トール-1
ビービー
「さいたま市に再度怪獣警報発令!」
怪獣のエネルギー反応。
パラメータは上昇していた。
「なんだと!」
「クロリスのコアは回収完了したんじゃないのか。」
作戦部には衝撃が走っていた。
「いえ、その、クロリスじゃありません。」
「新たに怪獣が出現しました。」
「えっ!」
それは中々に信じがたい内容で、
読み上げる者も半信半疑だ。
「状況、確認。偵察局からの情報はまだか。」
「きました。名称トール。」
「ほんとに連続で違うやつが来たのかよ。」
「予想被害範囲、えっ…。」
「どうした。」
「あっ、予想被害範囲半径3km。」
「三キロ?!」
「広すぎるだろ、どう避難しろっていうんだ。」
「姿映せるか。」
「映像出ます。」
「こ、これは、、」
その姿はよく言われる「怪獣」とは違う
黒く幾何学的な姿。
厚みは幅ほどなくて平べったく、角があって上から見たら正方形型。どこにもとっかかりのない、まっすぐな面を何枚か集めたようだ。
でも、それより他の怪獣とは違う、特異な点があった。
「飛んでる…」
「飛行型かよ…」
そのフォルムはこの夜に明るく黒光って、それでいてゆっくりと進むその姿は少しもぶれなく、なぜか、怪獣に圧倒的な自信を感じた。
「100×100×20の20万㎥。高度100m。
こ、コア指数1.04!!」
「こ、コア指数1.04?!」
「まさか、そんなあるわけない。コア指数があのロキ越えなんて。」
「偵察に再計算要請。」
「はい。」
「なんかの間違いであってくれ。」
「司令。どうしますか。」
一旦の情報が出揃い、あとは「渡」司令に委ねられた。
まさかの二体連続での怪獣出現に戦闘局は荒れていた。次の一言でこの俺たち対策部をまとめてくれ。そんな期待まである。
「第一次戦闘配置につき次第、迎撃開始。」
「え、」
「待ってください。この短時間ですよ。」
「回収作業にあたっていた解体局の避難、間に合ってません。」
それは、優先順位にして第4番手目ぐらいの手だ。悪手とは言えないが、問題点が多すぎる。
「現状、回収完了しているとはいえ、クロリスのコアが近すぎる…。
この状況、この場所。クロリスのコアを狙っていると見て間違いない。」
「死にたくなければ逃げろと伝えろ。
俺たちも急がないと国がなくなるぞ。」
「まじかよ。」
「それでもテアが活動停止状態ですよ。」
「テアには緊急回復パック、『シャワー』だけで回復させる他ない。」
「それはテアの担当と、解体局に確認を取らないと…。」
「気にするな。テアの回復時間を推定しろ。」
「それでも、テアを回復させたところでどう使う気ですか。」
「可能性としてテアで、コアを持って逃げるかもしれん。」
「守れないと?」
「しかもかなり古典的な方法ですね。」
色々と司令の指示には驚かされることが多い。それもこれも俺たちが先を読む力がないからだろう。それにしても意図がわからないというのはキツイ。
「まずは迎撃からだ。そろそろ準備できたか?」
「はい。」
「トールとクロリスの距離は?」
「3km。」
「迎撃開始。」
迎撃は現地のクロリス戦の残りだ。数に限りがある。死ぬ気で戦うとはまさにこのことだろう。1000を超える砲撃。トールは弾幕に包まれた。
「効果は。」
だんだんと爆発が止んでいって姿が見える。
「トール。損傷箇所確認できません。」
「無傷?!」
「距離、1km。」
「避難、間に合ってません。」
「…。ミサイル。」
「えっ」
「NBミサイル準備!」
「な、もうですか。」
「まだ他の迎撃用ミサイルがありますよ。」
「用意!
状況を考えてみろ、避難までの時間はない、迎撃も無傷。おそらく中途半端な攻撃は全て無効化される。なら避難の時間を稼ぐためにもここで使う。」
「マジかよ。」
「アメリカにミサイルの報告しとけ。」
「ここから近いのどこ?」
「千葉の習志野駐屯地あります。」
「トールとの距離、約50キロ。」
「発射準備。」
「もう引けませんよ。」
「発射。」
「軌道問題なし、入射角35°」
「衝突衝撃来ます。」
雲を貫通して、まっすぐな軌道を描きとんできた。それがトールに直撃し、とんでもない大きさの爆発が見えたかと思うと、その衝撃波で雲が押し除けられ、それがカメラまで届いて映像が強く乱れた。
「当たった。」
「どうだ。」
「ふ、浮遊してます。」
目立った外傷なし。痺れるような結果だった。
やつはひょうひょうと浮いている。
「進行速度ゼロ。止まりました。」
「よし!」
「硬えな。」
「高度も10m下がってます。」
「効果ありっぽいな。」
「テア、15%回復。」
「足んねえ。」
「あとどれくらい必要。」
「十分に戦うには85%。あと、2時間は必要です。」
「長えな。」
「まあトールも止まったし、どうにかなりそうか。」
「いや、今ある15%を使って撤退だ。」
「えっ、コアを持って逃げるにしてももうちょっと回復しないと…。」
「コアは持たずにテアだけで撤退だ。」
「なんで。」
「そうですよ。ミサイルまで打ったのに。」
「偵察局から緊急連絡が入った。
怪獣内部にエネルギー反応。
まずい。すぐにテアを走らせろ。」
「えっ、」
「早くしろ。」
「テア走り出しました。回収スポットまで10km、2分ほどです。」
テアが…。人を守るテアが、現場に人を残し、逃げてしまった。この絶望感に、敵前にて戦いを放棄した者もいる。そんなことも知らずに本部はまた迎撃準備を命じた。
「と、トール再度動き始めました。」
「迎撃続行!時間を稼ぐぞ。」
「高エネルギー反応!」
「何が来る。」
「砲撃全て、目標に命中前に軌道が逸れて地面に落ちました。」
「あ?何が起こっている。」
「トール、クロリスまで200m。」
「おい、砲撃は。」
「現地から報告。全弾不発!発射できません。」
「弾が爆発してます。砲撃できません。」
「は?」
「く、クロリスのコアの直上にトール到着!
静止してます。」
「砲撃中止。コアに当たる可能性がある。」
「どうする。トール。」
現場に残っている人々、もう使えない火器兵器、ほぼ無傷のトール。
正直に言おう戦闘局の負けだ。
その上で、お前はどうする気だ。トール。
「収容具爆散、コア、露出しました。」
音もなく破られる収容具。
「コア、高度88mまで上昇。」
「吸収はしないのか。」
一見無意味に思えるコア回収。
「今度はトールごと急上昇。」
「高度700m。」
「今度はなんだ。」
「コアを持たれている以上こちらも迎撃できない。それに今まで他の怪獣のコアに近づく怪獣はいなかった。
怖すぎるな。」
まさかの人質戦法か。コアを人質にこちらの攻撃を消しているのか。
「?!」
それは急なことだった。
「コア!鉛直投射!」
トールは地面垂直に初速度100m/sほどの速度でコアを落下させた。
「は!」
それが地に着いた瞬間だろう。映像は音すら残らず画面が一気に白くなって消えた。それが衛生映像に切り替わってやっと状況がわかった。
「拒絶、反応…。」
建物、道、線路全てがなくなって、ぼっこり丸くなっていた。
「…」
「爆発半径…4km超。」
俺たちは言葉が出なかった。




