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雨とあなたと木琴と

二人は同棲中で、ともくんの講義が終わるのをともこさんは学部の図書室で大人しく待っています。


「とも君…いまどこ?」

「僕?大学だよ」

「本当。今図書室にいるから帰る時にお迎えに来て貰っていい?」

「いいけれども…生協で傘を買っていく?」

「そんなに降っていないのなら傘はいらないかも」

私は一安心した。今日はレポートを提出しながら、図書室で彼の講義が終わるのを待っていた。

急に暗くなってきて突然の雨。

彼がいたら迎えに来てもらおうと思って図書室から一旦出て彼に電話をかけた。

夏休みが終わって約1週間。来週からはテストが始まる。

一般教養の単位がまだ取り切れていない彼は前期はかなりタイトなスケジュールになっている。

一方私は、卒業に必要な単位は全て取得してしまったので、今のメーンはゼミの授業しかない。

就職活動も重要と供給が一致したせいか、学内でもかなり早い時期に内定を取る事ができた。

女の子で商学部、必要な資格はほぼ取得済みだった事が強みだったのかもしれない。

こないだは税理士試験を受験した。取っておいた方が仕事をするのには有利かなと思ったから。



内定先の企業からは、本社経理部勤務と言われているが、私は現在住んでいる所からほど近い工場の

経理事務を希望している。

もちろん、ここからだって本社勤務ができないわけではない。

私がこだわったのは…彼と一緒にいる時間を確保したかったから。

彼に知られたら…多分怒られるんだろうな。自覚はあるからひた隠しにしている。



「今日の彼のスケジュールはどうだっただろう?」

私は持っていたタブレットPCで彼のスケジュールを確認した。

今日は4時限までびっしり講義がある日になっている。

時間は午後12時半。後4時間は時間にゆとりがある。

私は出来上がったレポートを鞄にしまって、読みかけの小説を取り出した。

小学生のころに読んだファンタジー小説。夏休みに実家に戻った時に見つけて持って帰ってきたのだ。

いつもは静かな図書館もテスト1週間前になるといつもよりは騒々しくなる。

今までその光景の中に私も含まれていたのだと思うと懐かしくも思う。

春になったら…私は社会に出て自己責任で生きていく。



突然、携帯電話のバイブレーターが反応する。

私は携帯電話を確認する。彼から授業が終わった事を示すメールだ。

私は荷物をまとめて図書室の前で待つことにした。

私が通う大学はかなり大きいので、総合図書館のほかに各学部が管轄している図書室がある。

最初のうちは総合図書館に通っていたのだが、今は図書室で過ごす事が多い。

彼との待ち合わせは付き合い始めの頃は総合図書館の事が多かったけれども、最近はここの前が多い。

私は外を窓から覗き込んだ。雨はシトシトと降っている。

優しいその雨音は子供の頃に親しんだ木琴を思い出させた。



「お待たせ。ともこさん」

「そんなに待っていないわよ。とも君」

私達はゆっくりと歩き出す。

校舎の外に出るときに彼が確認をする。

「生協は?」

「この雨ならいらないわ。一緒に入って帰りましょう」

「それもいいね。普段なら人前で密着何てしない人なのにね」

「ちょっと…人寂しくない?」

「言いたいことは分かったよ。おいで」

彼は私に手を出してくれた。私は素直にその手を取った。

二人で私達の家に帰る。最初は私の家より遠かった彼のアパートだけども、契約更新のタイミングが二人とも同じだったので親を説得して一緒に暮らすようになった。

世間的には同棲だけれども、一応自室をちゃんと確保した。生活リズムが変わった時を考えての配慮のつもりだ。



「ともこさん、なんか機嫌がいいね」

「うん。傘に当たる雨音が木琴の音みたくって…楽しいの」

「ふぅん。ってことは、僕らは木琴奏者ってことかな?」

「そうだね。そう考えると雨も素敵なものになるね」

「そうでしょ?これだと二人で歩いても楽しいね」

「本当だね。これからはおんなじ傘で帰ろうか?」

「それもいいね。ともくんが私の好きな事が分かってくれて嬉しい」

「ともこさんは、自然とかすきだからね。雨が降る前の蛙の鳴き声も好きだものね」

「うん、なんか喜んでいる様な気がするんだもの」

「俺達、付き合って大分時間がたったけど、まだまだ知らない事が多いね」

「だから…毎日が楽しくなるんだよ。明日の天気はどうなんだろうね?」

「晴れだったら?」

「お弁当持って公園でお昼にしようか?」

「雨だったら?」

「とも君の部屋で一日過ごすの」

「そんなんでいいの?」

「うん。お家デートは基本的にリビングででしょう?だからお邪魔したいな」

「もう…ともこさんったら」

一緒に持っていた傘を持つのを止めてとも君が大きな手で私の髪をくしゃくしゃと撫でた。

「かわいいこと言うから、ちょこっとだけおしおきです。続きは…家に戻ってから。いいですか」

「…はい。ごめんなさい」

彼に耳元でささやかれて…私はゾクリとした。なんで?したいことは?って聞かれただけなのに。



しとしと降る雨の中、私と彼で中でる木琴の音は優しい調べを紡いでいくのだった。






雨の中歩く傘に当たる雨音を木琴の音に見立ててみました。

二人は結婚することを視野に入れた上での同居生活です。

生活リズムを考えた上で、各自の部屋+勉強部屋の3LDkです。

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