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外伝「第一弾」アルケオン 霊鏡物語  作者:


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35/48

ーー霊鏡の宴、そして迫る陰の軍勢ーー

――夜は、すべてを奪う。

けれど同時に、何かを始める場所でもある。


これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、

人ならざるものの棲む森へと迷い込み、

“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。


名も知らぬ世界、霊鏡。

人と妖の境が曖昧なその森で、

少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。


これは――

運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。

霊鏡――沙霧村。


 


山々に囲まれた静かな村の一角、源梓の屋敷には、夕暮れの柔らかな光が差し込んでいた。


 


戦いを終えた亜由(あゆ)たちは、墓地の異変を解決し、新たな仲間となった妖怪――以津真天の(そら)を連れて、屋敷へと戻ってきていた。


 


庭の木々は風に揺れ、縁側には穏やかな空気が流れている。


 


源 梓(みなもとのあずさ)は楽しそうに扇子を閉じながら言った。


 


「そう、解決して新たな式神まで、それに新しい技!素晴らしいわ!」


 


亜由は少し恥ずかしそうに頭をかく。


 


「い、いえ……みんながいたからです」


 


梓は微笑み、空を見上げた。


 


「八咫烏もお手柄ね」


 


屋敷の屋根に止まっていた黒い影が小さく動く。


 


八咫烏だった。


 


「私は頼まれたのでやっただけだ……」


 


淡々とした声だったが、どこか満足げでもあった。


 


梓は突然ぱん、と手を打った。


 


「そうだわ」


 


皆が梓を見る。


 


梓は満面の笑みで言った。


 


「今日は宴にしましょう」


 


亜由は目を丸くする。


 


「え!?」


 


「そ、そこまでしなくても!」


 


だがナチカが静かに言う。


 


「ん」


 


「諦めて言うことを聞いたほうが良い」


 


「梓様は一度言ったらもう聞かない」


 


六花(ろっか)が笑った。


 


「ははは〜」


 


(ライ)は腕を組む。


 


「いつもめんどくさいです」


 


梓は楽しそうに指を振った。


 


「じゃあ、八咫烏」


 


「みんなを連れてきて!」


 


八咫烏は羽を軽く広げた。


 


「……わかった」


 


「他の八咫烏にも伝達するよう伝えよう」


 


梓は満足そうに頷いた。


 


「えぇ、お願い」


 


ノーマがぽつりと呟く。


 


「……楽しそうですね」


 


(さとり)も優しく微笑む。


 


「そうねぇ」


 


天は笑顔で言う。


 


「梓様はいつもこうですから」


 


水月(すいげつ)は目を輝かせていた。


 


「すごいです……」


 


 


それからしばらくして。


 


屋敷の庭は、まるで祭りのような賑わいに変わっていた。


 


灯りが並び、料理の匂いが漂う。


 


妖怪たちが次々と集まり始めていた。


 


亜由は驚きながら周囲を見回す。


 


「たくさんいます!」


 


すると後ろから声がした。


 


「あら?亜由ちゃん!」


 


振り向くとそこにいたのは圭だった。


 


ナチカが即座に言う。


 


「何しに来た土転び」


 


(けい)が頬を膨らませる。


 


「もう!」


 


「だから私を妖怪名で呼ばないでって言ってるでしょ?」


 


その横に、小さな女の子が立っていた。


 


「この人が前話してた人?」


 


圭は頷く。


 


「えぇ、そうよ」


 


「紹介するわ」


 


「この子はみちるちゃん」


 


「ノヅチという妖怪よ」


 


小さな少女は静かに頭を下げた。


 


「こん、にちは……」


 


「みちる……です」


 


そして不思議そうに鼻を動かす。


 


「いい人の匂いです」


 


亜由は首をかしげる。


 


「匂い?」


 


ナチカが説明する。


 


「みちるは目が見えない」


 


「匂いで嗅ぎ分ける」


 


亜由は驚きながら頷いた。


 


「なるほど」


 


その時。


 


後ろから落ち着いた声が聞こえた。


 


「これはこれは、おそろいで……」


 


振り向くと夜道怪が錫杖をついて立っていた。


 


「おや、お仲間の姿が……」


 


亜由は笑う。


 


「夜道怪さん!」


 


「みんなならバラバラのところで宴を楽しんでるみたいです」


 


夜道怪は穏やかに笑った。


 


「おやおや」


 


「そうでじゃったか」


 


その横に、錫杖を持った少女がいた。


 


「美味しそうな匂いがしますね」


 


夜道怪が紹介する。


 


「あぁ」


 


「こやつはここに来るときにあった妖怪」


 


「ヒダル神じゃ」


 


ナチカが小さく頷く。


 


「ん」


 


「行合神の一種」


 


「出会うと空腹にされて仲間になる」


 


「でも、ここの山の妖怪はみんないい人だから大丈夫」


 


ヒダル神は元気よく手を振った。


 


「あなたが亜由さんですね!」


 


「はじめまして!」


 


亜由も笑顔で答える。


 


「う、うん!」


 


「はじめまして!」


 


その時、また新しい声が響いた。


 


「仲良くすることは良いことですから」


 


「もっと仲良くしていきましょう!」


 


杖立様だった。


 


その横で西園カエデが腕を組む。


 


「まったく……」


 


「山の妖怪はうるさいのがおおいですね」


 


隠神こころが笑う。


 


「それが良いじゃん!」


 


亜由は思い出して言った。


 


「あ、十将夜叉のお二人……」


 


「隠神刑部狸と人間の女性の間に生まれた半妖の隠神こころさん」


 


「玉藻前と人間の男性の間に生まれた半妖の西園カエデさん」


 


「でしたっけ」


 


カエデは少し驚いた顔をする。


 


「覚えてて……くれたんですね……」


 


こころは笑顔で言う。


 


「ありがとー!」


 


ナチカが聞く。


 


「ん」


 


「カエデ様はいつもの白装束じゃないの?」


 


カエデは肩をすくめた。


 


「えぇ」


 


「あれはちょっと動きにくいですから」


 


こころが笑う。


 


「あれもかわいいのに」


 


カエデは眉をひそめる。


 


「うるさいですね」


 


その時、ふわりと空中から声が落ちてきた。


 


「仲良し……?」


 


亜由が顔を上げる。


 


「あ、十将夜叉の一人」


 


「面霊気のしおりさん!」


 


しおりはゆっくり浮かびながら言った。


 


「お……」


 


「あの時の……」


 


その時。


 


ゴォォォォ……


 


燃える音が響いた。


 


燃える車輪の中央に顔がある妖怪が転がってきた。


 


「なんじゃ!」


 


「今日は大勢いるのう!」


 


亜由は思わず声を上げる。


 


「わっ!」


 


その横で華やかな女の子が慌てる。


 


「おじさんったら!」


 


「今は宴なんだからもう少し小さい声で!」


 


妖怪は笑う。


 


「お〜すまんかったな」


 


六花が手を振る。


 


「あ!おじさん!椿!」


 


雷も頷く。


 


「久しぶり……です」


 


亜由はナチカに小声で聞く。


 


「あのお二人は?」


 


ナチカが答える。


 


「ん」


 


「車輪のほうが妖怪・輪入道」


 


「椿の髪飾りの子が古椿の精の椿」


 


「四季の花園で暮らしてる」


 


亜由は感心した。


 


「そうなんですね」


 


さらに賑やかな声が響いた。


 


「おぉ!」


 


「たくさんいるな!」


 


「これは酒がうまそうだ」


 


酒呑童子の娘、美鬼だった。


 


その隣には鵺と紬。


 


紬がため息をつく。


 


「はぁ……」


 


「お酒は始まってからですよ」


 


鵺が肩をすくめる。


 


「わかってるわよ」


 


美鬼も笑う。


 


「わかってるって」


 


亜由は嬉しそうに言う。


 


「十将夜叉の皆さんですね」


 


圭が笑う。


 


「あの二人はお酒が好きだから」


 


「来ないわけ無いわよねぇ〜」


 


しおりが言う。


 


「私も酒は好きだ……」


 


「行ってくる……」


 


こころが笑う。


 


「あはは!」


 


「私も〜!」


 


カエデが慌てる。


 


「あ!」


 


「待ってください!」


 


亜由は呆然と見送った。


 


「行っちゃった……」


 


水月が小さく震えている。


 


「うぅ……」


 


「知らない人だらけ……」


 


亜由が声をかける。


 


「あ、水月ちゃん!」


 


その時。


 


軽い声が聞こえた。


 


「なになに〜?」


 


「もうバテたの?」


 


不知火だった。


 


ナチカが言う。


 


「不知火……加賀……藍様」


 


加賀が笑う。


 


「船幽霊が陸にいたら変かな」


 


藍が穏やかに言う。


 


「そんなことないわよ」


 


「海入道の私だって陸にいるんだから」


 


不知火が笑う。


 


「不知火である私も〜」


 


加賀は水月を見る。


 


「それより」


 


「水月……強くなりましたね」


 


水月は目を輝かせた。


 


「ほんとですか」


 


藍が優しく言う。


 


「あなたが水月さんね」


 


「こんにちは」


 


「十将夜叉の一人、海入道の藍よ」


 


水月は驚く。


 


「あなたが……」


 


藍は亜由を見る。


 


「亜由さんも」


 


「話したことは初めてですが」


 


「また会いましたね」


 


亜由は慌てて頭を下げた。


 


「あ、はい!」


 


藍は微笑む。


 


「では、宴を楽しんで」


 


水月は急いで言う。


 


「わ、私も行きます!」


 


四人は賑やかな宴の中へ歩いていった。


 


みちるが静かに言う。


 


「私もそろそろ行きたいです」


 


圭が頷く。


 


「そうね」


 


夜道怪も杖を持ち上げる。


 


「では、わしもお供しましょう」


 


ヒダル神が元気よく叫ぶ。


 


「いぇーい!」


 


杖立様も笑う。


 


「はい!」


 


皆がそれぞれ宴へ向かう。


 


その時。


 


落ち着いた声が聞こえた。


 


「おや」


 


「亜由さん」


 


「久しぶりですね」


 


亜由は振り向き、嬉しそうに叫んだ。


 


「鉄鼠先生!」


 


「産女先生!」


 


「タタリモッケ!」


 


産女が優しく微笑む。


 


「無事に修行を終えたようですね」


 


タタリモッケが小さく言う。


 


「強くなってる……」


 


鉄鼠が頷いた。


 


「見違えましたな」


 


亜由は嬉しそうに言う。


 


「ありがとうございます!」


 


「……子供達は?」


 


鉄鼠が答える。


 


「子供達なら野寺坊と奥の方で遊んでおります」


 


「寺子屋の子たちも一緒で元気にしとりますよ」


 


亜由は安心した。


 


「よかった……」


 


鉄鼠は続ける。


 


「ノーマさんと覚さんも遊んでくださっていると」


 


「亜由さんのお仲間でしょう」


 


亜由は頷く。


 


「はい」


 


タタリモッケが鉄鼠の袖を引く。


 


「先生……」


 


「私たちも」


 


鉄鼠は笑った。


 


「おや」


 


「そうでした」


 


産女が頭を下げる。


 


「お元気で」


 


亜由も深く礼をする。


 


「はい!」


 


ナチカが静かに言う。


 


「ん」


 


「そっちも」


 


宴はまだ始まったばかりだった。


 


庭では酒が運ばれ、料理の香りが広がる。


 


笑い声が響き、妖怪も人も混ざり合い、賑やかな夜が広がっていた。


 


だが――


 


その頃。


 


霊鏡の外。


 


京都。


 


陰陽師の総本山――


 


陰陽邸。


 


広い座敷の中央に、一人の男が立っていた。


 


安倍晴明。


 


彼は静かに術式の盤を見つめていた。


 


そして。


 


突然、目を見開く。


 


「……!?」


 


そしてゆっくり笑った。


 


「……ふふ」


 


「ふふふふふふ」


 


その笑いに、年老いた陰陽師が近づく。


 


「どうされました?」


 


「晴明様……」


 


晴明は顔を上げた。


 


その目は妖しく光っていた。


 


「みつけたぞ……」


 


「妖怪と」


 


「妖怪に与する者共の居場所」


 


「霊鏡の入口が!」


 


周囲の陰陽師たちがざわめく。


 


「おお!」


 


「ついに!」


 


源頼光が一歩前へ出る。


 


「では」


 


「今夜……」


 


晴明は扇を開いた。


 


その声は冷たい。


 


「あぁ」


 


「総攻撃を仕掛ける」


 


「準備せよ!!!」


 


陰陽師たちが一斉に膝をついた。


 


「ハハッ!!」


 


戦の準備が始まる。


 


静かな夜の京都で。


 


霊鏡を狙う軍勢が動き始めていた。


 


その時。


 


霊鏡――沙霧村。


 


屋敷の庭では、まだ笑い声が響いていた。


 


宴はさらに大きくなり。


 


人も妖怪も増え続ける。


 


だが誰も知らない。


 


この夜の宴の先に。


 


霊鏡を揺るがす


 


大戦が迫っていることを。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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