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りこちゃんのランドセル

作者: 露(つゆ)
掲載日:2026/08/12

 僕はりこちゃんのランドセル。

 君との思い出はずっと鮮明に僕の中に残っているよ。


 初めてあったのはランドセル売り場。君は真っ先に僕の下へ来たね。

「この水色のがいい!」

「水色? 理子(りこ)は女の子だから赤とかピンクの方がいいんじゃない?」

「やだ~! 水色がいいの~!! りこは水色がいいの~!!」

 駄々っ子になる君にお母さんが折れて僕を買ってくれたね。お母さんは困ってたけど、僕は嬉しかった。


 僕を買ってくれてから小学校の入学式まで待ちきれずに僕を背負ってお母さん達と出かけたね。そんなに好きでいてくれたんだ。


 入学式は緊張していたね。椅子の下からぴしりと揃えた足が見えたよ。


 入学式を終えて、毎日僕を背負えるのが嬉しいなんて言ってくれたね。休みの日は背負えないよ、なんて僕は心の中でくすりと笑った。


 仲の良いお友達ができて、一緒にお喋りしながら登下校をするのは楽しそうだった。


 僕の中に入れる教科書やノートが増えてきたけど、僕は大きいながら、背負う子の負担を軽減させる機能を持っている。どんな荷物もどんと来いだ! りこちゃんは心配しなくていいよ。


 りこちゃんは勉強が少し苦手みたい。でも毎日頑張っているのを僕は知ってるよ。


 授業参観で元気に手を上げて答えられたね。ロッカーとお母さん達の隙間から見てたよ。


 りこちゃんは体を動かすのが好きだから、体育の時間は楽しそうに教室を出ていくね。ついていけないのが残念だ。でも、ロッカーの中で応援しているからね。


 運動会の日もロッカーでお留守番。けれど、歓声がここまで聞こえてくるよ。りこちゃんが活躍してるのかな、って思ったら嬉しくなった。


 りこちゃんはたまに忘れ物をするよね。僕はハラハラすることしかできないけど、きちんと先生に謝って偉いと思う。


 遠足の日はリュックくんの出番。りこちゃんはとっても楽しそう。またまた残念だけど、思い出話が聞けたから僕はそれで満足。


 雨の日は傘から僕がはみ出て濡れちゃうんだ。でもりこちゃんはちゃんと拭いてくれる優しい子。


 りこちゃんは元気で正義感が強いから男の子とも喧嘩することが度々あったね。一度、ほっぺたを殴られて大騒ぎになった。男の子はお母さんと謝りに来たけど僕は許してない。でも、りこちゃんが「いいよ」って言ったから。りこちゃんは優しいね。


 りこちゃんはよく僕を校庭の隅に置いてお友達と日が暮れるまで遊んだね。りこちゃんが楽しそうなら何よりだ。


 六年ってあっという間だね。いろんなことがあった。りこちゃんといろんな思い出を作った。


 卒業式の日、僕は教室のロッカーでりこちゃんを待ってた。体育館の方から校歌がうっすら聴こえてくる。りこちゃんも歌ってるのかな。


 りこちゃん達が教室に戻ってくると、いろんな子が泣き出した。りこちゃんも泣いてる。お別れは悲しいね。でも、新たな門出を僕は応援するよ。

 僕のことをりこちゃんが背負うのもこれで最後だ。


「なんで! なんで捨てちゃうの!?」

 りこちゃんとお母さんが言い争ってる。

「もう使わないし、ぼろぼろでしょ? これじゃ誰かに譲ることもできないし」

 りこちゃんは活発だったから、けして丁寧に扱わなかった訳ではないけど、確かに僕はぼろぼろだ。

「この子とはいっぱい思い出がつまってるの!」

 りこちゃんは僕を抱き締める。りこちゃんもそう思ってくれてたんだ。嬉しいな。

「あなたそんなこと言って部屋も物だらけじゃない。これを機に整理しなさい」

 りこちゃんは物を大事にするタイプなので自然と部屋に物が溜まる。

「やだ! やだ! やだやだやだ!!」

 りこちゃんは僕と出会った時みたいに駄々をこねる。嬉しい。けど、僕の役割はもう終わりだから。楽しかったよ。僕を選んでくれて誇らしかった。りこちゃんのランドセルでいられて幸せだった。だから……。

『今までありがとう』

「え?」

 りこちゃんは僕を見る。

「どうしたの?」

 お母さんは不思議そうにりこちゃんを眺めた。

「う、ううん……なんでも……」

「で、ランドセル、どうするの?」

 りこちゃんは少し黙ってから言った。

「一日、時間をちょうだい」

 お母さんは「わかりました」と告げて家事をしに行った。


 りこちゃんは自分の部屋で僕を見つめる。そして抱き締めた。

「私のランドセルになってくれてありがとう」


 次の日、りこちゃんは僕をお母さんに差し出す。

「理子、本当に捨てていいのね?」

 お母さんは僕を持ちながら確認する。

「うん」

「あんなに駄々こねてたのにどういう風の吹き回しかしら」

「私、わかったから」

「何を?」

「思い出は消えないってこと」

 お母さんは笑った。

「成長したのね」

「うん」

 そうだよ、りこちゃんは立派に成長したよ。僕はずっと見てきた。

 これからも、りこちゃんはいっぱい成長するんだろう。それが見れないのは残念だけど。

 また、会えるといいね。バイバイ、りこちゃん。


「愛梨(えり)、どのランドセルがいい?」

「えり、この黒いやつがいい~! 格好いいもん!」

「おいおい、黒は男の子用だろ?」

「あなた、今時それは古いわ。昨今は何色でもいいの」

「はーい」


『また、会えたね』


「え?」

「どうした? 理子」

「……ううん、なんでもない」

 りこちゃんはそう言って笑った。

 えりちゃんは嬉しそうに黒い僕をりこちゃんに持ってくる。

 今度はえりちゃんのランドセルとして頑張るよ。どんな日々が過ごせるかな。楽しみだなぁ。

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