ーー欠けた五行 ― 火を求めてーー
――夜は、すべてを奪う。
けれど同時に、何かを始める場所でもある。
これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、
人ならざるものの棲む森へと迷い込み、
“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。
名も知らぬ世界、霊鏡。
人と妖の境が曖昧なその森で、
少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。
これは――
運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。
海を離れた亜由たちは、海沿いの道をゆっくり歩いていた。
空は夕焼けに染まり、海風が静かに吹いている。
六花が伸びをする。
「ふぅ~……海、楽しかったね!」
水月は少し緊張した様子で歩いている。
まだ仲間になったばかりだからか、どこか遠慮しているようだった。
覚がくすっと笑う。
「そんなに固くならなくてもいいのよ、水月」
水月が慌てる。
「え、あ……はい……」
ナチカが言う。
「ん」
「そのうち慣れる」
雷も小さく頷いた。
「大丈夫……です」
ノーマもぽつりと言う。
「……仲間」
水月は少し安心したように微笑んだ。
その少し後ろ。
亜由は黙って歩いていた。
六花が気づく。
「亜由?」
亜由は少し考え込んでいた。
頭の中で、さっきの話が何度もよみがえる。
――これから大戦が始まる可能性がある。
加賀の言葉だった。
亜由は小さくつぶやく。
「……大戦」
妖怪と人間。
それとも別の何か。
まだよくわからない。
でも、もし本当に戦いが始まるなら――
亜由は空を見る。
「……」
自分は何ができるんだろう。
まだ式神も四体。
ナチカ、覚、ノーマ、そして水月。
そのとき、不知火の言葉を思い出す。
――あと一人で五芒星だね!
亜由は少し考える。
「木」
覚。
「土」
ノーマ。
「金」
ナチカ。
「水」
水月。
そして――
「……火」
足を止める。
六花が振り向いた。
「どうしたの?」
亜由は少し考えながら言う。
「火の妖怪って……いるのかな」
みんな少し考える。
覚が言う。
「火の妖怪なら結構いるわね」
六花が指を折る。
「えっと……」
「鬼火とか」
「火車とか」
ナチカが言う。
「不知火」
水月が小さく言う。
「さっき会った……」
六花が笑う。
「あはは、たしかに!」
亜由は少し困った顔をする。
「でも……」
首を傾げる。
「なんとなく……」
「もっと違う気がする」
覚が興味深そうに見る。
「違う?」
亜由はゆっくり言う。
「火って」
「ただ燃えるだけじゃなくて」
「……強い力」
「勢いとか」
「守る力とか」
うまく言葉にできない。
でも――
何かが足りない気がしていた。
ナチカが言う。
「火は」
「破壊の力でもある」
覚が続ける。
「でも同時に」
「命の力でもあるわね」
六花が言う。
「焚き火とか!」
「暖かいし!」
水月が言う。
「光もありますね」
亜由は少し笑った。
「うん……」
そして小さくつぶやく。
「火の妖怪……」
どこかにいるのだろうか。
まだ見ぬ仲間。
五芒星の最後の一つ。
そのとき――
六花が言う。
「あ!」
「そういえば!」
「私たち、結構長く旅してるよね?」
ナチカが言う。
「ん」
「そう」
覚も頷く。
「沙霧村を出てから、だいぶ経つわね」
亜由も気づく。
「……たしかに」
水月が聞く。
「沙霧村?」
六花が説明する。
「亜由の住んでる村!」
「私たちの拠点みたいなところだよ!」
水月が少し嬉しそうに言う。
「行ってみたいです」
亜由は少し考えた。
そして言う。
「……一度」
「戻ろうか」
みんなが亜由を見る。
亜由は続ける。
「沙霧村に」
覚が微笑む。
「いいと思うわ」
ナチカも頷く。
「ん」
六花は元気よく言う。
「帰ろー!」
水月も嬉しそうだった。
「はい!」
夕焼けの道を。
亜由たちは歩いていく。
沙霧村へ向かって。
しかし――
その頃。
遠く離れたどこかで。
静かに燃える炎があった。
まるで何かが目覚めるように。
ゆっくりと。
ゆっくりと――。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




