出会いと再会
森本くんが好きだ
この気持ちを明日伝えよう
小学校四年の夏休み最後の日、そう決めてた。
なのに…
「もう知っている人もいると思いますが、夏休み中に森本悠也くんが九州の学校に転校してしまいました。さみしくなりますが、二学期もまた頑張りましょうね。」
唐突に先生が放った言葉。
周りの生徒のざわつく声や、それを注意する先生の声で教室はとても騒がしかったけど、私はその言葉がうまく飲み込めなくてただ呆然としていた。
それは踏み出そうとした足場が一気に崩れ落ちたみたいな感覚で。
そのあとのことははっきり覚えていない。
こうして突然に中途半端なまま終わった私の初恋。
それから今の私がいる。
高校に入学した私はクラスの雰囲気にも馴染んできて、それなりに新生活を楽しんでいる。
「ねーねー好きな人ってできた?」
「四組の中井さん、ウチのクラスの浜田と付き合ってるんだって!」
そんなありふれた会話の中に出てくる恋バナ。
高校生にもなれば彼女や彼氏がいても珍しくはないのかもしれない。現に校内だけでも親しげに肩を並べて歩く男女をちらほら見かける。
私はそんな会話のときでも普段と変わらない調子で、周りのことだけ話す。
まるで過去のことなんか無かったみたいに。
だからといって別にあの頃のことを思い出したくないとか、忘れたい思い出だとかそういうわけでもない。
ただ、中途半端に終わってしまったからか、古い記憶だからか理由ははっきりしないけどあのときの気持ちがはっきりしないのだ。
はたして私は本当に森本くんが好きだったのだろうか。
あれから時間が経ちすぎて正直わからなくなっていた。
そんな私でも色恋に憧れはある。そこは一応女子だ。
だから高校では恋愛しよう!というのが私の高校生活の目標の一つでもあった。
そんな理由から運動部のマネージャーになった私は単純だと思うが。
私が就いたのはバスケ部のマネージャーだ。
ここ、都立霧ケ丘高校の男子バスケットボール部は、大会でちょくちょく優秀な成績を収めている、割と有名な部である。
正直バスケのルールなどにはうといが、マネージャーの仕事はほぼ雑用なのでなんとかなっている。
ただ、強いことで有名なバスケ部なだけあって、日数や練習時間は多くハードな仕事に感じる。
それとも運動部ってこんなもんなのか?
私は要領は悪くない方なので大分慣れてきた気もするが。
私と一緒にマネージャーとして入部してきた女子は他にも数人いたが、初めて2カ月。すでにサボりがちになってきている子もいる。
おそらく私と同じような理由で入ってきたのだろう。
そんな動機なら気持ち的にも軽かったはずだ。
…逆に「そんな理由」でこの仕事をここまで続けている私はバカみたいかもしれないが。
でもどんな理由であれ、簡単にやめるのは私の責任感が許さないと思う。
それにそんな苦労の甲斐あって、親しく話せる男子部員はできた。
「ちょっと、結城さん。タオルとってもらえる?」
「オッケー。はい。」
「ありがと。最近暑くなってきたよなー。
汗かきまくりだよ。」
「そうだね~、脱水症とか気を付けてね。」
彼は、風見健人君という同学年のバスケ部員だ。
話しやすくて、実はちょっといいなぁ、なんて思っていたり。
休憩をとっている風見君と話していると
「おーーい、ロードワークいくぞー!!!」
と召集をかける先輩の声がした。
「やべ、いかなきゃっ」
じゃあね、と軽く手を振りつつ風見君はロードワークに向かった。
「蒼ちゃん!」
私の名前を呼んで小走りで寄ってきたのは女子マネ仲間の藤堂歩ちゃんだ。
彼女とも同学年で、マネージャーの仕事をまじめに続けている仲間の一人でもある。
「ごめんねこっちの方任せちゃって。大丈夫だった?」
私のそばまで来て息を整えつつ、少し申し訳なさそうにそう言った。
「ううん、今は基礎練中だからそんなに忙しくなかったから平気。
歩こそ買い出しお疲れ様!由紀先輩もお疲れ様です!」
少しあとから来た二年のマネージャーの松原由紀先輩にも声をかける。
「お疲れー。
じゃ、二人とも。私はロードワークの方に行くから、みんなが戻ってきたら差し入渡してあげて?」
「「はい!」」
「気を付け!礼っ!」
「「「ありがとうございましたさよならーっ!!」」」
解散のあいさつをしてみんながぞろぞろ下校し始める。
「あゆみっ!帰ろっ」
ポンポンっと帰る支度をしているあゆみの肩を叩いて声をかける。
「うんっ!」
振り向いて笑顔で答える歩。
可愛いなぁ。
なんだかほのぼのする。
歩は女子マネの中で唯一のバスケ経験者だ。
何故女子バスケ部に入らずにわざわざマネージャーをしているかというと、中学時代の腕の故障が原因だ。
歩曰く、「やっぱりバスケに関わっていたい」からだそうだ。
時々羨ましそうに選手を見ている姿は、なんだか切なく見える。
二人で帰りの電車に乗る。
駅に着くまで話しながら帰るのが毎日の日課となっている。
「〇〇駅ー。〇〇駅ー。」
駅の到着を告げるアナウンスがかかって、次の駅だな、と思いつつなんとなくプシューッと開くドアの方を見た。
他校の男子生徒が何人か降りていく。
「!!!!」
見覚えのある後姿にハッと息を呑んだ。
その時の私の目はきっと「まんまる」だっただろう。
「もり…もとくん……!!?」
気づけばそう呟いていた。
「蒼ちゃん…?」
隣では歩が不思議そうに見つめていたがその視線にしばらく気づかないくらい、その後姿に視線を奪われていた。
まさか、彼が東京にいるなんて。
初投稿です!
文章変なとこあると思いますが暖かい目で見てやってください。
よろしくお願いします<m(__)m>