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外伝「第一弾」アルケオン 霊鏡物語  作者:


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ーー深淵の連鎖、水を呑む神獣ーー

――夜は、すべてを奪う。

けれど同時に、何かを始める場所でもある。


これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、

人ならざるものの棲む森へと迷い込み、

“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。


名も知らぬ世界、霊鏡。

人と妖の境が曖昧なその森で、

少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。


これは――

運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。

戦場の一角。


 


大地が沈み、空気が重く沈殿していた。


 


そこに佇むは、山のような巨体。


 


玄武。


 


甲羅は岩山の如く硬く、四肢は大地に根を張るように太い。

その背後から伸びる蛇が、ゆらりと空気を舐めるように動いていた。


 


圧倒的な防御。

揺るがぬ基盤。


 


それが、玄武という存在だった。


 


その前に立つのは――


 


七人同行。


 


だが、今この場にいるのは三人のみ。


 


残る四人は、結界の中枢――コアの守護に回っている。


 


それでも。


 


三人は静かに構えていた。


 


「ふむ……」


 


中央の一人が、玄武を見上げる。


 


「なるほど」


 


「水を司る神獣……」


 


もう一人が息を整える。


 


「同じ水でも……」


 


三人目が震えながらも言う。


 


「こ、こちらは……“深淵”……です……」


 


七人同行。


 


彼らが司るは、水の連鎖。


 


流れ。


 


巡り。


 


そして――


 


底なき深淵。


 


玄武が低く口を開いた。


 


「ほう……」


 


「三人か」


 


大地が揺れる。


 


「数が足りぬのではないか?」


 


七人同行の一人が笑った。


 


「数で測るな」


 


「我らは七にして一」


 


静かに手を上げる。


 


「三でも」


 


「七だ」


 


その瞬間。


 


空気が変わった。


 


足元に水が滲む。


 


だがそれはただの水ではない。


 


底が見えない。


 


覗けば引き込まれるような、暗い水。


 


玄武の蛇が反応する。


 


「……面白い」


 


玄武が前進する。


 


ドン、と地面が沈む。


 


「ならば見せてみよ」


 


口を開く。


 


「我が守りを破れるかどうかをな」


 


甲羅が淡く光る。


 


水の気配。


 


防壁。


 


「玄武式・水鏡障壁」


 


その瞬間。


 


透明な壁が周囲に展開された。


 


水の膜。


 


だがその密度は岩をも凌ぐ。


 


七人同行の一人が静かに言う。


 


「ならば」


 


「試すとしよう」


 


三人が同時に動いた。


 


足元の水が広がる。


 


「七人同行・水縛連鎖」


 


水が鎖のように変形する。


 


幾重にも連なり、玄武へと絡みつく。


 


だが――


 


パキン、と音がした。


 


すべて弾かれる。


 


玄武が鼻を鳴らす。


 


「軽いな」


 


「その程度では」


 


「我が甲羅には届かぬ」


 


蛇が動いた。


 


「ならばこちらから行くぞ」


 


口から水弾が放たれる。


 


「玄武式・濁流砲」


 


巨大な水の塊が一直線に飛ぶ。


 


三人が散開する。


 


地面が爆ぜる。


 


「ぐっ……!」


 


だが一人がかすめる。


 


その瞬間。


 


玄武が踏み込む。


 


圧殺の一撃。


 


「遅い」


 


だが。


 


踏みつけたはずの地面が崩れた。


 


水。


 


否。


 


深淵。


 


足が沈む。


 


玄武の動きが一瞬止まる。


 


「……何だ?」


 


七人同行が同時に手をかざす。


 


「七人同行・深淵転位」


 


周囲の空間が歪む。


 


水が、空間を飲み込む。


 


玄武の足元から、黒い水が噴き上がる。


 


「ぬ……!」


 


蛇が反応する。


 


だが遅い。


 


水はすでに絡みついている。


 


「流れではない」


 


「巡りでもない」


 


「これは」


 


三人の声が重なる。


 


「落ちるもの」


 


「深淵」


 


玄武が力を込める。


 


「押し返す!!」


 


甲羅が輝く。


 


「玄武式・絶対水壁」


 


水の層が何重にも重なり、圧を弾き返す。


 


深淵が押し戻される。


 


だが。


 


七人同行は動じない。


 


「ならば」


 


「沈めるまで」


 


「重ねるだけだ」


 


水がさらに増える。


 


鎖。


 


渦。


 


奈落。


 


「七人同行・連鎖深淵牢」


 


玄武の周囲が完全に閉じる。


 


上下左右。


 


すべて水。


 


だがその水は、底がない。


 


引き込まれる。


 


吸い込まれる。


 


玄武の足が沈む。


 


「……ぐ……!」


 


初めて苦しげな声が漏れる。


 


甲羅が軋む。


 


蛇が暴れる。


 


「無駄だ」


 


七人同行が言う。


 


「水は流れるもの」


 


「だが深淵は」


 


「逃がさない」


 


さらに力が加わる。


 


「終わりだ」


 


三人が同時に手を振り下ろす。


 


「七人同行・奈落封殺」


 


その瞬間。


 


深淵が閉じた。


 


完全に。


 


玄武を飲み込むように。


 


静寂。


 


一拍遅れて。


 


――パキン。


 


音がした。


 


甲羅に亀裂が入る。


 


次々に。


 


そして。


 


崩壊。


 


玄武は崩れた。


 


塵となり。


 


水に溶けるように。


 


消えていった。


 


玄武は塵となり消えた。


 


 


静寂。


 


七人同行の一人が息を吐いた。


 


「ふむぅ」


 


もう一人が肩を回す。


 


「この程度ですか」


 


三人目が小さく笑った。


 


「神獣というのは」


 


 


その頃。


 


別の戦場。


 


空を裂くような風が吹いていた。


 


巨大な影が空を泳ぐ。


 


青龍。


 


長大な体を持つ龍が、ゆっくりと降りてくる。


 


その瞳は冷たい。


 


「乗り気ではないが」


 


低い声が響く。


 


「私は」


 


「お前たちの相手をせねばならぬようだ」


 


その前に立つのは――


 


隠神こころ。


 


そして。


 


西園カエデ。


 


こころが一歩前に出る。


 


「隠神刑部狸の娘!」


 


拳を握る。


 


「化け狸の力!」


 


にっと笑う。


 


「あなどらないでね!」


 


カエデが静かに扇を広げる。


 


「玉藻前の娘の妖術」


 


その瞳が妖しく光る。


 


「その身体に」


 


「刻み込んであげましょう」


 


青龍が静かに目を細めた。


 


空気が張り詰める。


 


次なる激突が――


 


今、始まろうとしていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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