ーー鏡界崩界、反射する終焉と土の極致ーー
――夜は、すべてを奪う。
けれど同時に、何かを始める場所でもある。
これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、
人ならざるものの棲む森へと迷い込み、
“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。
名も知らぬ世界、霊鏡。
人と妖の境が曖昧なその森で、
少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。
これは――
運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。
歪んだ空間。
現実と虚構の境界が曖昧になった戦場。
そこに対峙するは――
揺るがぬ中心の守護者。
勾陳。
そして。
すべてを映し返す異質な存在。
鏡。
勾陳が低く唸る。
「雲外鏡……」
その目は鋭い。
「古い鏡の妖怪……付喪神か……」
鏡は微動だにせず、ただ答える。
「それがなにか?」
次の瞬間。
勾陳の気配が一気に膨れ上がる。
「フンッ!」
地面を踏み砕く。
「私の相手にもならんという意味だ!!!」
腕を振り上げる。
「土公の縛鎖!!!」
地面から伸びるのは――
影のような鎖。
黒く、重く、禍々しい。
それはただの拘束ではない。
触れた霊力そのものを封じ込める。
完全拘束の術。
鎖が四方八方から鏡へと襲いかかる。
だが。
鏡は静かに手をかざした。
「鏡面・反射の刻」
空間が震える。
「反響の唄……」
次の瞬間。
無数のガラス片が出現した。
空中に浮かび、回転し、光を反射する。
鎖が触れる。
――その瞬間。
跳ね返る。
否。
増幅される。
一本が十に。
十が百に。
鎖は旋律のように連なり、反転し――
勾陳へと襲い返る。
「なに!?」
防御する暇もなく。
ドガァァァン!!!
爆ぜる。
土煙が舞う。
勾陳が吹き飛ばされる。
だが。
倒れない。
「グッ……!」
膝をつきながらも立ち上がる。
「……何だこの力……!!」
その目が見開かれる。
「貴様!!」
怒号。
「本当に付喪神か!!!」
鏡は、わずかに首を傾ける。
「はい、付喪神ですよ……」
静かな声。
だがその奥に潜むのは異質な気配。
「ただ……」
一拍。
「日本最古の妖怪『ヤマタノオロチ』のオロチ様と」
鏡面が歪む。
「天照大御神様に色々と“改造”されてますが」
沈黙。
勾陳の顔が歪む。
「なんだと……!?」
だが。
すぐに笑う。
狂気すら滲ませて。
「……まぁ良い!!」
拳を握る。
「叩き潰してくれる!!!」
全身から土の力が溢れ出す。
地面が隆起する。
大地そのものが武器となる。
「勾陳・戦塵殺!!!!」
大地が爆ぜた。
無数の土塊が圧縮され、弾丸のように放たれる。
空間ごと潰す質量攻撃。
だが。
鏡は静かに目を閉じた。
「……羅生門」
空間が裂ける。
無数の門。
異界の門。
「鬼死怪星境門の残影」
門が重なる。
歪む。
重複する。
その中に、すべてが吸い込まれる。
土塊。
衝撃。
すべて。
そして。
別の門から――
返る。
何倍にも膨れ上がって。
「なっ……!」
直撃。
ドォォォォン!!!
勾陳の体が吹き飛ぶ。
大地に叩きつけられる。
クレーターが生まれる。
静寂。
だが。
その中心で。
勾陳は――
まだ立っていた。
「……はぁ……」
呼吸は荒い。
体はボロボロ。
だが。
その目は死んでいない。
「……なるほど……」
ゆっくりと構える。
「ただの付喪神ではないな……」
土の力が収束する。
一点に。
極限まで。
圧縮される。
大地が震える。
空間が軋む。
「ならば……」
声が低くなる。
「これで終わらせる」
全霊。
すべてを込めた。
究極の一撃。
「勾陳奥義――」
大地が光る。
「天中黄龍・崩界絶対圧殺」
その瞬間。
空が割れた。
巨大な土の龍。
黄金の輝きを帯びた存在。
中心の象徴。
絶対の圧。
それが。
鏡へと落ちる。
逃げ場はない。
防げば潰れる。
そんな一撃。
だが。
鏡は。
笑った。
「……そうですか」
静かに。
手をかざす。
「鏡界奥義――」
空間が完全に変わる。
すべてが鏡。
上下左右。
無限の反射空間。
「万華反照・終極輪廻鏡」
落ちてきた龍が。
映る。
一枚に。
二枚に。
百に。
千に。
増える。
同じ威力。
同じ質量。
同じ絶対圧。
それが。
すべて。
反転する。
勾陳へ。
「……なっ……」
回避不能。
次の瞬間。
世界が崩れた。
轟音。
光。
衝撃。
すべてが収束し。
そして。
消えた。
静寂。
そこに立っているのは――
鏡だけ。
勾陳は。
塵となって。
崩れ落ちた。
鏡が静かに呟く。
「……終わりですね……」
――別の戦場。
空気が張り詰めている。
対峙するのは――
酒吞童子の娘「美鬼」。
そして。
土蜘蛛「紬」。
美鬼が一歩前に出る。
「本気で行くぞ」
紬が静かに頷く。
「えぇ」
その目に宿るのは憎しみ。
「貴女と私の仇相手を」
「確実に仕留めましょう」
対するは――
渡辺綱。
坂田金時。
碓井貞光。
卜部季武。
そして。
源頼光。
渡辺綱が吐き捨てる。
「穢らわしい妖ごときが」
金時が笑う。
「どいつだ!?」
刀を構える。
「どいつからオレに殺されに来る?」
貞光は無言で槍を構える。
季武が弓を引き絞る。
「痛みのないよう」
「一撃で仕留めよう」
弦が軋む。
頼光が鼻で笑う。
「……フンッ」
冷たい視線。
「雑魚どもが……」
戦いは――
さらに激化する。
ここまで読んでくれてありがとうございます
次回もお楽しみに




