ーー月赤邸探検と蒼海の泣き声ーー
――夜は、すべてを奪う。
けれど同時に、何かを始める場所でもある。
これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、
人ならざるものの棲む森へと迷い込み、
“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。
名も知らぬ世界、霊鏡。
人と妖の境が曖昧なその森で、
少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。
これは――
運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。
亜由たちは西洋の館――月赤邸に招待された。
そこにはゴブリンやコボルトなどの妖精たちが住んでおり、館の中は不思議な活気に満ちていた。
そして館の主の一人、
エリー・シャルロット・フォン・フルムーンと出会った。
「さぁ!案内するわ!」
エリーは楽しそうに亜由の手を引く。
亜由は慌ててついていく。
「ま、待ってエリー!」
長い廊下を二人は走るように進んだ。
廊下の壁には赤い絨毯が掛けられ、古い絵画や西洋の鎧が飾られている。
すると、小さな緑色の妖精が壁の穴からひょこっと顔を出した。
「お、お嬢様!」
エリーが笑う。
「あら、ゴブリンの子たちね」
小さなゴブリンたちはぺこりと頭を下げた。
「こんばんは!」
「こんばんはです!」
亜由は少し驚きながら手を振る。
「こんばんは〜」
エリーが歩きながら説明する。
「ここにはね」
「ゴブリン、コボルト、ブラウニー、色々な妖精がいるの」
亜由は感心した。
「妖怪市場みたいに賑やかですね」
エリーは嬉しそうに頷く。
「そうなの!」
「ここはみんなの家だから」
最初に案内されたのは――
大食堂だった。
巨大なテーブルが何列も並び、天井には大きなシャンデリアがある。
壁際ではコボルトたちが料理を運んでいた。
一匹のコボルトがエリーに気づく。
「お嬢様!」
エリーが手を振る。
「こんばんは」
亜由はテーブルを見て目を丸くした。
「大きい……」
エリーが笑う。
「ここは宴会のときに使うの」
次に案内されたのは――
庭園だった。
月明かりに照らされた庭。
薔薇が咲き、白い噴水が中央にある。
小さな妖精たちが光りながら飛び回っていた。
亜由は感動する。
「きれい……」
エリーは誇らしそうに言う。
「月赤邸の庭はね」
「夜が一番綺麗なの」
その後も二人は館を歩き回った。
武器庫。
客間。
音楽室。
バルコニー。
そして――
エリーが立ち止まった。
「次はね」
少し誇らしそうに言う。
「私の好きな場所よ」
大きな扉を開く。
ギィ……
そこは――
書館だった。
天井まで続く巨大な本棚。
何千冊もの本が並んでいる。
中央には大きな机とランプ。
梯子が本棚に立てかけられていた。
亜由は思わず声を出す。
「すごい……!」
エリーが嬉しそうに言う。
「ここは月赤邸の書館よ」
本棚を見上げながら続ける。
「ヨーロッパの本や魔導書」
「妖精の記録」
「色々あるの」
亜由は目を輝かせていた。
「こんなに本が……」
エリーは少し笑う。
「ナチカがよく来るのよ」
亜由が納得する。
「たしかに好きそうです」
エリーは本を一冊取った。
「ここでよく」
少し照れながら言う。
「お兄様と本を読んでたの」
亜由は優しく言った。
「いいですね」
エリーは少しだけ寂しそうに笑った。
「……うん」
それから二人は館のいろいろな場所を見て回った。
屋根の上。
塔の展望室。
妖精の部屋。
長い廊下。
気づけばかなり時間が経っていた。
エリーが笑う。
「いっぱい歩いたわね!」
亜由も笑う。
「楽しかったです!」
エリーが言う。
「今度はお兄様にも紹介するわ」
そのとき――
場面は変わる。
蒼海の浜辺。
夜の海。
波の音だけが響く。
その浜辺の岩場に――
空洞があった。
海水が静かに出入りする洞窟。
その奥から聞こえる。
小さな声。
「……ッ……」
震える声。
「……ッ……」
女の子の泣き声だった。
「……私なんて……」
涙の混じった声が、静かな洞窟に響いていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




