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外伝「第一弾」アルケオン 霊鏡物語  作者:


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32/48

ーー久しぶりの帰還と墓地に灯る怪火ーー

――夜は、すべてを奪う。

けれど同時に、何かを始める場所でもある。


これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、

人ならざるものの棲む森へと迷い込み、

“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。


名も知らぬ世界、霊鏡。

人と妖の境が曖昧なその森で、

少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。


これは――

運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。

沙霧村の入り口に続く道を、亜由(あゆ)たちはゆっくりと歩いていた。


長い旅を終えて、ようやく戻ってきた場所だった。


 


六花が大きく両手を広げる。


「ついたー!」


 


亜由は村の景色を見渡した。


田畑、木造の家々、遠くの森。


どれも見慣れた景色だった。


 


「いつぶりでしょうか……」


 


少し考える。


 


「長かったような……短かったような……」


 


ナチカが静かに周囲を見回す。


 


「ん」


 


「変わってなさそう」


 


その時。


 


後ろから穏やかな声が聞こえた。


 


「おや?」


 


振り返ると、青い着物を着た女性が立っていた。


 


「おかえりなさい」


 


亜由は少し考えてから言う。


 


(あお)さん、でしたっけ」


 


女性は優しく微笑んだ。


 


「覚えててくれたんですね」


 


水月(すいげつ)が少し緊張して後ろに隠れる。


 


蒼は水月の方を見る。


 


「こんにちは」


 


水月は驚いたように体を揺らした。


 


「!」


 


ナチカが説明する。


 


「ん」


 


「亜由にはもう話したけど」


 


「彼女は青行燈の蒼……」


 


「十将夜叉の一人」


 


水月は慌てて頭を下げた。


 


「2代目ヤロカ水の水月です」


 


蒼は少し嬉しそうに微笑む。


 


「新入りですね」


 


「歓迎しますよ」


 


そして亜由を見る。


 


「梓様に会いに?」


 


亜由は頷いた。


 


「うん」


 


「話したいことがあって……」


 


蒼は軽く頷いた。


 


「そうですか」


 


「それでは私は警備に行ってくるので」


 


六花(ろっか)が元気に手を振る。


 


「うん!わかった!」


 


蒼は少し頭を下げる。


 


「それでは」


 


そして静かに歩いていった。


 


ノーマが周囲を見ながら言う。


 


「人間がたくさんいるところは初めてです」


 


(さとり)が少し楽しそうに笑う。


 


「ふふっ」


 


「私はめったに来ないから少し新鮮ね」


 


村の道を歩きながら、亜由たちはゆっくり進んでいった。


 


すると――


 


遠くから声が聞こえた。


 


「火の用ー心!」


 


「パンパンッ!」


 


亜由が立ち止まる。


 


「ん?」


 


「この声は……」


 


雷が小さく言う。


 


「音夏と紅の声……です」


 


亜由は首を傾げる。


 


「……誰でしょう」


 


ナチカが説明する。


 


「ん」


 


「妖怪『送り拍子木』の音夏と」


 


「妖怪『送り提灯』の紅」


 


「二人とも江戸本所七不思議の妖怪」


 


亜由が思い出す。


 


「あ、前見た燈無蕎麦と同じ……」


 


六花が笑う。


 


「うん!そうだよ!」


 


遠くからまた声が聞こえる。


 


「火の用心!」


 


「パンパンッ!」


 


その時だった。


 


前方に大きな影が現れた。


 


亜由たちは驚く。


 


そこには――


 


とても大きな鎧の大袖の部分が二つ、空中に浮かんでいる少女がいた。


 


少女は穏やかな声で言った。


 


「おや」


 


「ナチカではありませんか」


 


ナチカが少しだけ頷く。


 


「ん」


 


「亜子……久しぶり」


 


亜由が小声で聞く。


 


「ナチカ、この人は?」


 


ナチカは静かに言う。


 


「ん」


 


「妖怪『塗壁』」


 


「不老 亜子」


 


「塗壁一族の最後の生き残りらしい」


 


亜由は驚く。


 


「塗壁?」


 


不老亜子は少し微笑む。


 


「知らなくても仕方ありませんよ」


 


「今の時代、私たち一族は数が減り」


 


「知っている人間も数少ないですから」


 


亜由は慌てて手を振る。


 


「い、いえ!」


 


「そういうわけでは」


 


少し考えてから言う。


 


「どういう妖怪なんだろうと思って……」


 


「私は妖怪の知識がないので」


 


亜子は咳払いをする。


 


「まあ、そうでしたか」


 


「コホン……」


 


少し真面目な顔になる。


 


「妖怪『塗壁』」


 


「夜道を歩いていると」


 


「見えない何かが現れ」


 


「前に進めなくなる」


 


「対処法は木の棒か何かで足元を払えば消えます」


 


「足元に術を仕込んでいるので」


 


亜由は感心した。


 


「そうなんですね」


 


ナチカが補足する。


 


「人間の姿をしてるけど」


 


「元は目が三つある犬のような妖怪」


 


ノーマが興味深そうに聞く。


 


「3つ目の目はどうしたんですか」


 


亜子は優しく微笑んだ。


 


「ありますよ?」


 


「心の目として」


 


ノーマが頷く。


 


「そうなんですね」


 


亜子は少し下がる。


 


「お邪魔してしまいましたね」


 


「どこかへ向かっているのでしょ?」


 


「またどこかで」


 


亜由が頭を下げる。


 


「はい!」


 


六花が元気に手を振る。


 


「バイバーイ!」


 


 


しばらく歩いているうちに――


 


亜由たちは一つの大きな屋敷にたどり着いた。


 


源梓の屋敷だった。


 


門の前に立つと、すぐに声が聞こえた。


 


「あら」


 


「いらっしゃい」


 


亜由は少し嬉しそうに言う。


 


「お久しぶりです」


 


源梓は穏やかに微笑んだ。


 


「随分と旅をしてきたようね」


 


「顔を見ればわかるわ」


 


六花が言う。


 


「海とか行ってきたんだよ!」


 


覚が続ける。


 


「新しい仲間も増えました」


 


水月が少し緊張して頭を下げる。


 


「2代目ヤロカ水の水月です」


 


梓は少し驚いたように目を細める。


 


「ヤロカ水……」


 


「なるほど」


 


「珍しい妖怪を仲間にしたわね」


 


亜由は少し真面目な顔になる。


 


「実は」


 


「相談したいことがあって」


 


そして亜由たちは旅の出来事を話した。


 


蒼海の浜辺のこと。


 


共潜との戦い。


 


そして――


 


五行の話。


 


梓は腕を組んで考える。


 


「五芒星……」


 


「五行……」


 


「木火土金水……」


 


しばらく沈黙する。


 


そして言った。


 


「あ」


 


「だったら」


 


亜由を見る。


 


「墓地に向かってくれる?」


 


亜由は驚く。


 


「墓地……ですか?」


 


梓は頷いた。


 


「えぇ」


 


「最近あそこで」


 


「怪火が複数目撃されるの」


 


「その調査を依頼するわ」


 


亜由はすぐに頷く。


 


「はい!」


 


六花も言う。


 


「オッケーだよ!」


 


梓は空を見る。


 


「怪火は夜に目撃されるから」


 


「もうすぐ夜だしお願いね」


 


 


こうして亜由たちは墓地へ向かった。


 


 


墓地


 


夜の墓地は静まり返っていた。


 


月明かりだけが地面を照らしている。


 


その時――


 


空中に二つの火の玉が浮かんでいた。


 


火の玉は回転しながら声を出している。


 


「ホーイホーイ……」


 


「ジャンジャン……ジャン……」


 


もう一つの火の玉には――


 


大量の蜘蛛が集まって火の玉の中を飛んでいた。



 


「……」


 


その様子を見ている者がいた。


 


墓地の木の枝の上。


 


そこに一人の幼女が座っていた。


 


オレンジ色の羽根を持つ少女だった。


 


少女は小さくつぶやく。


 


「……今日もたくさんいる」


 


困ったように空を見る。


 


「墓守としてなんとかしたいけど……」


 


その時だった。


 


空から声が降ってくる。


 


(そら)よ……」


 


少女が驚く。


 


「わわっ!!」


 


振り向く。


 


「……なんだ」


 


「八咫烏か」


 


「どうしたの?」


 


八咫烏は静かに言った。


 


「今日」


 


「援軍がくる」


 


「それまで待て」


 


少女は少し驚いたが――


 


すぐに笑った。


 


「……うん!」


 


「わかった!」


 


その頃。


 


墓地へと向かう道を。


 


亜由たちが歩いていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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