ーー白刃に宿る魂、砕かれる神獣ーー
――夜は、すべてを奪う。
けれど同時に、何かを始める場所でもある。
これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、
人ならざるものの棲む森へと迷い込み、
“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。
名も知らぬ世界、霊鏡。
人と妖の境が曖昧なその森で、
少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。
これは――
運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。
月はさらに沈み、夜は終わりへと向かっていた。
だが戦場は、むしろ熱を増していた。
爆ぜる炎、裂ける大地、飛び交う妖力。
その中心で――
しおりは静かに薙刀を構えていた。
目の前には、巨大な白き獣。
白虎。
鋭い牙と爪、しなやかな筋肉。
その全身から、圧倒的な殺気が滲み出ている。
しおりは小さく呟いた。
「お前を斬ったら」
「私の薙刀は」
「何色に染まるのだろうか」
白虎が低く唸る。
「グルルルルル………」
そして口を開いた。
「その前に」
「貴様を食い殺してくれるわ」
地面を蹴る。
爆音。
「行くぞ!!!」
一瞬で距離を詰める。
「白虎爪牙!!!」
閃光のような速度で爪が振り下ろされる。
空気が裂けた。
だが――
しおりは動かない。
ただ静かに薙刀を振る。
「付喪神式薙刀術――」
空気が変わる。
「面霊ノ極意………」
刃が触れた瞬間。
白虎の動きが止まった。
「グッ!?……な、なんだ?」
体が揺れる。
「毒か!?」
しおりは淡々と言う。
「………違う」
薙刀をわずかに持ち上げる。
「面霊気は」
「取り憑いたものの生気を吸う」
「お前の生気を」
「薙刀に吸わせただけだ」
白虎の瞳が細くなる。
「ふん………」
「なかなかやるようだな……」
牙を剥く。
「付喪神のぶんざいで」
しおりの視線が冷たくなる。
「私は」
「十将夜叉の一人」
「付喪神妖怪・面霊気」
一歩踏み出す。
「若い付喪神と」
「一緒にされては困る」
白虎が笑った。
「フンッ!」
「私にはただ」
「ふわふわと浮いている雑魚に見えるが?」
構えを取る。
「まぁいい………」
牙が光る。
「その本体の面ごと」
「噛み砕き」
「私の礎としてくれる」
しおりは静かに息を吐いた。
「………威勢のいい駄獣だな……」
次の瞬間。
白虎が消えた。
否。
速すぎて見えない。
背後。
「遅い」
爪が振り下ろされる。
だが。
そこにいたはずのしおりの姿が、霧のように揺らぐ。
残像。
白虎の瞳が見開かれる。
「……なに?」
横から声。
「こちらだ」
振り向いた瞬間。
薙刀が閃いた。
「付喪神式薙刀術――」
白い軌跡が空を裂く。
「影面・断界」
斬撃が白虎の体を横断した。
「ぐぅっ!?」
血ではない。
光が散る。
白虎は後方へ飛び退く。
「速い……!」
再び地面を蹴る。
今度は正面から。
連撃。
爪、牙、体当たり。
暴風のような攻撃。
だがしおりはすべてを捌く。
薙刀が舞う。
一つの芸術のように。
「付喪神式薙刀術――」
刃が回転する。
「面影・流転円舞」
円を描く斬撃。
すべての攻撃を受け流し、弾き、返す。
白虎の体に幾筋もの傷が刻まれる。
「チィッ!」
白虎は距離を取った。
息が荒い。
だがその目にはまだ闘志がある。
「ならば……!」
全身に力を込める。
金の気配。
鋭く、重く、硬い力。
「これで終わりだ!!」
空間が歪むほどの速度で突進する。
「白虎・金剛裂爪!!!」
一点集中の一撃。
すべてを断ち切る爪。
しおりは動かない。
ただ、静かに構える。
「………来い」
そして。
踏み込む。
真正面から。
交差の瞬間。
「付喪神式薙刀術――」
刃が月光を受けて輝いた。
「魂喰・終ノ面」
一閃。
世界が静止する。
次の瞬間。
白虎の動きが止まった。
「……っ」
声が出ない。
体が崩れる。
内側から。
生気が完全に吸い尽くされていた。
白虎は震えながら言った。
「……見事……だ……」
そして。
崩れた。
塵となり。
夜風に乗って消えていく。
白虎は塵となり消えた。
しおりは静かに薙刀を下ろした。
しばし、沈黙。
そして空を見上げる。
「………他のものは」
「無事だろうか……」
その頃。
別の戦場。
地面が揺れていた。
巨大な影。
玄武。
山のような体躯を持つ亀の式神。
その前に立つのは――
七人同行。
玄武が低く言った。
「ワシの相手は」
「お前だな」
七人同行の一人が前に出る。
「ふむ……」
その巨大さを見上げる。
「そうらしいな………」
静かに笑った。
「これほど大きい敵は」
「初めてだ………」
背後の仲間たちが構える。
「お前たち」
「やるぞ」
一人が頷く。
「うむ」
もう一人は震えながらも声を出す。
「は、はいぃ………」
玄武が動いた。
大地が唸る。
次なる激戦が――
幕を開けた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




