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外伝「第一弾」アルケオン 霊鏡物語  作者:


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ーー春雷に抗う幻炎、二つの血の証明ーー

――夜は、すべてを奪う。

けれど同時に、何かを始める場所でもある。


これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、

人ならざるものの棲む森へと迷い込み、

“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。


名も知らぬ世界、霊鏡。

人と妖の境が曖昧なその森で、

少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。


これは――

運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。

戦場の空は、すでに夜の色を失いかけていた。


 


東の空がわずかに白み始める中――

それでもなお、激戦の気配は消えない。


 


その中心にいたのは。


 


天を泳ぐ巨大な存在。


 


青龍。


 


長大な体が雲を裂き、蒼き鱗が淡く光を放つ。

その姿は、ただの戦闘存在ではない。


 


「木」の象徴。


 


春。


 


芽吹き。


 


生命。


 


そして――恵み。


 


青龍は静かに見下ろしていた。


 


その眼差しは冷静で、どこか慈しみすら含んでいる。


 


「……始めよう」


 


低く、だがよく通る声。


 


その前に立つのは――


 


隠神こころ。


 


西園カエデ。


 


こころは拳を握りしめる。


 


「……くるよ」


 


カエデは扇を軽く開いた。


 


「ええ」


 


その瞬間。


 


青龍の周囲に水が集まった。


 


空気中の水分。


 


地の水脈。


 


すべてが引き寄せられる。


 


「青龍式――」


 


空が震える。


 


「春恵・降雨陣」


 


次の瞬間。


 


雨が降った。


 


ただの雨ではない。


 


圧力を持つ水の刃。


 


空から無数に降り注ぐ。


 


「っ!?」


 


こころが跳ぶ。


 


地面に着弾した水が爆ぜる。


 


「なにこれ……!」


 


カエデも舞うように避ける。


 


「ただの水ではない……!」


 


雨は止まらない。


 


むしろ強まる。


 


それは攻撃でありながら――


 


同時に。


 


周囲の植物が急速に成長していた。


 


草が伸びる。


 


根が地面を突き破る。


 


木が生え、枝を広げる。


 


「……生命を活性化させている……」


 


カエデが呟く。


 


青龍は静かに言う。


 


「我が力は」


 


「奪うものではない」


 


「与えるもの」


 


だが。


 


その「与える」が過剰になれば。


 


それは破壊となる。


 


木々が暴走する。


 


根が絡みつく。


 


「くっ……!」


 


こころの足に根が絡む。


 


引きずり込まれる。


 


その瞬間。


 


「燃えなさい」


 


カエデが扇を振る。


 


「狐火・紅蓮裂き」


 


炎が走る。


 


根を焼き払う。


 


こころが飛び退いた。


 


「助かった!」


 


だが。


 


青龍はすでに次の動きをしていた。


 


巨大な水流が渦を巻く。


 


「青龍式・蒼流牙」


 


水の牙。


 


圧縮された水流が槍のように放たれる。


 


二人は避ける。


 


だが。


 


速い。


 


「がっ……!」


 


こころが吹き飛ばされる。


 


地面を転がる。


 


カエデも直撃を避けきれず、後方へ弾かれた。


 


「く……!」


 


圧倒的だった。


 


攻撃。


 


速度。


 


範囲。


 


そして持続力。


 


青龍は淡々と続ける。


 


「まだ終わりではない」


 


再び雨。


 


さらに木々の成長。


 


戦場そのものが青龍の支配下にある。


 


こころは立ち上がる。


 


息が荒い。


 


「……強すぎるでしょ……」


 


カエデも唇を噛む。


 


「ええ……ですが……」


 


視線を合わせる。


 


「まだ終わっていません」


 


こころが笑う。


 


「だよね」


 


二人は同時に前に出た。


 


そして――


 


声を揃えた。


 


「「十将夜叉の一人!」」


 


妖気が膨れ上がる。


 


「「玉藻前と人間!」」


 


炎が揺れる。


 


「「隠神刑部狸と人間の娘!」」


 


大地が震える。


 


「「隠神こころ!西園カエデ!」」


 


二つの力が重なる。


 


「「私たちの力を見るが良い!!!」」


 


空気が変わった。


 


こころの周囲に土が集まる。


 


重く、粘り強い力。


 


「土」の力。


 


同時に。


 


カエデの周囲に炎が舞う。


 


鋭く、研ぎ澄まされた熱。


 


「金」と炎の融合。


 


青龍がわずかに目を細めた。


 


「……良い」


 


「来い」


 


こころが地面を叩く。


 


「化け狸術――」


 


土が波のようにうねる。


 


「土幻・千変万化」


 


無数の分身。


 


すべてがこころの姿。


 


だがすべてが実体。


 


青龍が水流で薙ぎ払う。


 


だがその間に。


 


カエデが飛び込む。


 


「狐火・焔鎖刃」


 


炎が鎖のように絡みつく。


 


青龍の体に巻きつく。


 


「む……」


 


動きがわずかに止まる。


 


そこへ。


 


こころが踏み込む。


 


「土縛・地獄絡み」


 


地面から巨大な腕が伸びる。


 


青龍の体を掴む。


 


押さえつける。


 


だが。


 


青龍の力は強い。


 


「甘い」


 


体を震わせるだけで拘束が砕ける。


 


しかし。


 


その瞬間。


 


カエデの声が響いた。


 


「今よ!」


 


こころが笑う。


 


「任せて!」


 


再び地面を叩く。


 


今度は。


 


さらに深く。


 


「土極・奈落化生」


 


地面が崩れる。


 


巨大な穴。


 


底なき土の渦。


 


青龍の体が沈む。


 


その上から。


 


カエデが炎を重ねる。


 


「狐火・天照焔葬」


 


炎が柱となって降りる。


 


土と炎。


 


相反する力が。


 


融合する。


 


青龍が初めて苦しげな声を漏らす。


 


「……見事……」


 


それでも。


 


まだ消えない。


 


その生命力は異常。


 


だが。


 


こころが笑う。


 


「まだ終わりじゃないよ」


 


カエデも頷く。


 


「ええ」


 


二人の力が重なる。


 


「これで――」


 


同時に叫ぶ。


 


「終わり!!」


 


爆発。


 


土と炎が完全に融合し、内部から破壊する。


 


青龍の体に亀裂が走る。


 


光が漏れる。


 


そして。


 


崩れた。


 


塵となり。


 


風に舞う。


 


その塵は――


 


花びらのようだった。


 


淡く。


 


美しく。


 


春の終わりのように。


 


青龍は塵となり消えた。


 


 


静寂。


 


こころがその場に座り込む。


 


「やっと終わった~!」


 


カエデは息を整えながら空を見た。


 


「……皆さんは」


 


「無事でしょうか……」


 


 


その頃。


 


別の戦場。


 


太陽はすでに昇りきっていた。


 


黄金の光が大地を照らす。


 


その中心に。


 


炎の鳥が舞い降りる。


 


朱雀。


 


燃え盛る翼。


 


その姿はまさに灼熱の象徴。


 


朱雀は優雅に羽ばたいた。


 


「あなた方の力」


 


美しい声。


 


だがその奥にあるのは、絶対的な焼却の意思。


 


「この朱雀が見定め」


 


炎が広がる。


 


「美しく」


 


空気が焼ける。


 


「消し炭にしてあげましょう」


 


その前に立つのは――


 


藍。


 


蒼。


 


藍がくすりと笑った。


 


「あら」


 


腕を組む。


 


「じゃあ私は」


 


「あなたを焼き鳥にしてあげるわ」


 


蒼が静かに前に出る。


 


青い炎が揺らめく。


 


「……炎は」


 


「この青行燈の蒼に任せてください」


 


その瞳が細くなる。


 


「十将夜叉として」


 


炎が強まる。


 


「綺麗な焼き鳥にしてあげますよ」


 


藍が笑う。


 


「まあ」


 


軽く肩をすくめる。


 


「じゃあ私も」


 


「十将夜叉として頑張ろうかしら」


 


炎と炎。


 


灼熱の戦いが――


 


今、始まる。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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