ーー鬼哭繚乱、復讐の双牙と雷将の覚醒ーー
――夜は、すべてを奪う。
けれど同時に、何かを始める場所でもある。
これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、
人ならざるものの棲む森へと迷い込み、
“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。
名も知らぬ世界、霊鏡。
人と妖の境が曖昧なその森で、
少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。
これは――
運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。
大地はすでに割れ、血と霊力が混ざり合った戦場。
倒れ伏す影。
消えゆく気配。
そして――
残された者たち。
坂田金時が大刀を肩に担ぎ、笑う。
「それにしてもお前ら誰だぁ?」
興味本位の声。
「仇討ちとか言ってたなぁ……」
目を細める。
「誰の仇だぁ?」
紬は静かに目を伏せる。
「……美鬼はともかく……」
顔を上げる。
その瞳には、確かな憎しみ。
「私を覚えていないのですか……」
金時が首を傾げる。
「あぁ?」
笑う。
「覚えてるも何も初対め――」
その瞬間。
渡辺綱の表情が変わった。
「……その妖気……」
眉をひそめる。
「蜘蛛の糸のように粘り気のある……」
息を呑む。
「見たことがある……いや……そんなまさか……」
紬は静かに頷いた。
「……覚えててくださったんですね」
一歩、前に出る。
「……十将夜叉」
その声が空気を裂く。
「妖怪『土蜘蛛』の紬と申します」
美鬼が隣で笑う。
「十将夜叉!」
牙を見せる。
「酒吞童子の娘 美鬼!」
二人が同時に構える。
「これより制裁を開始する!」
一瞬の沈黙。
渡辺綱が低く呟く。
「土蜘蛛……!?」
目を細める。
「それに酒吞童子の娘だと……!?」
卜部季武が驚愕する。
「あの鬼に娘がいたのか……」
だが、すぐに冷静さを取り戻す。
「しかし土蜘蛛は源頼光様が……」
紬は淡々と答える。
「そのことですか?」
口元がわずかに歪む。
「囮を作って逃げたに決まってるじゃないですか……」
碓井貞光が槍を構える。
「……しかし、貴様は一度敗れている」
冷たい声。
「どうあがいても結果は同じだ」
視線を美鬼へ。
「酒吞童子の娘とやらも同じ」
「親が我らに敗れているのだから、子も同じだろう」
美鬼が笑った。
狂気すら滲ませて。
「後で泣いても知らねぇぞ?」
紬を横目で見る。
「紬!へますんじゃねぇぞ!!!」
紬も小さく頷く。
「そちらこそ」
金時が大笑いする。
「ヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」
大刀を振り上げる。
「そうこなくっちゃなぁ!!!」
地面に叩きつける。
「足柄・地響!!!」
大地が爆ぜる。
振動が足元を崩す。
だが。
美鬼は踏み込んだ。
「鬼にそんな技通用しねぇぞ!!!」
跳躍。
「嵐山鬼襲!!!」
一直線。
金時が笑う。
「ヒャヒャ!!力比べかぁ!?」
迎え撃つ。
「負けねぇぜ!!!」
衝突。
衝撃。
その裏で。
季武が弓を引く。
「姑獲鳥の揺籠……!」
矢を放つ。
空へ。
分裂。
無数の光の矢が降り注ぐ。
だが。
紬は静かに弓を構えた。
糸。
鋼鉄の糸。
「……鋼糸・弓千華!!!」
糸が弾かれる。
無数の矢を撃ち落とす。
そして。
一瞬で間合いを詰める。
季武の目が見開かれる。
(接近された!?)
咄嗟に。
「無心・一矢!!」
至近距離。
必殺の一射。
だが。
紬の方が速い。
「鉄弦一閃!!!」
斬撃。
矢ごと断つ。
そのまま。
季武の身体が裂ける。
「グァッ!?!?!」
崩れ落ちる。
紬が静かに言う。
「まず一人!」
美鬼が笑う。
「よくやった!」
貞光が息を呑む。
「なに!?」
金時の動きが一瞬止まる。
「……」
その隙を。
見逃さない。
美鬼が背後に回る。
「おっと、よそ見はいけねえな」
金時の目が見開かれる。
「しま――!?」
振り下ろす。
「大江山烈斬!!!」
一閃。
次の瞬間。
坂田金時の上半身が消し飛んだ。
静寂。
渡辺綱が静かに刀を構える。
「……少し侮っていたようだ……」
貞光が頷く。
「……共に出るぞ」
「あぁ」
二人が同時に踏み込む。
貞光。
「四万の清流」
水の流れのような槍。
綱。
「戻橋・一文字!!!」
一閃。
完璧な連携。
だが。
美鬼は笑う。
「お!連携か?」
刀を振るう。
「いいねえ!!!」
「京鬼乱舞!!!」
斬撃の嵐。
衝突。
拮抗。
だが――
押す。
美鬼が押す。
綱が呻く。
「グッ!」
貞光も歯を食いしばる。
「ぬぅっ!!」
その瞬間。
紬が動いた。
後方から。
弓を引く。
「……鋼弓・裂空穿!!!!」
放たれる。
空気を裂く一撃。
源頼光の目が鋭く光る。
「!?」
だが。
間に合わない。
直撃。
綱と貞光の身体を貫く。
沈黙。
二人はそのまま崩れ落ちた。
美鬼が肩で息をする。
「さて……」
刀に手を置く。
「残るは一人か……」
紬も静かに弓を構える。
「……」
源頼光。
ただ一人。
立っている。
その目が、ゆっくりと二人を捉える。
「これほどとは……」
低い声。
そして。
一歩、前へ。
「しょうがない……」
雷の気配が走る。
空気が震える。
「私自ら滅してくれる」
その瞬間。
空が暗くなる。
雷鳴。
本当の戦いが――
始まる。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




