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外伝「第一弾」アルケオン 霊鏡物語  作者:


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沙霧村、屋敷の奥の主

――夜は、すべてを奪う。

けれど同時に、何かを始める場所でもある。


これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、

人ならざるものの棲む森へと迷い込み、

“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。


名も知らぬ世界、霊鏡。

人と妖の境が曖昧なその森で、

少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。


これは――

運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。

沙霧村は、朝からにぎわいに満ちていた。

人の声と、そうでない声が重なり合い、笑い声や足音が絶え間なく響いている。


人と、人ならざるもの。

そのどちらもが自然に行き交うこの村は、亜由にとって不思議と懐かしい場所だった。


胸の奥が、きゅっと締めつけられる。

失ったはずの記憶の中に、似た温もりがあった気がした。


「……あの奥にある屋敷に、あの方がいる」


ナチカが村の中央、ひときわ大きな屋敷を指さす。


「……」


亜由(あゆ)は返事をせず、周囲を見渡していた。

行き交う人々、角のある者、尻尾を揺らす者、風のように姿を曖昧にする者。

誰もが自然に笑い、声を掛け合っている。


「……亜由?」


ナチカが振り返る。


「あっ……いえ、みとれていて……」


我に返ったように亜由は小さく頭を下げた。


「……たしかに……美しいところ……」


ナチカも同じように、村を一度見回してから歩き出した。


亜由はその背中を追う。


 


「……ナチカが、ここまで出てくるなんて珍しい……」


道の脇から、落ち着いた女性の声がした。


笠を深くかぶった女性が、ゆっくりと姿を現す。

その隣には、金色の髪を揺らす少女がいた。


「♪~~~」


少女は楽しげに、風鈴のような音を響かせる。


ナチカは足を止め、淡々と説明した。


「……この子は迷い人……それに、半妖……」


そして亜由を一瞥する。


「……半妖に詳しい人に、見てもらう……」


「そうか」


笠の女性は小さく頷いた。


「私はツツジ。辻神って妖怪よ。よろしくね」


「♪~~」


金髪の少女が、また澄んだ音を鳴らした。


「えっと……」


戸惑う亜由に、ツツジがやさしく補足する。


「あぁ、彼女はたまこ。妖怪以外の人には、風鈴みたいな声に聞こえるの」


たまこはにこにこと笑い、また音を鳴らした。


「妖怪・金霊だよ」


「あ、そうなんですね……」


亜由は少し安心したように微笑む。


「亜由です」


「亜由ちゃんか」


ツツジは穏やかな目で頷いた。


「なにか困ったことがあったら、私みたいな警備隊に声をかけるといいよ」


「あ、はい」


「♪~~」


たまこが手を振る。

亜由も小さく手を振り返した。


 


しばらく歩くと、視界の先に大きな屋敷が現れた。

高い塀と堂々とした門構え。村の中心にふさわしい存在感がある。


「……着いた……」


ナチカの声が、少し低くなる。


「おおきい……」


思わず、亜由の口から声がこぼれた。


ナチカは門番のもとへ歩み寄る。


「……迷い人……通っていい?」


門番はすぐに姿勢を正した。


「はっ!今、門を開けますね」


重厚な音を立てて、門が開かれる。


 


屋敷の中は、外の賑わいとは別の静けさに包まれていた。

磨かれた廊下を進むたび、足音が小さく反響する。


ナチカは一度立ち止まり、奥の間に向かって声をかけた。


「……梓様……入ってもよろしいですか?

迷い人を連れてまいりました」


一拍置いて、やわらかな女性の声が返ってくる。


「ふふっ、そうかしこまらなくてもいいのよ?

えぇ、どうぞ」


「……失礼します……」


ナチカは一礼し、戸を開いた。


 


部屋に足を踏み入れた瞬間、亜由は息をのんだ。


「……きれいな人……」


そこにいたのは、穏やかな微笑みをたたえた女性だった。

落ち着いた佇まいと、澄んだ瞳。

不思議と、見ているだけで心が静まる。


「こんにちは」


女性は立ち上がり、優しく頭を下げた。


「私はこの村を治める村長の娘、源梓(みなもとのあずさ)と申します」


その声は、風のない湖面のように穏やかだった。


「いらっしゃい、迷い人」


亜由は、思わず胸の前で手を握りしめる。


この人なら――

そう思わせる、不思議な安心感がそこにあった。


霊鏡の奥深くで、

亜由の運命は、静かに次の扉を開こうとしていた。

沙霧村は、

争いの中で生きてきた亜由にとって、

初めて「否定されない場所」として描いています。


人と妖怪が肩を並べて暮らすこの村は、

理想郷であると同時に、

亜由がこれから向き合うことになる“現実”の入口でもあります。


そして、源 梓という人物。

彼女は強さや権威ではなく、

「受け止めること」でこの村を支える存在です。


まだ語られていないことは多く、

半妖という言葉の意味も、

霊鏡という世界の本当の姿も、

これから少しずつ明らかになっていきます。


この夜は、答えを得るための夜ではありません。

ただ――

「この人なら、話してもいいかもしれない」

そう思えたこと自体が、大きな一歩なのです。


次の夜、

亜由は初めて“自分自身”と向き合うことになります。


その行方を、

もう少しだけ見守っていただけたら幸いです。


――次夜へ、続く。

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