?家になんの用だろ?


「なんですか?母は今いないんで大人の話ならまた今度来てください」


一応、要件は聞いておく。


「あっそうでしたか、分かりました。また次回、伺いますのでお母様によろしくお伝えください。筒井が伺ったと、では失礼しました」


硝子戸の向こうでお辞儀をしているのだろうか、筒井という男の人はコツコツと足音を残して去っていった。玄関を開ける。


「へー、今時探偵なんてまだいるんだな」


漫画や小説だけの世界にしかいないと思っていた。見事な推理で事件を解決!みたいなのを僕は想像していたが実際の探偵とは浮気調査や犬、猫の捜索、そんな日常のトラブルをひっそりと調査する人物だと知ったのはここ最近だ。


「あっ!早く行かなきゃ!」


玄関に鍵をかけ、一目散に駆け出す。向かうは祖父の友人の美鈴爺さんの家だ。



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