――五行収束、久遠を断つ刃――
――夜は、すべてを奪う。
けれど同時に、何かを始める場所でもある。
これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、
人ならざるものの棲む森へと迷い込み、
“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。
名も知らぬ世界、霊鏡。
人と妖の境が曖昧なその森で、
少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。
これは――
運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。
戦場は、夕焼けの終わりとともに沈みかけていた。
赤は紫へ。
紫は黒へ。
そしてその中心――
安倍晴明は静かに立っていた。
周囲には、歪む五つの力。
木。火。土。金。水。
すべてが、彼の意のままに揺らめいている。
安倍晴明は言った。
「これが陰陽の極致……すべてを内包する力よ」
その瞬間。
大地が隆起し、炎が渦を巻き、水が槍となり、風が刃となり、樹が絡みつく。
一斉に、亜由たちへと襲いかかった。
ナチカは踏み込んだ。
ナチカは言った。
「……ん、切る」
鎌を振るう。
「鎌鼬・裂風連断」
風が刃となり、迫る攻撃を切り裂く。
だが、すぐに再生する。
覚は目を細めた。
覚は言った。
「……なるほど、無駄な動きが一切ない」
次の瞬間、動く。
「覚醒・心読打」
未来を読むような一撃。
だが――
晴明はわずかに体をずらしただけで避けた。
覚は舌打ちする。
「……読まれてる……!」
六花は叫びながら飛び出す。
六花は言った。
「鬼天棍・爆砕旋!!」
棍が唸りを上げ、大地ごと叩き砕く。
雷はそれに合わせる。
雷は言った。
「……合わせる……です」
「雷獣・轟雷突進」
雷を纏い、一直線に突っ込む。
だが――
晴明の周囲に五行の壁が展開される。
すべてが弾かれる。
ノーマは影に沈み、覚の生み出した瓦礫の影へ潜る。
そして、現れる。
ノーマは言った。
「……ここです」
「ノウマ・影穿撃」
背後からの一撃。
だが晴明は振り向きもせず、土を隆起させ防ぐ。
水月は歯を食いしばった。
水月は言った。
「……なら、流れを変える……!」
両手を振るう。
「ヤロカ水・濁流奔流」
巨大な水流が戦場を飲み込む。
五行の均衡を崩そうとする。
一瞬――
ほんの一瞬だけ。
晴明の動きが鈍った。
ナチカはそれを見逃さない。
ナチカは言った。
「……今」
風が加速する。
覚はその動きを読む。
覚は言った。
「そこ、動くわね」
攻撃の軌道が重なる。
連携。
だが、それでも足りない。
そのとき――
天が空から舞い降りた。
炎を纏い、長い尾を揺らす。
天は静かに言った。
「……いつまで……いつまで……いつまで生きてるの?」
その瞳に宿るのは、怒りでも憎しみでもない。
ただ――終わらせる意志。
次の瞬間。
天は叫んだ。
「以津真天・終焉炎尾!!!」
炎を纏った尾が晴明を拘束し、そのまま空高く放り投げる。
晴明の身体が宙に浮く。
――隙。
亜由の目が光る。
亜由は言った。
「みんなの力……借ります!」
式神の力が集まる。
風。心。水。土。
すべてを束ねる。
亜由は両手を掲げた。
空間に五芒星が展開される。
「陰陽五行・封縛星陣」
木が絡み、土が縛り、水が重く押し潰し、金が固定し、火が焼き封じる。
完全拘束。
晴明の身体が空中で止まる。
安倍晴明は初めて苦しげに顔を歪めた。
「……これは……」
源梓が前へ出る。
静かに、確実に。
神刀を構える。
源梓は言った。
「……終わりよ」
刀が光る。
神刀・久遠清水。
澄み切った水のような刃。
だがその内に秘めるのは、時すら断つ力。
源梓は踏み込んだ。
「久遠清水・終断流転」
一閃。
世界が、止まった。
そして――
晴明の身体が、ゆっくりと崩れる。
その瞬間。
晴明の目が、わずかに見開かれた。
安倍晴明は言った。
「……その力……人でありながら……妖の理……」
源梓を見つめる。
安倍晴明は続けた。
「……八百比丘尼の……血か……なるほど……」
源梓は何も答えない。
ただ、静かに刀を振り払う。
安倍晴明は微笑んだ。
安倍晴明は言った。
「……見事だ……」
その身体は、塵となって消えた。
風に乗り、空へと溶けていく。
戦場に、静寂が戻る。
誰も動かない。
やがて――
夜が訪れる。
空に浮かぶ月。
その光が、戦いの終わりを優しく照らしていた。
血も、傷も、すべてを包み込むように。
長き戦いは、ここに終焉を迎えた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




