ーー月赤邸を後にして、蒼海の浜辺へーー
――夜は、すべてを奪う。
けれど同時に、何かを始める場所でもある。
これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、
人ならざるものの棲む森へと迷い込み、
“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。
名も知らぬ世界、霊鏡。
人と妖の境が曖昧なその森で、
少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。
これは――
運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。
エリーに案内され、亜由は月赤邸の様々な場所を見て回った。
大食堂。
庭園。
武器庫。
音楽室。
そして大きな書館。
気がつけば、かなりの時間が経っていた。
「いっぱい見たわね!」
エリーが満足そうに笑う。
亜由も頷いた。
「はい!すごく楽しかったです!」
エリーは少し照れたように言う。
「そう?それならよかった」
そしてふと思い出したように言う。
「そうだ、みんな待ってるわね」
「戻りましょう」
二人は客室へ戻った。
扉を開けると――
ナチカたちがゆったりとくつろいでいた。
六花が手を振る。
「あ、帰ってきた!」
ノーマが笑う。
「おかえりです!」
雷も小さく言う。
「おかえり……です」
エリーが亜由の隣に立つ。
「待たせちゃったわね」
覚が優しく微笑む。
「いいえ」
紅茶を置きながら言う。
「楽しそうだったから良いのよ」
六花がニヤニヤする。
「仲良くなったみたいだね〜」
亜由は少し照れた。
「えへへ……」
エリーも少し嬉しそうだった。
エリーが椅子に座りながら聞いた。
「ねぇ」
みんなを見る。
「次はどこに行くの?」
すると、部屋の隅に立っていたリンが静かに口を開いた。
「もしよろしければ」
軽くお辞儀をする。
「蒼海の浜辺はいかがでしょうか」
亜由が聞く。
「蒼海の浜辺?」
覚が説明する。
「えぇ」
窓の外を見ながら言う。
「あそこは海の綺麗な浜辺よ」
少し微笑む。
「砂がキラキラと光っているの」
ノーマが目を輝かせた。
「行ってみたいです!」
六花もすぐに言う。
「いいねそれ!」
雷が小さく頷く。
「賛成……です」
ナチカも短く言った。
「ん、行く」
亜由も嬉しそうに言う。
「私も見てみたいです!」
エリーは少し残念そうに笑った。
「本当は一緒に行きたいけど」
肩をすくめる。
「館の仕事があるの」
リンが静かに頷く。
「申し訳ありません」
エリーは亜由を見る。
「でも」
優しく言う。
「また遊びに来てね」
亜由は元気よく頷いた。
「はい!」
エリーが手を振る。
「気をつけて行ってきて」
こうして亜由たちは、
友達になったエリーとその従者たちに別れを告げ――
西洋の館、月赤邸を後にした。
夜の霊鏡。
月明かりの道を、亜由たちは歩いていく。
森を抜け、
丘を越え、
海の方へ向かって歩いていった。
亜由たちはしばらく歩いた。
長い道のりだった。
そして気づけば――
いつの間にか、朝日が昇っていた。
すると――
ナチカが前を指さす。
「……ん、あれが蒼海の浜辺……」
亜由が目を輝かせる。
「わぁ〜!……綺麗!」
ノーマも嬉しそうに言う。
「はい!」
六花が笑う。
「さすが霊鏡の観光名所だね!」
覚も懐かしそうに言う。
「やっぱりいつ見ても綺麗ね〜」
雷が辺りを見回す。
「でも今日は誰もいないみたい……です」
六花が肩をすくめる。
「朝早いからかな」
そして元気よく言う。
「とりあえず行こー!」
――その頃。
蒼海の浜辺の空洞にて。
岩の間にある、小さな洞窟。
波の音が静かに響いている。
その奥に――
一人の女の子がいた。
膝を抱えて座っている。
涙がぽたぽたと落ちていた。
「……ッ……」
小さな泣き声。
「……ッ…………」
しかし、そのとき。
彼女の耳に――
遠くから聞こえる足音。
砂を踏む音。
女の子は顔を上げた。
「……?」
涙で濡れた目で洞窟の出口を見る。
「……誰が浜辺に来た?」
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




