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外伝「第一弾」アルケオン 霊鏡物語  作者:


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13/48

――子守山の空き地――

――夜は、すべてを奪う。

けれど同時に、何かを始める場所でもある。


これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、

人ならざるものの棲む森へと迷い込み、

“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。


名も知らぬ世界、霊鏡。

人と妖の境が曖昧なその森で、

少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。


これは――

運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。

亜由(あゆ)たちは鉄鼠たちに案内され、悲田院の門をくぐり中へと入っていった。


 


古い寺を改良して作られた施設らしく、境内は思っていた以上に広い。


 


木造の建物がいくつも並び、小さな畑や井戸も見える。


 


子どもたちの遊び道具らしき竹馬や木の球も転がっていた。


 


亜由は周囲を見回しながら言った。


 


「中は結構広いですね」


 


鉄鼠は穏やかに笑った。


 


「まぁ、かなり大きな寺だったらしいからな」


 


少し肩をすくめる。


 


「その分、掃除は大変だがな」


 


 


そのときだった。


 


どこからか声が聞こえた。


 


 


「お客さん?」


 


 


次の瞬間――


 


地面が、もこりと盛り上がった。


 


土が動き、その中から黄色い光が二つ現れる。


 


 


亜由

「わぁ!」


 


 


ナチカが落ち着いた声で言う。


 


 


「亜由、大丈夫」


 


 


地面の影を見ながら説明する。


 


 


「あれは妖怪ノツゴ」


 


 


「死んだ子供が地面に染み付いて妖怪になったもの」


 


 


少し不思議そうに続ける。


 


 


「……本来はちゃんとした言葉は喋れないはずだけど」


 


 


そのとき、


後ろから女性の声が聞こえた。


 


 


「ここにいる間に覚えたんですよ」


 


 


振り向くと、


白装束の女性が寺から出てきていた。


 


その腕には赤子が抱かれている。


 


 


六花(ろっか)が手を振る。


 


 


「あ!産女先生!」


 


 


ナチカが小さく言う。


 


 


「妖怪……産女」


 


 


少し言葉を選びながら続ける。


 


 


「……流産した女性の……妖怪」


 


 


産女は優しく微笑んだ。


 


 


「ふふっ」


 


 


「遠慮しなくてもいいんですよ?」


 


 


「もう、わかっていますから……」


 


 


亜由は何も言えず、小さくうなずいた。


 


 


六花が尋ねる。


 


 


「ねぇ、先生!」


 


 


「子どもたちは?」


 


 


すると別の声が聞こえた。


 


 


「それならこの山……」


 


 


「子守山の子泣きの空き地にいるよ」


 


 


声のした方を見ると、


寺の鐘がある場所から一人の男が歩いてきていた。


 


ボロボロの僧衣を着た男性だった。


 


 


六花

「野寺坊先生!」


 


 


野寺坊は静かに頷く。


 


 


「元気そうだな」


 


 


「相変わらず」


 


 


ナチカが亜由に説明する。


 


 


「妖怪野寺坊」


 


 


「古寺に住み着いて鐘を鳴らす妖怪」


 


 


亜由は少し考えてから聞いた。


 


 


「……ねぇ、ナチカ」


 


 


「子泣きの空き地って?」


 


 


ナチカは少し遠くの山を見た。


 


 


「ん」


 


 


「子泣きの空き地は」


 


 


「子をなくした親が石を積み上げてできた小石の山がある空き地」


 


 


静かに続ける。


 


 


「その山があるから……子守山っていうの」


 


 


亜由はゆっくりうなずいた。


 


 


「なるほどです」


 


 


すると地面のノツゴがぽつりと言った。


 


 


「子守山……」


 


 


「子守山……」


 


 


「楽しい」


 


 


鉄鼠は少し不思議そうに言う。


 


 


「そうだ、ノツゴよ」


 


 


「なぜここにいる?」


 


 


「子どもたちと遊んでいたのではないのか?」


 


 


ノツゴは少し沈黙した。


 


 


そして低く言った。


 


 


「……変な妖怪」


 


 


「現れた……」


 


 


「友達……襲ってる……」


 


 


鉄鼠の目が見開かれる。


 


 


「なんだと!?」


 


 


六花はすぐに鬼天棍を握った。


 


 


「急がないと!」


 


 


そう言うと走り出す。


 


 


産女

「あ!」


 


 


「これ!」


 


 


「……準備もせず行ってしまった……」


 


 


少し不安そうに言う。


 


 


「それと子どもたちは無事か……」


 


 


野寺坊は腕を組んだ。


 


 


「まぁ」


 


 


「私と鉄鼠は子を持たぬ大人」


 


 


「……あそこへは」


 


 


「子どもと、子を失った者、子を持つもの以外立ち寄れぬ」


 


 


静かに続ける。


 


 


「しかし」


 


 


「産女一人じゃ危険だ」


 


 


そのとき亜由が前に出た。


 


 


「私!」


 


 


「追いかけたいです!」


 


 


産女は驚いて亜由を見る。


 


 


「お嬢さん……」


 


 


「いいのかい?」


 


 


「危険だよ」


 


 


亜由は真っ直ぐ答えた。


 


 


「危険でも行きたいです!」


 


 


「友達のために!」


 


 


産女はしばらく亜由を見つめた。


 


 


そして小さく頷いた。


 


 


「……分かりました」


 


 


「ついてきてくださいね」


 


 


亜由

「はい!」


 


 


二人は山道を走っていった。


 


 


残されたナチカはその背中を見ていた。


 


 


「……」


 


 


ノツゴがぽつりと言う。


 


 


「大丈夫……」


 


 


「産女先生……」


 


 


「……あれでも強い……」


 


 


ナチカは静かに答える。


 


 


「……ん」


 


 


「わかってる」


 


 


少し目を伏せる。


 


 


「でも……」


 


 


野寺坊が低く言った。


 


 


「今は祈り待つことが大事だ」


 


 


鉄鼠も頷く。


 


 


「そうだ」


 


 


「焦っていては何も始まらん」


 


 


門の外を見つめながら言う。


 


 


「我々はここで待ち」


 


 


「帰ってくる者たちを出迎えるだけ」


 


 


ナチカは静かにうなずいた。


 


 


「……ん」


 


 


「わかった」


 


 


子守山の奥。


 


 


そこでは今、


 


新たな危機が迫っていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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