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外伝「第一弾」アルケオン 霊鏡物語  作者:


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――黒髪を狙う影――

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

夜の沙霧村。


提灯の灯りが通りをやさしく照らしていた。


 


亜由(あゆ)とナチカは村の団子屋の前まで来ていた。


 


甘い香りが漂っている。


 


ナチカが店の暖簾を少し持ち上げた。


 


「……団子、買ってくる」


 


亜由は店の外にある木の椅子に座った。


 


「はい、待ってます」


 


ナチカは店の中へ入っていく。


 


亜由は夜の村を眺めながら、ぼんやりしていた。


 


昼とは違う、落ち着いた空気。


 


遠くから笑い声や食器の音が聞こえる。


 


そのとき――


 


路地裏の暗闇が、わずかに揺れた。


 


黒い影が這い出してくる。


 


 


黒い妖怪が低い声で呟いた。


 


「黒髪……」


 


「黒髪……」


 


 


赤い目が亜由を見つける。


 


 


「食わせろ!!!!」


 


 


巨大な影が飛び出した。


 


 


亜由

「ッ!?」


 


その瞬間――


 


銀色の刃が闇を裂いた。


 


 


ナチカ

「亜由に触れるな」


 


 


鎌が振り下ろされ、


黒い妖怪の腕を受け止めた。


 


 


黒い妖怪

「!?」


 


 


怪物はよだれを垂らしながら叫ぶ。


 


 


「髪!髪を!!」


 


「黒髪食わせろぉぉぉぉ!!!!」


 


 


ナチカは妖怪を睨んだ。


 


 


「黒くて大きい図体……」


 


「黒髪切りか」


 


 


亜由は驚く。


 


 


「黒……髪切り?」


 


 


ナチカは鎌を構えながら説明する。


 


 


「ん、黒い髪を切り落として食う妖怪」


 


「……だいぶ前に未来からやってきた妖怪」


 


 


亜由

「未来から?」


 


 


ナチカは淡々と言う。


 


 


「ん、ここではよくあること」


 


 


そして黒髪切りを見る。


 


 


「……それで」


 


「目的はやっぱり、黒髪?」


 


 


黒髪切りは大きく口を開いた。


 


 


「あぁ!そうだ!」


 


「俺は黒髪切り!」


 


 


太い腕で自分の腹を叩く。


 


 


「黒い髪が大好きなんだ!」


 


 


狂ったように笑う。


 


 


「そして俺の体内に取り込むことで溜め込んで!」


 


「好きなときに出して見るんだ!」


 


 


ナチカは少し眉をひそめた。


 


 


「……正気を疑う」


 


 


鎌を握り直す。


 


 


「それより」


 


「髪は切らせない」


 


 


黒髪切りが突進してきた。


 


 


地面が揺れるほどの重い足音。


 


 


ナチカは横に跳ぶ。


 


 


ドンッ!!


 


 


椅子が吹き飛び、地面が砕ける。


 


 


黒髪切りの巨大な腕が振り回された。


 


 


ナチカは低く身を沈め、


鎌で足を斬りつける。


 


 


ギィン!


 


 


しかし刃が止まる。


 


 


ナチカ

「……」


 


 


黒髪切りが笑った。


 


 


「無駄だ!」


 


「俺の脂肪は硬いぞぉ!」


 


 


巨大な拳が振り下ろされる。


 


 


ナチカは後ろへ飛び退いた。


 


 


亜由

「ナチカ!」


 


「大丈夫!?」


 


 


ナチカは短く答える。


 


 


「……図体がデカい分」


 


「脂肪で刃が通らない」


 


 


そのときだった。


 


 


静かな声が聞こえた。


 


 


「だったら」


 


「私の力を使おう」


 


 


ナチカ

「!」


 


 


亜由

「あなたは……」


 


 


そこに立っていたのは、


一人の女性だった。


 


長い髪を後ろで結び、


手には二つの鋏を持っている。


 


 


女性は軽く笑った。


 


 


「私はキリシマ」


 


 


鋏を軽く鳴らす。


 


 


「髪切りっていう妖怪で散髪屋だよ」


 


 


亜由は首をかしげる。


 


 


「散髪屋?」


 


 


キリシマは説明した。


 


 


「あぁ、散髪屋ってのは」


 


「髪を切って綺麗にしたりする仕事だよ」


 


 


そして黒髪切りを見る。


 


 


「さて、黒髪切り」


 


「久しぶりだね」


 


 


少し懐かしそうに言う。


 


 


「未来……江戸の夜以来かな?」


 


 


黒髪切りは目を細めた。


 


 


「お前は……髪切りか?」


 


 


鼻で笑う。


 


 


「フンッ」


 


「その姿……ずいぶん人間に近づいたな」


 


 


キリシマは肩をすくめた。


 


 


「そうだね」


 


 


「私は人型化したからね」


 


 


亜由

「人型化?」


 


 


ナチカが答える。


 


 


「妖怪が人間の姿になる現象」


 


 


「生まれたときから人型化してる者」


 


「生まれてから時間が経って人型化する者がいる」


 


 


黒髪切りは腕を広げた。


 


 


「まぁいい!」


 


 


「俺と来い!」


 


 


狂った目で叫ぶ。


 


 


「一緒に髪を切り尽くしてやろう!」


 


 


キリシマは静かに首を振った。


 


 


「残念だけど」


 


 


「私は改心したんだ」


 


 


「もうやらないよ」


 


 


黒髪切りの表情が歪む。


 


 


「何だと?」


 


 


怒りの声が夜に響く。


 


 


「貴様!!」


 


「それでも妖怪か!!!」


 


 


地面を踏み鳴らす。


 


 


「妖怪とは!」


 


「人間を怖がらせ襲うものだ!」


 


 


唾を飛ばして叫ぶ。


 


 


「人間と馴れ合うなど!」


 


「言語道断!!」


 


 


キリシマは少し寂しそうに笑った。


 


 


「そうかい」


 


 


鋏を構える。


 


 


「君とは」


 


 


「わかり合えないようだ」


 


 


鋏が鳴る。


 


 


チョキチョキ


 


 


「さて、黒髪切り」


 


 


「散髪の時間だよ」


 


 


黒髪切りが咆哮した。


 


 


「やれるものならやってみろ!!!」


 


「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 


 


巨大な体が突進する。


 


 


しかし――


 


 


キリシマは動かない。


 


 


そして次の瞬間、


 


 


姿が消えた。


 


 


黒髪切り

「ッ!?」


 


 


キリシマはすでに懐に潜り込んでいた。


 


 


「……やっぱり」


 


 


「君は足が遅いね」


 


 


黒髪切りの目が見開く。


 


 


キリシマは小さく呟いた。


 


 


「さよなら」


 


 


「友よ」


 


 


鋏が光る。


 


 


チョキチョキチョキン!!!


 


 


黒髪切り

「ぅ……」


 


「ぉ……」


 


「ぉぉ……」


 


 


巨大な体が揺れた。


 


 


そして――


 


 


ドサッ。


 


 


黒髪切りの巨体は崩れ落ち、


 


ゆっくりと黒い霧になって消えていった。


 


 


静寂が戻る。


 


 


ナチカがキリシマを見る。


 


 


「……良かったの?」


 


 


キリシマは少し目を伏せた。


 


 


「……」


 


 


そして小さく言った。


 


 


「やっぱり」


 


 


「友を失うのはこたえるよ」


 


 


そのまま背を向ける。


 


 


何も言わず、


 


夜の通りへ歩いていった。


 


 


亜由

「……」


 


 


ナチカが振り向く。


 


 


「……亜由」


 


「無事?」


 


 


亜由は慌てて頷いた。


 


 


「は、はい!」


 


 


ナチカは袋を差し出す。


 


 


「これ」


 


 


「団子」


 


 


亜由は少し驚いてから受け取った。


 


 


「あ……」


 


 


「ありがとうございます」


 


 


団子の甘い匂いが、


 


静かな夜の村に広がっていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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