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松島くんと松崎さんと松岡君  作者: BLOOD TYPE code AB
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二人きり

「次の授業は体育か。たしか今日はサッカーだった気がする」


「うへぇ〜、ヤダなぁ。また無駄な汗をかかなきゃならないのか。やるならせめて卓球とかバレーとか汗をかきにくいのがいいのに」


すっかりやる気をなくした美鈴に僕は体育教師の中西のマネをして笑いを誘ったがかすりもしなかった。


「まぁ、終われば昼メシなんだし頑張ろうぜ」


「はあ、せめてもの救いだ」


美鈴良樹(ミスズヨシキ)、僕の席の後ろにいる陰鬱な雰囲気を纏っている草食系男子だ。クラスの奴からはモヤシだの酢昆布だのと言われ罵られている。典型的ないじめられっ子だ。だが僕は美鈴を嫌いではない。むしろ面白い奴だ。無二の親友だと僕は思っている。こいつはどう思ってるか知らないけど。


「よっしゃ、着替えようぜ」


机の横にかかっている体育袋をすくい上げる僕に美鈴は慌てて止めようとする。


「ま、まだ女子がいるだろ!そんな急がなくてもいいじゃん!」


「別にいいだろ、そんなの」


かまわず上着を脱ぎ始める。僕はそこまで性に対して過剰な反応はしない。むしろ、美鈴のようにアタフタしている姿のほうがよっぽど変だと思う。たかだか着替えるだけのことに女子の視線にまで神経を注ぎ研ぎ澄ましていたら早死にするだけだと思うのだ。


女子生徒数人が移動教室に向かう。後ろの方にいるのは松崎乱だ。


三好ノーコン事件から二日経っていた。あの後、松崎乱は職員室に行き三好にネチネチと嫌味を言われ続けたそうだ。本人はあまり気にしていないようだが僕は腹の虫が収まらなかった。そんな僕も二日前に早退して担任の桃瀬から家に連絡が来てクドクドと電話越しに説教をされた。テヘッ


すっかり見惚れてしまっていた僕の視線の先から松崎乱が近づいてくる。ああ、やはりそのツンとした鼻先、豊満なバスト、無駄に細く長い脚。マズイ、また視姦してしまった。ん?なんでこっち来んの?


「松島くん」


「ふぇっ?」


声が裏返った。まさか自分に声をかけてくるとは思わなかった。妄想していた頭を掻き消す。


「これ、読んで」


渡されたのは折りたたまれた小さな紙切れだ。


「んじゃね」


「えっ?お、おう!」


踵を返し、教室を出て行く。


「なにそれ?」


美鈴が興味深げに覗き込む。


「お、お前に関係ないだろ!さっさと着替えろよ!」


「ふぅん、まあいいけどさ」


ジト目で僕を見つめる。渡されたのは一体なんだ?これはもしかして、愛の告白とかなんかじゃないのか?まさか!松崎乱も僕を好きで…、待て、マテマテ!モテモテ?うわぁっ!どーしよー、 これマジで緊張する!開けるのが怖い。いや、考えすぎだ、うん。冷静になろう。


「先に行ってるよー」


美鈴がいつの間にか着替え終っている。教室時計を眺めると休み時間が五分を切っていた。急いで着替える。周りの女子も移動教室の為か忽然と姿を消していた。


「…なにが書いてあるんだろう?」


カサカサと紙切れを広げる。

[放課後、話があります。帰らないで教室にいてね]


うわぁー!!


キタキタキター!!!


わわわわー!!わわわわー!!


感情を表に出さないよう注意し、教室を後した。



放課後、クラスの掃除を終えたであろう加瀬ルナが掃除チェックシートになにやら記入している。それが済むと鞄を持って帰宅した。

僕はサッと自席について何食わぬ顔でケータイをいじくり回す。


何の話だろう?身に覚えがない。しかし、口で言わず、手紙で知らせてくる辺り、しかも二人きりで、告白しかないってことは確かだ。きっとそうだ。


時計は5:15分を指している。待ち続けて15分が経った。あっと言う間に。


廊下を歩く音がする。誰か来る。


「おまたせっ」


ようやくご本人の登場だ。


「よ、よお、話ってなに?」


口頭一発目から飛び出した。早く答えを聞きたい。その感情に押し潰されそうになっていた。


「うん、あのね」


松島くんのことが好きです。付き合ってください。


「松島くん、BHって知ってる?」


本当に!?嬉しい!ずっと言えないで悩んでたの!あたし…って…えぇーっ!


なんだそれ?BH??新手のウィルスかなんかか?鉛筆の濃さを示すアレか??


「えっ?なにそれ?聞いたことないな」


「そっか、分かったもういいや、じゃーね」


えぇーーーーっ!!!


「えっ!?そ、それだけ?他になんかないの?」


「他に?ないけど。ただそれだけ聞きたくて、ごめんね時間とらせちゃって」


タタッと教室を後にする。


ヘナヘナと椅子に座り込む。なんだよちくしょう。BHってなんだよ!知るかよそんなもん!


「うぅっ…」


愛の告白だとかそれらしいシチュエーションを期待していたのに、無駄になってしまった。そもそも、僕は松崎と二人きりで話をしたことがあるのか、ふと思い返すと今日が初めてだ。そんな相手に告白はないだろう。


「なにしてんだ、お前」


急に声をかけられた。担任の桃瀬が掃除チェックシートを回収に来たのである。


「こんな時間までなにしてんだ?補習だったらE組でとっくに始まってるぞ」


動揺を隠せない。まさか桃瀬が現れるとは思ってもいなく、思わず口に出してしまった。


「せ、先生、BHって知ってますか?」


「BH?」


桃瀬はなに言ってんだこいつ?みたいな顔で僕を見る。すると、なにか思い当たったのか桃瀬は口を開いた。


「BH、通称BOYS HUNTの略だ」


「ボーイズハント?」


「そうだ、この学校の都市伝説みたいなもんなんだがな、なんでも顔のいい男子、イケメンて言うのか?そのイケメンを下僕にしようとする女子生徒の集団のことをそう呼ぶそうだ」


「下僕…」


「この学校の古くから伝わる七不思議ってとこだな。俺もこの学校に赴任してきたときに聞いたんだが、そんな集いは見たことがない。まぁ、噂だ都市伝説だと呼ばれてるんだ。まずそんなのは実在しないだろう。で、それがどうした?」


「いえ、ただ風の噂で聞いたんで何かなって思って、すいません今帰ります」


「単なる噂だ、気にするな。気をつけて帰れよ」


桃瀬に軽く会釈して教室を出る。


疑問だ。松崎乱はなぜ僕にBHのことを聞いてきたのだろう?僕以外にもあんな風に放課後に二人きりで聞き出しているのだろうか?それとも僕じゃなくてはダメだったのか?そんな噂話、聞いたことないが明日美鈴にでも聞いてみよう。


しかし、やはり松崎乱は可愛い。たった数秒だけとはいえ、二人きりになれたあの空間は幸せだった。今日をきっかけに明日から松崎に声をかけやすくなったかもしれない。いや、声をかけよう。もっと自分をアピールするんだ。好意を持ってることを伝えるんだ。


下駄箱に着くとすっかり日は暮れていた。靴を取り出し乱雑に放る。野球部の声が遠くから聞こえてくる。


「あれ?」


ケータイがない。しまった、教室に忘れてきたらしい。それだけ動揺していたということか。急いで靴を履き替え、三階へと急ぐ。二階に着くと、三年生の女子生徒数人が僕の横を通りすぎる。


「また、ダメだったみたいよ」


「いつになったら手駒にできるのかしらね」


「いっそのこと、数人がかりで取り押さえちゃえばいいのに」


話の内容に思わず耳を傾けるが支離滅裂な話なだけあってすぐに三階へと急いだ。


教室に着き、自席を見る。あった。安堵して近づきケータイを手に取る。


「危ない危ない」


ケータイを無くしたとき程、焦ることはない。僕の場合、見られてはまずいものが多すぎるからなおさらだ。教えないよ。


暗い教室を出ようと出口に顔を向けると松岡が廊下を歩いていた。声をかける。


「よう、今帰んの?」


「うん。お前も?」


「一緒に出ようぜ、一人は淋しいだろ」


「…別にいいけど」


松岡恋(マツオカレン)、僕の前の席にいる物静かな男。なにを考えてるか分からないイケメンだ。いつも1人で本ばかり読んでいる成績優秀なまじめっこくん。こんな時間に出会うとは以外だ。


「なにしてたんだ?こんな時間まで?」


「別に、ただ図書室で本を読んでただけさ」


片手にある本をかざす。


「好きだねぇ、本」


「お前こそこんな時間までなにしてたんだ?いつもならとっくに帰ってる時間だろ?」


「いやぁ、視聴覚室で寝てしまってさ。さっき目を覚ましたばかりなんだ。眠い眠い」


松崎乱といたなんて言えるはずもなく、でまかせを言った。


「ふぅん、お前らしいな」


校庭を横目に僕らは歩いている。


校門のところまで歩き僕が右に松岡が左とお互いに反対方向の帰路だ。


「んじゃまた明日」


「おう」


短かい言葉で別れる。あまり人と話すのを好かないのか松岡はいつもあんな感じだ。ガリ勉野郎め。


松岡は出会ったときから変わらない。顔は二枚目なのだがいかんせん女を毛嫌いしホモじゃないのか?と思わせるほどであった。なぜそこまで毛嫌いするのか一度聞いてみたことがある。


「女は嫌いじゃないよ。付き合おうと思えば誰とだって付き合える。ただ俺の理想が高すぎるだけさ」


一度でいいから言ってみたい台詞だ。思いきり崖から突き落としたくなる。奈落の底まで落ちればいい。アレェ〜とか言って。


もし、BHが本当に実在していたとしたら最初に松岡恋を必ず追い詰める目論みをするはずだ。認めたくないけど確かに顔はイイ。そして松岡は下僕に成り下がり、女子生徒にいいように玩具にされるのだ。実に愉快。


夕暮れが僕の体をオレンジ色に染める。今夜はキムチ鍋だな。大好物の献立に心踊らせながら帰路をスキップする。


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