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外伝「第一弾」アルケオン 霊鏡物語  作者:


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――悲田院の子どもたち――

――夜は、すべてを奪う。

けれど同時に、何かを始める場所でもある。


これは、炎に居場所を奪われた一人の少女が、

人ならざるものの棲む森へと迷い込み、

“生き延びる理由”を拾い上げるまでの物語。


名も知らぬ世界、霊鏡。

人と妖の境が曖昧なその森で、

少女はまだ、自分が何者になるのかを知らない。


これは――

運命が静かに動き出した、第一夜の記録である。

夜の沙霧村。


ナチカと亜由(あゆ)は団子屋の前でしばらく座り、静かに団子を食べていた。


 


甘い餡の味が口に広がる。


 


さっきまでの騒ぎが嘘のように、村は穏やかな夜に包まれていた。


 


「おいしいですね」


 


亜由が小さく笑う。


 


ナチカは短く答えた。


 


「ん」


 


その後二人は屋敷へ戻り、


それぞれの部屋で夜を過ごした。


 


 


――そして朝。


 


屋敷の広間には朝の光が差し込んでいる。


 


朝食を食べ終えた亜由とナチカは、


源 梓(みなもとのあずさ)と話をしていた。


 


そのとき――


 


廊下の向こうから、


ドタドタと大きな足音が近づいてくる。


 


そして勢いよく襖が開いた。


 


「お姉ちゃんおはよー!」


 


大きな棒を持った少女が飛び込んできた。


 


「……あれ?」


 


少女は亜由を見る。


 


「知らない子がいる」


 


梓が少し困った顔で言う。


 


六花(ろっか)?」


 


「もう少し静かに来てって、いつも言っているでしょ」


 


少女は頭をかいた。


 


「あ、忘れてた……」


 


ナチカが亜由に説明する。


 


「彼女は六花」


 


「鞍馬天狗の修行と、美鬼……鬼の修行をクリアして仙人になった子」


 


亜由は驚いた。


 


「仙人!?」


 


六花は胸を張る。


 


「うん!」


 


「私、仙人!」


 


ナチカは六花の持つ棒を見る。


 


「あの棒は……」


 


「鬼の妖力と天狗の妖力を練り込んで、地獄の木を素材にした武器」


 


少し考えて言った。


 


「鬼天棍……だっけ」


 


六花は嬉しそうに頷いた。


 


「うん!」


 


「私の宝物!」


 


梓が優しく言う。


 


「六花?」


 


「彼女は亜由。話は届いているでしょう?」


 


六花は首をかしげる。


 


「?」


 


しばらく考えたあと、


ぱっと表情が明るくなった。


 


「あぁ!」


 


「あなたが!」


 


六花は元気よく手を差し出す。


 


「私、六花!」


 


「よろしくね!」


 


亜由も慌てて頭を下げた。


 


「はい、亜由です」


 


すると六花は突然、亜由の手をつかんだ。


 


「ねぇ!」


 


「私のお家につれてってあげる!」


 


亜由

「え!?」


 


「わぁ!?」


 


六花はそのまま走り出す。


 


「行こー!」


 


亜由の手を引いて廊下を駆けていった。


 


ナチカ

「あ、待って……!」


 


慌てて後を追う。


 


 


残された梓はくすりと笑った。


 


「まあまあ」


 


「ふふっ……」


 


 


「新しい子が来て嬉しいのね」


 


 


 


六花に引っ張られ、


亜由はいつの間にか沙霧村の外まで来ていた。


 


ようやく足を止める。


 


「ま、待って……」


 


息を切らす。


 


「はぁ……はぁ……」


 


六花が振り向いた。


 


「?」


 


亜由は肩で息をしながら聞く。


 


「ろ、六花ちゃん」


 


「どこまで行くの?」


 


六花は不思議そうに言った。


 


「ん?」


 


「お家だよ」


 



「お家って?」


 


そのとき――


 


後ろから声がした。


 


「……やっと追いついた」


 


ナチカだった。


 


六花は嬉しそうに言う。


 


「あ!」


 


「山籠りしてる人!」


 


ナチカは少し眉をひそめる。


 


「山籠りじゃない……」


 


六花は気にせず説明を続けた。


 


「あぁ、えっとね」


 


「お家はお家だよ」


 


ナチカが言った。


 


「……悲田院のこと?」


 


六花はぱっと頷く。


 


「あ、うん!」


 


「それ!」


 


亜由は首をかしげた。


 


「ひでんいん?」


 


ナチカが説明する。


 


「ん」


 


「身寄りのない子ども、病者、貧困者を収容して救済するところ」


 


少し考えて言い直す。


 


「まぁ、収容と言っても」


 


「寺子屋にも通ってるし、普通の子と変わらない」


 


六花が元気よく続ける。


 


「そうなの!」


 


「それに!」


 


「先生は優しいネズミさんなんだよ!」


 


亜由

「ネズミさん?」


 


ナチカが答える。


 


「霊鏡の悲田院は山のてっぺんにあるんだけど」


 


「そこの先生って呼ばれてる人が鉄鼠っていう妖怪」


 


亜由は納得した。


 


「なるほどです……」


 


六花は楽しそうに言った。


 


「そうそう!」


 


「鉄鼠先生や、産女先生や、野寺坊先生や……」


 


「他のみんなに、新しくここに来た子を紹介したいの!」


 


亜由は少し考えてから微笑んだ。


 


「……私」


 


「なんだか会ってみたいです」


 


ナチカは頷く。


 


「ん」


 


「亜由がいいなら」


 


六花は大きく手を振った。


 


「それじゃあ行こー!」


 


 


三人は小さな山の山道を登っていった。


 


木々に囲まれた静かな道。


 


鳥の声が聞こえる。


 


 


しばらく歩くと――


 


大きな門が見えてきた。


 


 


亜由は思わず声を漏らす。


 


「おっきな門……」


 


ナチカが言った。


 


「ん」


 


「悲田院は古寺を改良して作られた場所」


 


「その名残」


 


 


そのとき――


 


門の上から声がした。


 


 


「ご主人!」


 


 


紫色の髪の少女が、


屋根の上から飛び降りてきた。


 


 


六花

「わぁ!」


 


「雷ちゃん!」


 


「おかえり!」


 


 


亜由は驚く。


 


「雷ちゃん?」


 


 


ナチカが説明する。


 


「彼女は妖獣って種類で」


 


「雷獣」


 


「名前は雷」


 


 


すると門の中から声がした。


 


 


「ん?」


 


「どうした?騒がしい……」


 


 


門が開く。


 


そこから現れたのは――


 


鼠の姿をした僧侶だった。


 


 


「おぉ!」


 


「おまえさんか!」


 


「おかえり」


 


 


六花は元気よく手を振る。


 


「鉄鼠先生!」


 


「ただいまぁ!」


 


 


そして亜由を指さした。


 


「……お友だち連れてきた!」


 


 


鉄鼠は穏やかに頷く。


 


 


「おぉ、なるほど」


 


 


二人に向かって軽く頭を下げた。


 


 


「鉄鼠といいます」


 


 


亜由も慌てて頭を下げる。


 


 


「亜由っていいます!」


 


 


ナチカも言った。


 


 


「私はナチカ」


 


 


鉄鼠は嬉しそうに頷く。


 


 


「うんうん」


 


 


「梓様から聞いているよ」


 


 


門を開きながら言った。


 


 


「ささっ、中へどうぞ」


 


 


「子どもたちも喜びます」


 


 


六花が手を振る。


 


 


「入ろ!」


 


 


亜由は笑う。


 


 


「うん」


 


 


ナチカは少しだけ門の奥を見つめた。


 


 


「……」


 


 


そして三人は――


 


悲田院の門の中へと入っていった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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