表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外伝「第一弾」アルケオン 霊鏡物語  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/47

ーー天狗の山と修行の予兆ーー

――夜は、すべてを奪う。

けれど同時に、何かを始める場所でもある。


これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、

人ならざるものの棲む森へと迷い込み、

“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。


名も知らぬ世界、霊鏡。

人と妖の境が曖昧なその森で、

少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。


これは――

運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。

山の空気は、麓とはまるで違っていた。


鞍馬第二山の登山道を、亜由(あゆ)たちはゆっくりと登っていく。

山の斜面には巨大な杉が立ち並び、風が吹くたびに葉がざわめく。


先頭を歩く六花は、相変わらず元気いっぱいだった。


「もうちょっとだよ~!」


くるりと振り返って笑う。


その後ろで、亜由は少し息を整えながら歩いていた。


「はぁ……」


山道を見上げる。


「……この山には」


ふと疑問が浮かぶ。


「天狗以外の妖怪はいないんですか?」


六花(ろっか)がすぐ答えた。


「ん?」


にこっと笑う。


「いるよ~」


亜由は少し驚いた。


「そうなんですか?」


六花は頷く。


「みんなの山でもあるからね!」


(ライ)が後ろから補足する。


「……天狗軍の本拠地があるだけの大きい山」


低い声で続ける。


「だから、いろんな妖怪が住んでる」


亜由は感心した。


「そうなんですね」


ナチカが少し考える。


「たしか」


顎に手を当てる。


「この山にいる有名なのは……」


少し間を置いた。


「河童くらいかな」


亜由は首をかしげた。


「河童……ですか?」


ナチカは説明する。


「ん」


「相撲と子供ときゅうりが好きな妖怪」


亜由は思わず笑った。


「きゅうり?」


ナチカは頷く。


「人間に魚のとり方を教えてくれたりする」


亜由は目を輝かせた。


「そうなんですね」


そのとき。


足元の石が転がった。


「わ、わわっ!」


亜由の足が滑る。


体が斜面へ傾いた。


その先には――


小さな池。


「きゃっ!」


体が落ちていく。


「亜由!」


ナチカが叫ぶ。


その瞬間。


池の水面が揺れた。


声が響く。


「危ないぞぉ~」


水面から長い腕が伸びる。


「池の中に引き込むぞぉ」


その腕が、亜由の体を掴んだ。


ぐいっと引き戻す。


亜由は地面に着地した。


「はっ……!」


息を整える。


六花が駆け寄る。


「亜由、大丈夫?」


亜由は慌てて頷いた。


「あ、はい……」


そして池を見る。


「この腕の妖怪さんは……?」


雷がぽつりと言う。


「おばば……」


亜由はきょとんとした。


「おばば?」


ナチカが説明する。


「手長婆」


池を指す。


「池や井戸のそばで遊んでたりする子をおどして戒める妖怪」


池の水面から、ゆらゆらと長い腕が揺れる。


「気をつけてねぇ」


優しい声だった。


亜由は深く頭を下げる。


「あ、ありがとうございます」


そのとき。


池の向こうから声がした。


「危ないところでしたね」


白い影が近づいてくる。


足先まで伸びた長い白髪。


少女の姿をした妖怪だった。


六花が手を振る。


「あ!」


「幽奈ちゃん!」


ナチカが亜由に言う。


「妖怪」


「しらみゆうれんの幽奈」


池を指す。


「この池に住んでる」


亜由は改めて頭を下げた。


「はい、助けてもらいました」


幽奈はにこにこしている。


「うんうん!」


手を振る。


「おばばは子供好きだから!」


そして首をかしげる。


「それで、君たちは登山?」


雷が答えた。


「ううん」


亜由を見る。


「鞍馬天狗に亜由の妖力の使い方を教えてもらいに来た」


幽奈の目が輝く。


「あぁ!」


嬉しそうに言う。


「修行!だね!」


拳を握る。


「頑張って!」


亜由も元気に答えた。


「はい!」


手長婆の腕が水面から揺れる。


「頑張るんだよぉ~」


亜由はふと疑問を口にした。


「手長婆は」


池を見る。


「腕だけなんですか?」


幽奈が笑う。


「ん?」


そして水面を指した。


「あぁ」


「子供が好きなくせに恥ずかしがりやなの」


くすっと笑う。


「本体は水中」


亜由は納得した。


「そうなんですね」


幽奈は頷く。


「うん!」


六花が手を叩いた。


「それじゃあ!」


元気いっぱいに言う。


「再開だよ~!」


そして走り出す。


亜由は慌てた。


「あ!」


「待って~!」


二人の背中が山道を駆け上がる。


幽奈はそれを見て笑った。


「楽しそうですね」


雷は肩をすくめる。


「騒がしい方だよ」


少し間を置く。


「ご主人は」


ナチカも小さく笑った。


「まぁ、そうだけど」


亜由の背中を見る。


「元気なのはいいこと」


軽く手を振る。


「それじゃ」


幽奈も手を振った。


「うん!」


手長婆の腕も揺れる。


「気をつけるんだよぉ」


ナチカと雷は山道を駆け上がった。


――――――


それからしばらく。


山道はどんどん険しくなっていく。


岩場を越え、橋を渡り、霧の道を抜け――


ついに。


視界が開けた。


亜由は息を呑む。


「ここが……」


巨大な鳥居。


石段。


その奥に広がる壮大な社。


六花が誇らしげに言った。


「うん!」


「天狗の住処!」


両手を広げる。


「鞍馬神社だよ!」


亜由は目を丸くした。


「おっきいですね」


ナチカも周囲を見渡す。


「ん」


静かに言う。


「霊鏡では最大」


雷がふと呟く。


「私とご主人が出会ったのは」


この山を見る。


「この山」


亜由は驚いた。


「そうなんですね」


六花が笑う。


「うん!」


雷を見る。


「怪我してたから助けたんだ」


雷は小さく頷いた。


「うん」


少し間を置く。


「助けられた……」


遠くを見る。


「優しくしてくれた人間は初めてで」


静かな声。


「いい人間もいるって知った」


そして亜由を見る。


「亜由」


少し照れくさそうに言う。


「ご主人の友達……」


「だからいい人」


亜由は笑った。


「……うん!」


そのとき。


低い声が響いた。


「来たか」


巨大な影が社の奥から現れる。


赤い顔。


長い鼻。


巨大な翼。


六花が嬉しそうに叫んだ。


「あ!」


「鞍馬天狗!」


鞍馬天狗はゆっくり頷いた。


「うむ」


腕を組む。


「お主らのこと」


「他の天狗から聞いている」


亜由を見る。


「その娘に妖力の使い方を教えたい」


少し間を置く。


「そうだな」


六花が元気に答える。


「はい!」


鞍馬天狗は亜由を見る。


鋭いが、優しい目だった。


「娘」


低い声。


「それでいいな?」


亜由は力強く頷いた。


「はい!」


鞍馬天狗は満足そうに頷いた。


「うむ」


「良かろう」


そして言った。


「まずはゆっくり休むといい」


空を見上げる。


「疲れていては修行に集中できんからな」


六花が笑顔になる。


「鞍馬天狗!」


「ありがと!」


鞍馬天狗は小さく笑った。


「なに」


「弟子の頼みだ」


そして亜由を見る。


ほんの一瞬、真剣な目になる。


「それにその娘……」


小さく呟いた。


「これは感だが……」


遠くを見る。


「やがて大きな妖術の使い手になるだろう」


亜由は驚いた。


「え?」


鞍馬天狗はさらに小さく呟く。


「もしかしたら……」


「あの安倍晴明をも超えるやも……」


六花が首をかしげた。


「なにか言った?」


「鞍馬天狗?」


鞍馬天狗はすぐに首を振る。


「いや」


「なんでもない」


そして天狗たちに命じた。


「お前たち」


翼を広げる。


「場所を用意せよ」


周囲の天狗たちが一斉に頭を下げた。


「はっ!!」


こうして――


亜由の天狗修行が始まろうとしていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ