――霊鏡の仲間――
――夜は、すべてを奪う。
けれど同時に、何かを始める場所でもある。
これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、
人ならざるものの棲む森へと迷い込み、
“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。
名も知らぬ世界、霊鏡。
人と妖の境が曖昧なその森で、
少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。
これは――
運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。
源梓が静かに周囲を見渡す。
十将夜叉の視線が自然と領主へ集まった。
「さて……皆を集めた理由だけれど」
扇子を軽く閉じ、梓はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「亜由の集落を襲った者たち……あれはおそらく、陰陽師」
部屋の空気がわずかに重くなる。
「やっぱりか……」
美鬼が腕を組む。
「最近、妙に動きが活発だよね~」
鵺がくすりと笑う。
紬が少し不安そうに言う。
「でも……ここまで露骨なのは珍しいね」
梓は頷く。
「えぇ。だから警戒が必要よ」
その言葉に、十将夜叉の面々は真剣な表情になる。
梓は亜由の方を見る。
「そしてもう一つ……」
亜由はびくっと背筋を伸ばした。
「この子――亜由を、霊鏡の仲間として迎え入れてもいいか」
一瞬の静寂。
「私は賛成~」
真っ先に手を挙げたのは紬だった。
「困ってる子を放っておけないしね」
「私もいいと思います」
カエデが静かに頷く。
「半妖なら、ここが一番安全でしょう」
「さんせー!!」
こころが元気よく手を挙げる。
「新しい友達だよね!」
「別に反対する理由はないな」
美鬼が笑う。
「強くなりそうだしな」
「ふふ……賑やかになりますね」
藍も穏やかに微笑んだ。
「問題ない」
しおりが小さく頷く。
「面白そうじゃん」
鵺がにやりと笑う。
「私も構いません」
蒼が静かに言う。
天井から鏡の声がする。
「異議なしです」
七人同行の声が重なった。
「賛成」
「賛成」
「賛成」
「賛成」
「賛成」
「賛成」
「賛成」
梓は少しだけ驚いたように笑う。
「満場一致ね」
そして亜由を見る。
「亜由。今日からあなたは――霊鏡の仲間よ」
亜由の目が大きく開かれる。
「え……?」
一瞬遅れて、言葉が出る。
「ほ、本当に……?」
「えぇ」
梓は優しく微笑む。
「ここは妖怪と半妖の居場所だから」
亜由の目にうっすら涙が浮かんだ。
「……ありがとうございます!」
深く頭を下げる。
その様子を見て、こころが嬉しそうに笑う。
「よろしくねー!亜由!」
「よろしくお願いします」
カエデも穏やかに言う。
会議はこれで終わりかと思われたが――
亜由が少し遠慮がちに手を上げた。
「あの……」
「どうしたの?」
梓が聞く。
「その……屋敷の中……色んな場所、見てみたいです」
亜由は少し恥ずかしそうに言う。
「……ずっと集落で暮らしてたので……」
こころが身を乗り出す。
「じゃあ私が――」
「だめ」
ナチカが即答する。
「こころが案内すると確実に迷う」
「えぇー!?」
部屋に小さな笑いが起きる。
梓が扇子で口元を隠して笑った。
「じゃあナチカ、お願いできる?」
「……はい」
ナチカは仕方なさそうに立ち上がる。
亜由の方を見る。
「行くよ」
「あ、はい!」
二人は襖を開けて廊下へ出た。
長い木の廊下。
静かな庭。
大きな屋敷。
亜由は目を輝かせる。
「……すごい」
「普通だよ」
ナチカは淡々と言う。
「ここが霊鏡の屋敷」
亜由はゆっくり歩きながら周囲を見る。
「なんだか……」
「?」
「新しい世界みたいです」
ナチカは少しだけ、優しく微笑んだ。
「そのうち慣れる」
静かな夜の屋敷。
半妖の少女の、新しい生活が――
今、始まろうとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




