プロローグ 私の朝は朝顔のように
「――きて、か――!ねぇっ―」
なんだか声が聞こえる。今は何時なんだろうか。
「もうお昼だよ、今から会議があるんでしょ、華夏!」
……もう昼になっていたらしい。
「嫌ぁ。あと十分だけぇ……」
「あぁーもうっ。いい加減起きろ!」
全力で布団をはぎ取られた。今、季節は冬。外では雪が降っていて、部屋の中では暖炉の火が赤々と燃えているから部屋は暖かい―――
「……っ。さっむっ。暖炉ついてるんじゃないのぉ?」
「華夏が起きないからわざわざ冷やしてんの! こうでもしないと貴方みたいな寝坊助さんは起きないでしょ。何回起こしたと思ってるのよ?」
……ごもっともである。
「ありがとう―沙羅。おかげで目が覚め……ふわぁぁ。」
「どこが『おかげで目が覚めた』なのよ。」
「しかも、会議って言ったって、この集落の長――フレデリクさんに呼び出されてるだけでしょう? しかもまだ予定よりも2時間くらい早いし。」
「まあ、そうなんだけど、ここには仕事で来たんでしょ? そっちを先に片付けておきましょうよ。」
こうやって毎日私を起こしてくれる彼女は沙羅。私の幼馴染で、仕事の同僚。そして同居人の一人。
――能力者と呼ばれる者たちがいる。彼らは稀に生まれる様々な能力が使える人間だ。ただ、能力者ではなく、普通の人間からは嫌われていた。そして、ここは普通の人間が暮らす集落なのだ。昨晩の宿を探してたまたまこの集落を通りがかったのだが……。タイミングがいいのか悪いのか、この集落で魔術具による爆発事故が起きたのだ。これを見逃すわけにもいかず、対処しようとしたら集落の人々に殺意を向けられ、それを無視しながら魔術具をすべて回収した結果、集落の長がこの部屋を貸してくれて、今に至る。
「とはいえ、そっか。仕事か。ここに来た理由、忘れちゃってた。」
……仕事のことなどすっかり忘れていた。ここはリュンヌの峠と呼ばれている(その名の通り、『月の峠』という)地域だ。およそ500年ほど前、様々な衛星の中でも特に月について調査していた研究者たちが拠点にしていたこの岬周辺あたりがこう呼ばれている。そしてその研究者のほとんどが能力者だったと聞いたことがある。この集落の住民達は自身が能力者ではなくても、能力者の末裔がほとんどのはずだが……私達能力者を嫌悪するのは能力者ではない者にとっては当たり前になりつつあるらしい。
「忘れてたの? ここ周辺の調査のためにここに来たんでしょ。あと、調査の結果によっては、個人的なこととか、いろんなことを知るきっかけになるかもしれないんだし。」
「それもそうだね。星に関すること、技術、能力者という存在――。何もかもが今では再現することのできない文明を調査すれば、きっと空白の1000年の事やルメンの文明の事。それに――私の事もわかるはず。」
……私は能力者の中でも異例な存在だ。――まず能力者とは星の持つ魔力を使って何かしらの魔法が使える。これには得意不得意はありはするが詠唱なんてながったるいものはなくても魔法は使える。その代わり攻撃力とかは全くないため、普段の家事とか照明とかに役立つ程度の事しかできないが……。そしてその魔法の応用みたいな物の一つとして魔術があり、これを発動するためには詠唱を必要とする。それはさておき、そもそも能力者の扱える”オーラ”とはその【星】に認められなければ使うことができない。言うなれば、この【星】に認められた人間が能力者なのだ。だが、この能力者も自分を認めてくれた星のオーラしか扱うことができないし、オーラを扱えるようになること、【星】に認められることは人生の中で一度きりしかない。しかも一つの星のオーラの力は今発見されている星の中で一番力の弱い【星】のオーラだけでも、星二つ分の生命をすべて瞬殺できるほどのものすごい膨大なエネルギーだ。そのエネルギーのうち能力者が使えるのは「最大でも国を一つ滅ぼせるかどうかくらいの威力だ」という研究結果が出ていると、確か10年くらい前に研究者が発表していた。それに、一人が二つ以上の星に認めてもらえたところでその人間がそのオーラの力に耐えきることはまずできないためそのうち一つの星のオーラしか使う事ができないし、その人を認めた星の属性によって自分が使える属性がだいたい決まるため、二つ以上の属性持ちはまずいない―――はずなのだが。私は光属性がほとんどだけど、水、火、風、無、光、闇の全属性の魔法が一応使える。闇、無の魔法は光の魔法と真反対だから、相性全く合わなくてほとんど使えないし、実用性はあまりないから、今はいろいろと研究中なのだけれど。
「ホント、ほぼ全属性持ちとか、貴方何者なのよ……自分の生い立ちもわかんないんでしょ?」
「まぁ、魔法は一応練習はしてるけど……。光が主な属性だから、その他諸々はあまり上手に扱えないけど……。あと、文明に私の生い立ちとかが関係してるかどうかも分かんないし、そのことはあきらめかけてるけどねぇ。」
「そっか。でも生い立ちがどうこうは関係なく、それだけ魔法として出すことができたら、魔術みたいにはいかないとしても、もう十分な気がするのだけれど?」
「いや。もっとこう、頭の中でしっかりイメージを固めて……あっ。今思いついたこの魔術式も使えるかも。まぁそれはともかく、魔術式をオーラの流れに組み込めば、魔術として、戦闘でも使えるようになると思うの。そして、その応用でこの、私が昨日思いついて早速作った魔道具の試作品にさっきの魔術式も含め、何個か式を組み込めば、普通の人間にも魔法もどきみたいなのが使えるようになって生活をべ……」
「貴方、それ魔法辞典にびっしり文字と式と図が乗ったページが10ページ以上増える功績なのだけれど。何回辞典を更新させれば気が済むわけ?あと、それに伴ってあなたの仕事、一気に増えるわよ……?」
……のぉぉぉぉ。全く気がつかなかった。言われてみれば確かに。今年で何回目だ? これ。……ゑ?? 3回目? 今年と限らず、今までで考えると二桁行くぞ、これ。あの時見た、ギネスなんたらとかいう奴に認定されるレベルじゃん。私のばかぁぁぁぁぁ。でも自分のためにやったことだから私はバカじゃない? え? ……なんだか頭が痛くなってきた。帰ったら陛下と能力者魔法連合会会長のシェルビー様に土下座でもしよう。そうしよう。
「まあ、華夏が何者なのか調べるのはあきらめず、ぼちぼちやっていくってことで……まず、あんたは布団から出て早く着替えなさい! 一応仕事だからマントとかも忘れずにね。」
「……あと5分だけ、ダメ? 夜に思いついた魔術具と、持ってきてた講演会の資料作ってたからあんまり寝れてないんだよね……」
「え?見せて。……うわぁ。よくここまでこの短時間で書いたね。魔術具はともかく、資料は早く終わらせときたいものね。」
……見た瞬間何か嫌なものを見るような目で『うわぁ』はひどくないですか? 沙羅さん? そして本当に資料は早く終わらせときたい量が多いわりに提出日までの期限が短いからめんどくさ……ってこんなこと言っちゃいけないね。危ない危ない。
「そしてそんなに寝てないんじゃ寝てほしいって言いたいところだけど……貴方、睡眠時間0分でも大丈夫な人でしょ。」
「あはは……デスヨネー。資料はともかく、もうちょっとだけでも寝るのはやっぱりだめかぁ。ふぁぁぁ。じゃあ着替えるかな」
「そうしてくれるとありがたいわ。多分、もうすぐで星那と華瑠が来ると思うからそれまでに顔も洗っておくことをお勧めするわ。」
「男子ズかぁ……そうだね。わかった。ありがとう。」
「男子ズ(笑)私も後であいつらの事そう呼んでやろうかしら。」
――彼女たちはまだ知らない。これから彼女たちに降りかかる大災害を、出会う人を、そしてこの世界の理を……『久百合 華夏』という少女の生い立ちを、本当の姿を。これは、そんな彼らがこの世界に、過去に抗い、××を救う物語。
『星降る街の人間たちよ』のプロローグが何とか完成いたしました。続きは現在書き途中なのででき次第投稿いたします。首を長くしてお待ちください……。




