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外伝「第一弾」アルケオン 霊鏡物語  作者:


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36/47

ーー宴の灯、侵入者の影ーー

――夜は、すべてを奪う。

けれど同時に、何かを始める場所でもある。


これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、

人ならざるものの棲む森へと迷い込み、

“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。


名も知らぬ世界、霊鏡。

人と妖の境が曖昧なその森で、

少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。


これは――

運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。

霊鏡――沙霧村。


 


源梓の屋敷では、夜が更けるにつれて宴の熱気がさらに高まっていた。


 


庭には灯籠の光が並び、橙色の明かりが木々の枝をやわらかく照らしている。料理の香りが漂い、酒の器があちこちで鳴り合い、妖怪たちの笑い声が山の夜に響いていた。


 


人と妖怪が入り混じり、まるでこの世とあの世が一つの宴席に集まったかのようだった。


 


そんな賑やかな庭の中で、亜由は周囲を見渡していた。


 


「すごい……本当にたくさん来てる」


 


その時、明るい声が聞こえた。


 


「こんにちは!亜由(あゆ)!」


 


振り向くと、そこには金色の髪を揺らす少女が立っていた。


 


亜由はぱっと顔を輝かせる。


 


「あ!エリー!」


 


そこにいたのは月赤邸の現統治者の妹――


 


エリー・シャルロット・フォン・フルムーン。


 


月のように白い肌、紅い瞳。


 


そして吸血鬼でありながら――


 


弱点を一切持たない存在として知られる吸血鬼だった。


 


エリーは嬉しそうに亜由の手を取る。


 


「久しぶりね!」


 


「元気そうでよかった!」


 


その後ろには二人の姿があった。


 


静かに一礼するメイド姿の女性。


 


「お久しぶりでございます」


 


もう一人は腕を組んだまま笑っていた。


 


「よ!」


 


亜由はすぐに気づく。


 


「リンさん!エレンさん!」


 


二人は月赤邸の従者だった。


 


グレムリンのメイド長――リン。


 


そして門番を務めるデュラハン――エレン。


 


リンは丁寧に頭を下げる。


 


「お会いできて光栄です」


 


「亜由様」


 


エレンは豪快に笑う。


 


「いやー宴って聞いてな!」


 


「来ないわけにはいかねぇだろ!」


 


ナチカが静かに近づいてくる。


 


「ん」


 


「久しぶり」


 


リンは柔らかく微笑んだ。


 


「元気そうですね」


 


「よかったです」


 


エレンも頷く。


 


「おう!」


 


「そうだな!」


 


その時エリーが突然手を引いた。


 


「行きましょ!」


 


亜由が驚く。


 


「え?」


 


「どこへ?」


 


エリーは楽しそうに笑う。


 


「宴の中心よ!」


 


「絶対楽しいわ!」


 


亜由も笑った。


 


「うん!」


 


二人は人混みの中へ走っていく。


 


それを見たエレンが慌てて叫んだ。


 


「あ!」


 


「おい!」


 


「一人で行くなよ〜!」


 


リンも慌てて追いかける。


 


「お待ちください!」


 


「お嬢様!」


 


三人は宴の中心へ消えていった。


 


ナチカはその様子をじっと見ていた。


 


「……」


 


その時、低い声が後ろから聞こえた。


 


「いかなくてよかったのか?」


 


ナチカが振り向く。


 


そこに立っていたのは、長身の妖怪。


 


十将夜叉の一人――


 


七人同行。


 


ナチカは軽く頭を下げる。


 


「……十将夜叉の七人同行様」


 


そして周囲を見回す。


 


「他の四人は?」


 


七人同行は腕を組みながら答えた。


 


「あとの四人は」


 


「結界コアを守らせている」


 


「今ここにいるのは」


 


「私を含め三人だけだ」


 


ナチカは周囲を見渡す。


 


「ん」


 


「魔女も来てる」


 


七人同行が頷く。


 


「あぁ」


 


「あの二人は」


 


「魔女の長老」


 


「ヴィルヘルミーナ・ヴァイス」


 


「そして長老の娘」


 


「ヴィルヘルミーナ・グレートヒェン」


 


ナチカは辺りを見回した。


 


「コロポックルは見えない」


 


七人同行は静かに言う。


 


「どこかにはいるだろう」


 


その時、優しい声が横から聞こえた。


 


「さきほど」


 


「子供達のいるエリアで見かけましたよ」


 


振り向くと、そこには青い灯りのような雰囲気を持つ女性がいた。


 


十将夜叉の一人。


 


青行燈の(あお)


 


ナチカは小さく頷く。


 


「蒼様……」


 


「そうなんだね」


 


蒼は微笑んだ。


 


「はい」


 


そして前を見た。


 


「あ、始まるみたいですよ」


 


宴の中央。


 


一枚の大きな鏡の前に一人の女性が立っていた。


 


静かな声が庭に響く。


 


「……皆さん」


 


「お集まりのところ申し訳ございません」


 


「これより」


 


「宴を始めます」


 


亜由が嬉しそうに言った。


 


「あ、十将夜叉」


 


「雲外鏡の(かがみ)さん!」


 


鏡の隣に、源梓が歩み出る。


 


扇子を持ち、堂々とした姿だった。


 


「えぇ」


 


「みなさん」


 


「集まってくれてありがとう」


 


彼女は笑顔で言った。


 


「さきほど鏡が申したように」


 


「宴を開始します!」


 


一瞬の静寂のあと――


 


「おぉぉぉぉ!!」


 


歓声が山に響いた。


 


酒が注がれ、料理が配られ、音楽が流れる。


 


妖怪も人も、皆が宴を楽しんだ。


 


笑い声が響き、歌が聞こえ、踊りが始まる。


 


それはまるで。


 


長く続いた平和の象徴のような夜だった。


 


しかし――


 


やがて。


 


深夜。


 


宴の熱気が少し落ち着いた頃。


 


梓のもとに一人の女性が静かに近づいた。


 


黒い着物。


 


体のあちこちに無数の目を持つ妖怪。


 


百々目鬼だった。


 


「梓様……」


 


梓が振り向く。


 


「どうしたの?」


 


百々目鬼は低い声で言った。


 


「……霊鏡内部にて」


 


「陰陽師を確認しました」


 


梓の目が大きく開かれた。


 


「!?」


 


 


その頃。


 


霊鏡の山の奥。


 


木々に囲まれた開けた場所。


 


月明かりの下に、黒い装束の集団が立っていた。


 


数十人。


 


いや、それ以上。


 


陰陽師たちだった。


 


その中央に立つ男。


 


白い狩衣。


 


静かな笑み。


 


安倍晴明。


 


その隣には鎧姿の武者。


 


源頼光。


 


晴明は静かに霊鏡の山を見上げた。


 


そしてゆっくり言った。


 


「……」


 


周囲の陰陽師たちは黙っている。


 


頼光も静かに刀の柄に手を置いていた。


 


やがて晴明が口を開いた。


 


「これより」


 


「蹂躙を開始する!」


 


その声は冷たかった。


 


「怪しいものは」


 


「見つけしだい殺せ!!!」


 


陰陽師たちが一斉に答える。


 


「はっ!!!」


 


晴明が扇を振った。


 


「では」


 


「散開!!!」


 


その瞬間。


 


陰陽師たちは山道へ散っていく。


 


闇の中へ。


 


それぞれ別の道へ。


 


まるで獲物を狩る狼の群れのように。


 


静かに。


 


しかし確実に。


 


霊鏡へ向かって。


 


山道を下り始めた。


 


その場には二人だけが残る。


 


晴明と頼光。


 


晴明は頼光を横目で見た。


 


「頼光」


 


「お前は」


 


「作戦通り」


 


「私について来い」


 


頼光は静かに頭を下げる。


 


「はっ!」


 


二人はゆっくり歩き始めた。


 


宴の灯りが遠くに見える。


 


霊鏡の夜はまだ賑やかだった。


 


だがその闇の奥から。


 


確実に。


 


戦の足音が近づいていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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