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外伝「第一弾」アルケオン 霊鏡物語  作者:


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37/48

ーー霊鏡開戦ーー

――夜は、すべてを奪う。

けれど同時に、何かを始める場所でもある。


これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、

人ならざるものの棲む森へと迷い込み、

“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。


名も知らぬ世界、霊鏡。

人と妖の境が曖昧なその森で、

少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。


これは――

運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。

霊鏡――沙霧村。


 


夜の山に灯された灯籠の光が、やわらかく庭を照らしていた。


 


源梓の屋敷では、宴が最高潮を迎えていた。

庭のあちこちで人と妖怪が輪を作り、酒を酌み交わし、料理を囲み、笑い声を響かせている。


 


酒樽の周りでは美鬼(みき)が豪快に杯を掲げていた。


 


「はははは!もっと持ってこい!」


 


(つむぎ)はその隣で静かに盃を傾けている。


 


「……飲みすぎないでくださいよ」


 


少し離れた場所では子供たちが遊び、妖怪たちがそれを見守っていた。


 


吸血鬼の少女エリーは亜由(あゆ)の腕を引きながら楽しそうに歩いている。


 


「見て見て!あの料理すごく美味しそうよ!」


 


亜由は笑う。


 


「本当だ!」


 


リンは後ろから穏やかに歩き、エレンは酒を片手に豪快に笑っていた。


 


「いやーいい宴だな!」


 


「こういうの嫌いじゃねぇ!」


 


六花(ろっか)は棍を背負ったまま踊りの輪に混ざっている。


 


「よーし!」


 


「誰か勝負しよー!」


 


(ライ)はそれを見ながら呆れたように言った。


 


「……宴で勝負は違う」


 


(そら)は笑っていた。


 


「でも楽しそうだよ?」


 


ナチカは静かに座りながら周囲を見渡していた。


 


人間と妖怪。


 


普通なら相容れない存在たちが、ここでは同じ酒を飲み、同じ笑い声を上げている。


 


まるで、ここが別の世界であるかのようだった。


 


だが――


 


やがて。


 


鏡が静かに庭の中央へ歩み出た。


 


「……皆のもの」


 


その声は小さかったが、確かに響いた。


 


「落ち着け……」


 


宴のざわめきが少しずつ止まる。


 


梓がゆっくりと前に出た。


 


その表情は先ほどまでの柔らかな笑顔ではない。


 


鋭い、戦の顔だった。


 


「……霊鏡内部に」


 


「陰陽師の軍勢が侵入したと」


 


百々目鬼(どどめき)から聞きました」


 


その瞬間。


 


空気が変わった。


 


妖怪たちのざわめきが広がる。


 


「何だって!?」


 


「陰陽師だと!?」


 


亜由は小さく呟いた。


 


「……陰陽師……」


 


美鬼が盃を机に置いた。


 


「……仕事か」


 


紬は目を閉じた。


 


「……」


 


しおりがぽつりと言う。


 


「……大戦が始まる」


 


梓は全員を見渡した。


 


そして静かに言った。


 


「私は命じます」


 


「……ついて来たい者だけ来なさい」


 


ざわめきが止まる。


 


「ここは」


 


「しおりの感情エネルギーの結界」


 


「そして(ぬえ)の認識阻害で」


 


「防ぎ隠します」


 


「沙霧村にいれば」


 


「大丈夫でしょう」


 


梓は言う


 


「……私は」


 


「前線に出ます」


 


重い沈黙。


 


「私について来るも」


 


「来ないも」


 


「あなたがたの自由」


 


梓は背を向ける。


 


「以上」


 


「私は武器を取りに行きます」


 


「ついて来るものは入口で待機しなさい」


 


梓が去ったあと。


 


一瞬の沈黙が流れる。


 


そして。


 


誰かが言った。


 


「……梓様」


 


次の瞬間。


 


「俺はついていくぜ!」


 


「私も!」


 


「当然だろ!」


 


「梓様とともに戦う!」


 


歓声が爆発した。


 


「梓様とともに陰陽師と戦うぞーーーー!!!」


 


その熱気の中で、しおりが静かに言った。


 


「……私は」


 


「結界の強化に専念したほうが良さそうか?」


 


七人同行(しちにんどうぎょう)は腕を組む。


 


「ふむ」


 


「戦力は多いほうが良いが……」


 


(あお)が前に出た。


 


「私は出ますよ」


 


「陰陽師には」


 


「嫌な思い出しかないので」


 


(あい)が頷く。


 


「もちろん私も」


 


不知火(しらぬい)が笑う。


 


「ついて行くよ」


 


加賀(かが)は静かに言った。


 


「お供します……」


 


水月(すいげつ)が小さく息を吐いた。


 


「……始まるんですね……」


 


鵺がくすりと笑う。


 


「私はオンボノヤスと古灯籠に」


 


「沙霧村の防衛を任せるわ」


 


「……面白くなりそうだもの」


 


しおりがゆっくり立ち上がる。


 


「……では」


 


「私も」


 


美鬼が振り向く。


 


「おいおい」


 


「結界の強化はどうするんだ?」


 


しおりは静かに答えた。


 


「問題ない」


 


「遠隔で可能」


 


薙刀を持ち上げる。


 


「私の薙刀術……」


 


「陰陽師に」


 


「見せてあげる」


 


その時。


 


ふわりと空気が揺れた。


 


二枚の襖が背後に浮かぶ少女が現れる。


 


「土蜘蛛……紬様」


 


「酒吞童子の娘……美鬼様」


 


隠神こころが振り向いた。


 


「目蓮ちゃん!」


 


西園カエデが目を細める。


 


「目目連一族の生き残り……」


 


美鬼が言う。


 


「おまえか」


 


「どうした?」


 


目蓮は静かに言った。


 


「軍勢の中に……」


 


「源頼光と」


 


「その四天王を確認しました」


 


その瞬間。


 


空気が凍った。


 


「!?」


 


美鬼の目が鋭くなる。


 


紬の体が震えた。


 


「……頼……光……」


 


美鬼が低く言う。


 


「目蓮……」


 


「それは本当か?」


 


目蓮は頷く。


 


「はい」


 


「間違いないです」


 


紬は目を閉じた。


 


そして――


 


記憶が蘇る。


 


小さな村。


 


人間と妖怪が一緒に暮らしていた場所。


 


子供たちの笑顔。


 


共に遊んだ日々。


 


だがある日。


 


陰陽師の軍勢が来た。


 


炎。


 


悲鳴。


 


友だった人間が殺される。


 


妖怪が狩られる。


 


そして――


 


源頼光と四天王。


 


怒りのままに陰陽邸へ襲撃した夜。


 


しかし反撃され。


 


糸で作った身代わりを残し。


 


命からがら逃げた。


 


紬の拳が震える。


 


「……許さない」


 


美鬼が肩に手を置く。


 


「少し落ち着け」


 


「同じ気持ちだ」


 


そして聞く。


 


「場所は」


 


目蓮が答える。


 


「安倍晴明とともに」


 


「行動しているようです」


 


紬は静かに言った。


 


「……そうですか」


 


 


その頃。


 


宴会場の子供エリア。


 


鉄鼠が静かに言った。


 


「……やはりここにいよう」


 


「外は危険だ」


 


タタリモッケが不安そうに言う。


 


「子守山の子供の霊達とノツゴが心配」


 


産女は優しく言った。


 


「……あの子達なら大丈夫でしょう」


 


だが。


 


その手は震えていた。


 


野寺坊が言う。


 


「落ち着け」


 


「焦ってはなにも始まらん」


 


鉄鼠が振り向く。


 


「お前たちは主人……」


 


「亜由さんのところへ行ってくだされ」


 


天が頷いた。


 


「……うん!」


 


「亜由のところに行こう」


 


覚が言う。


 


「えぇ」


 


ノーマも頷いた。


 


「はい!」


 


 


北の宴会場。


 


圭がみちるの肩に手を置く。


 


「みちる?」


 


「あなたはここにいてね」


 


みちるは静かに頷く。


 


「……うん……」


 


ヒダル神が笑う。


 


「大丈夫ですよ!」


 


「お姉ちゃんたちが陰陽師なんて」


 


「しばいて来ますから!」


 


夜道怪が豪快に笑う。


 


「ハッハッハッ!」


 


「そうだな!」


 


「しばいてくるとしよう!」


 


杖立様が優しく言った。


 


「みちるちゃんには」


 


「私がついてますので」


 


 


その時。


 


エリーが声を上げた。


 


「リン!」


 


「エレン!」


 


「私たちも行きますわよ!」


 


リンが銃を構える。


 


魔法銃だった。


 


「はい」


 


「お嬢様」


 


エレンは片手で自分の首を持ち上げる。


 


炎が強く燃え上がった。


 


「おう!」


 


「任せろ!」


 


「デュラハンの力見せてやる!」


 


亜由が驚く。


 


「良いんですか!?」


 


エリーは笑った。


 


「当たり前でしょう?」


 


「友達なんだから」


 


亜由は大きく頷く。


 


「うん!」


 


魔女の長老が笑う。


 


「これは」


 


「魔女の長老として」


 


「ワシらも行かなきゃだねぇ」


 


グレートヒェンが元気よく言う。


 


「はい!」


 


「お母さん!」


 


ナチカが亜由の横に立った。


 


「亜由」


 


「みんな揃った」


 


(さとり)が微笑む。


 


「行くんでしょう?」


 


ノーマも言う。


 


「もちろんついていきますよ」


 


水月が頷く。


 


「うん……」


 


天が笑う。


 


「暴れてやりましょう」


 


六花が棍を回す。


 


「一緒に暴れよ!」


 


雷が静かに言う。


 


「お供する……です」


 


亜由は皆を見渡した。


 


「みんな……!」


 


エリーが腕を広げる。


 


「役者は揃いましたわね」


 


「さあ!」


 


「集まりますわよ!」


 


「おーーーー!!!」


 


 


その頃。


 


屋敷の奥。


 


しおりの前に、付喪神たちが膝をついていた。


 


「御頭!」


 


「どうか!」


 


「我らも連れて行ってください!!!」


 


しおりは静かに言った。


 


「お前たち……」


 


「しかし」


 


「お前たちは付喪神」


 


「壊れれば」


 


「二度と蘇らない」


 


「壊れれば」


 


「お前たちを大事にしている人間も悲しむ」


 


沈黙。


 


それでも。


 


全員が叫んだ。


 


「それでもです!!!」


 


しおりは目を閉じた。


 


そして言った。


 


「……わかった」


 


薙刀を握る。


 


「死ぬな」


 


「壊れるな」


 


「……わかったか?」


 


付喪神たちは深く頭を下げた。


 


「ありがたい……!」


 


 


そして。


 


沙霧村の入口。


 


月明かりの下。


 


無数の妖怪たちが集まっていた。


 


「梓様!!!」


 


その中央に。


 


刀を携えた一人の女性が立っている。


 


源梓。


 


彼女はゆっくり振り向いた。


 


「……来た?」


 


全員が静まり返る。


 


梓は静かに言った。


 


「覚悟も」


 


「準備も」


 


「できているか?」


 


そこにいる者すべてが。


 


黙って頷いた。


 


梓は刀を抜いた。


 


月光が刃を照らす。


 


「……では」


 


「行くぞ」

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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