ーー竹林の夜と次の旅路ーー
――夜は、すべてを奪う。
けれど同時に、何かを始める場所でもある。
これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、
人ならざるものの棲む森へと迷い込み、
“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。
名も知らぬ世界、霊鏡。
人と妖の境が曖昧なその森で、
少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。
これは――
運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。
亜由たちは鞍馬第二山を降り、静かな山道を歩いていた。
修行を終え、覚という新しい仲間も加わり、皆どこか満足そうな表情をしている。
空には丸い月が浮かび、辺りはすっかり夜になっていた。
道の両側には竹林が広がり、風が吹くたびに葉がさらさらと揺れる。
その中から、無数の虫の声が響いていた。
リーン……リーン……
ジジジジ……
まるで森全体が歌っているようだった。
六花が両手を広げる。
「わぁ~!」
嬉しそうに声を上げる。
「虫の大合唱だ~!」
亜由も笑顔になる。
「はい!」
目を輝かせて竹林を見た。
「すごく綺麗な音ですね」
覚は後ろを歩きながらくすっと笑う。
「ふふっ」
亜由と六花を見る。
「子供は元気ねぇ~」
雷はふと立ち止まった。
「……明かり?」
指を差す。
竹林の奥に、小さな光が揺れていた。
まるで提灯のような明かりだ。
亜由が首をかしげる。
「なんの明かりでしょう」
ナチカが目を細めて見る。
「ん」
少し考えてから言った。
「このあたりだと……多分」
小さく呟く。
「燈無蕎麦……」
亜由は聞き返した。
「燈無蕎麦?」
六花が説明する。
「うん」
少し得意そうに言う。
「江戸本所七不思議の一つらしいよ」
竹林の明かりを見る。
「屋台の形をした幽霊で」
指を立てる。
「明かりをつけると身内に不幸が起こる」
亜由の顔が青くなる。
「え」
ナチカがすぐに言った。
「ん」
落ち着いた声。
「大丈夫」
首を振る。
「明かりをつけなければ」
小さく肩をすくめる。
「ただの屋台の幽霊」
亜由はほっとした。
「そうなんですね」
竹林の中の明かりは、静かに揺れているだけだった。
そのとき。
上から声がした。
「おやおや」
軽やかな声。
「こんな夜に少女だけで歩くのは危険ですよ」
みんなが見上げる。
竹の枝の上に、一人の少女が座っていた。
背中には小さな羽が生えている。
雷が言った。
「雀」
少し首をかしげる。
「仕事はいいの?です」
少女は笑った。
「仕事ですか?」
手をひらひら振る。
「大丈夫です!」
元気よく言う。
「今日の仕事は仲間に任せましたから」
亜由は少し緊張しながら挨拶する。
「こ、こんにちは……」
頭を下げる。
「亜由です」
少女はぱっと顔を輝かせた。
「お~!」
枝からひょいっと降りる。
「あなたが噂の迷い人ですね!」
胸を張る。
「私は妖怪『夜雀』の雀だよ~」
ナチカが説明する。
「夜雀は」
静かに言う。
「夜、雀の鳴き声を出して」
少し間を置く。
「聞こえた人を不幸にする」
亜由が少しびくっとする。
ナチカは続けた。
「でも」
雀を見る。
「ここの夜雀は」
穏やかに言う。
「危険を知らせる役目がある」
亜由は安心した。
「そうなんですね」
覚が面白そうに言う。
「中でも」
雀を見る。
「雀の不幸的中率は一位なの」
六花が笑う。
「そうそう!」
指を立てる。
「100%的中だからね」
亜由は目を丸くした。
「すごい……」
雀は得意げに胸を張る。
「はい!」
元気に言う。
「私は一位なのですよ!」
そして空を見上げた。
「あ」
翼を広げる。
「では、そろそろ私は帰りますね」
にこっと笑う。
「夜の見回りがありますので!」
バサッ
羽を羽ばたかせると、雀は夜空へ飛び上がった。
「それでは~!」
そのまま月明かりの中へ消えていく。
亜由はその姿を見送った。
「すごいですね……」
六花はうーんと唸る。
「う~ん」
腕を組む。
「次はどこ行こうか……」
ナチカが言う。
「霊鏡の中」
静かに言う。
「まだ見てない場所いっぱいある」
覚も頷いた。
「そうね」
指を折って数える。
「死霊の森」
「妖怪市場」
「魔女の隠れ里」
「西洋の館」
少し笑う。
「あと」
亜由を見る。
「梓様の屋敷に戻るのもありね」
雷が言った。
「ご主人」
六花を見る。
「どうする?」
六花は空を見上げた。
満月が輝いている。
そしてにこっと笑った。
「よーし!」
指をびしっと前へ向ける。
「今日は!」
大きく言う。
「夜の霊鏡探検だ~!」
亜由は少し驚きながらも笑った。
「はい!」
こうして――
亜由たちの霊鏡の夜の旅が始まろうとしていた。
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次回もお楽しみに




