ーー初めての連携、炎月の一撃ーー
――夜は、すべてを奪う。
けれど同時に、何かを始める場所でもある。
これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、
人ならざるものの棲む森へと迷い込み、
“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。
名も知らぬ世界、霊鏡。
人と妖の境が曖昧なその森で、
少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。
これは――
運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。
ノーマの拳が赤舌の顔面に叩き込まれた。
ドォンッ!!!
巨大な衝撃が空中に響き渡る。
赤舌の巨体がぐらりと揺れた。
「グァァァァァァ!!!!??」
空中で体勢を崩す。
「な、なんだと……!」
赤舌の体が大きく傾き、雲の上から落ちるように降下していく。
ドォォォォォン!!!
市場の広場近くに、巨大な体が叩きつけられた。
地面が揺れる。
土煙が舞い上がる。
赤舌は苦しそうに叫んだ。
「や、焼けるぅ~~~!!!!」
ノーマの攻撃に妖気が混じっていたのか、顔の一部が焦げている。
六花はその瞬間を見逃さなかった。
「今だ!」
鬼天棍を構える。
「亜由!」
亜由が振り向く。
「え!?」
六花が叫んだ。
「私の武器に!」
鬼天棍を差し出す。
「妖術を乗せて!」
亜由は一瞬驚いた。
だが、すぐ理解する。
「は、はい!」
両手を前に出す。
呼吸を整える。
胸の奥から妖力を引き出す。
「妖炎……」
手のひらに赤い炎が生まれる。
ゆらゆらと揺れる炎。
亜由はそれを鬼天棍へ向けた。
「いきます!」
炎が流れ込む。
ゴォォォッ!!
鬼天棍が赤く輝いた。
炎が武器にまとわりつく。
六花がにやっと笑った。
「いいね!」
鬼天棍を振り上げる。
「行くよ!」
赤舌が顔を上げる。
「な……!」
六花が地面を蹴った。
ドンッ!!
一気に距離を詰める。
そして叫ぶ。
「鬼天棍・陽月轟破!!!」
鬼天棍が大きく振り下ろされた。
その瞬間――
亜由の炎が爆発するように広がる。
ドォォォォォォン!!!
赤舌の体に炎が叩き込まれた。
赤舌は絶叫した。
「グァァァァァァァァァァ!!!」
炎が体を包み込む。
妖気が焼け、崩れていく。
赤舌はもがいた。
「ば、馬鹿な……!」
しかし、六花の一撃と亜由の炎は止まらない。
ついに――
パァァァァァァン……
赤舌の体が崩れた。
妖怪の体は塵となり、夜風に散っていく。
やがて何も残らなかった。
静かな夜が戻る。
豪雨も止んでいた。
六花が振り向いた。
満面の笑み。
「亜由!」
親指を立てる。
「やったね!」
亜由は少し息を切らしながら笑った。
「は、はい!」
雷が小さく言う。
「初めての連携とは思えない……です」
ナチカも頷いた。
「ん」
小さく微笑む。
「信頼と友情の力……」
覚も優しく言う。
「はい」
亜由と六花を見る。
「そうですね」
その少し後ろで――
ノーマが二人を見ていた。
「……」
六花と亜由が笑っている。
楽しそうに話している。
その姿を見て――
ノーマの胸の奥で、何かが動いた。
小さく。
でも、確かに。
しばらくして。
妖怪市場には、妖怪たちが戻ってきていた。
屋台の灯りが再び灯る。
「終わったのか?」
「赤舌がやられたらしい」
「誰が倒したんだ?」
ざわざわと市場は再び賑わい始めた。
しかし――
亜由たちは市場を離れていた。
夜道を歩く。
虫の声がまた聞こえていた。
そのとき。
ノーマが急に立ち止まった。
「亜由お姉ちゃん!」
亜由が振り向く。
「え?」
ノーマは真剣な顔をしていた。
そして言う。
「私を連れて行ってください」
亜由は少し驚く。
「……」
覚が聞いた。
「それはどうして?」
ノーマは少し緊張した様子だった。
でも、しっかり言う。
「はい」
拳を握る。
「私は人間を知りたいの……」
亜由を見る。
「人間を知って」
少し照れながら言う。
「仲良くなりたい!」
続ける。
「だから」
深く頭を下げる。
「近くでみんなを見て」
「仲良くなる方法を勉強したいの!」
そして――
さらに深く頭を下げた。
「だから……」
震える声。
「私を仲間に」
小さく言う。
「その、つながりをください!」
覚が亜由を見る。
「……」
静かに言う。
「どうするの?亜由?」
ナチカも言った。
「ん」
落ち着いた声。
「これは亜由が決めること」
亜由は少し考えた。
ノーマはずっと頭を下げたままだ。
亜由はゆっくり近づいた。
そして――
手を差し伸べる。
「うん!」
優しく笑った。
「これからよろしくね」
ノーマは顔を上げる。
「!」
目が大きく開く。
そして――
嬉しそうに笑った。
「……はい!」
大きく頷く。
「お姉ちゃん!」
雷が言った。
「じゃあ」
小さく言う。
「式神の儀をやる……です」
六花も頷く。
「あ、そうだね」
ノーマは少し慌てる。
「ど、どうやるんですか」
六花は考える。
「う~ん」
指を顎に当てる。
「本当は」
説明する。
「その妖怪の身近な物を使ったほうがいいんだけど~」
しかし今回はない。
六花が言う。
「今回は」
亜由を見る。
「ナチカと同じ符を使いましょう」
亜由は頷いた。
懐から符を取り出す。
依代の符。
両手で持つ。
目を閉じる。
「……」
妖力を込める。
符が淡く光り始める。
そして――
ノーマへ向けた。
「集中して……」
ノーマも目を閉じる。
「はい」
妖力が符へ流れ込む。
そして――
ノーマの力がそこへ重なる。
符が強く光った。
パァァァァァ……
ノーマが目を開く。
「はい!」
嬉しそうに言う。
「つながりを感じます!」
覚が微笑んだ。
「うん」
頷く。
「成功ね」
そのときだった。
後ろから声がした。
「……終わったようですね」
ナチカが振り向く。
「!」
そこには――
一人のメイドが立っていた。
整った黒いメイド服。
静かな微笑み。
メイドは丁寧に一礼する。
「お取り込み中申し訳ありません」
落ち着いた声で言う。
「お嬢様から」
手紙を差し出す。
「西洋の館への招待状が届いております」
そして顔を上げた。
「皆様……」
亜由は驚いた。
「え?」
メイドは再び丁寧に頭を下げた。
「申し遅れました」
静かな声。
「私は西洋の館のメイド長」
胸に手を当てる。
「お嬢様のお目付け役」
そして名乗った。
「西洋妖精『グレムリン』のリンと申します」
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




