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プロローグ

 説明するほど読まれてもいませんでしたが、今作は以前、同じ名前で投稿したものの完成度の低さに恥ずかしくなってしまいアカウントごと削除した作品になります。


 この第一章の部分だけは気に入っていたので、ネトコンの為に再び投稿させていただきました。

 続きをどうするかはまた考えます...。

 物語の主人公は、空港内にあるハンバーガーショップにいた。


 注文口にできた列の最後尾。国際線付近ということもあって、目の前に大きなバックパックを背負った男性の他、店内は多国籍の人々で賑わっている。

 その中で独り学生服を身にまとう彼は、周囲から若干浮いているように見えた。


 背がやや高いことを除けば標準的な体型。こだわりなんかはなさそうなさっぱりとした黒髪ではあるが、容姿は妙に垢抜けていて大人びた雰囲気を醸し出している。

 それでもその校章以外に独自性のないブレザー姿を見れば、誰しもが彼を男子高校生として認識するだろう。


 列が進む中、彼は右手のメモ用紙を改めて確認する。

 そこには彼の行動を指示する内容が、知らない筆跡で事細かに記されていた。

 観光客に混ざってハンバーガーショップに居るのも、制服を着用しているのもメモの指示に従っているにすぎない。


 制服と学生鞄は、事前に彼の元へと送られてきた。いかにも急ごしらえという様相で、上も下もサイズが微妙に小さい。


ーー向こうに着けば、交換してもらえるだろうか。


 そのとき、背後から肩を叩かれた。

 振り返ると、眼鏡をかけた黒人男性が興奮した様子で大きなカメラを構えている。

 どうやらこの男性にとっては、男子高校生というキャラクターの希少価値が高いらしい。

 断る隙も与えない男性の勢いに負け、彼は控えめなピースで撮影に応じた。


 そうしている内に気がつけば、注文の順番が回ってきていた。カウンターの向こうで作り笑顔の女性店員が、待ち構えている。

 彼は慌てて駆け寄った。


「いらっしゃいませ!」

「えっと、注文良いですか?」

「はい、どうぞ」


 自らのやりとりに若干のぎこちなさを感じながら、彼は再びメモに目を通す。


「ビッグバーガーセット二つ、BLTサンドの単品三つで一つはトマト抜き。それとフライドポテトのSサイズとMサイズを一つずつ」

「以上でよろしかったですか?」

「あとストロベリーシェイク、Sサイズもお願いします」


 自分で言っててもごちゃごちゃとした注文だが、女性店員は素早い手つきでレジスターを操作している。


「セットのドリンクは、いかがなさいますか?」


 念には念をと、最後にもう一度メモを確認した。


「二つともジンジャーエールの氷多めでお願いします」

「かしこまりました。それではこちらの番号札をお持ちになってお待ちください」


 黄色い番号札を受け取りながら、感心する。

 終始絶やさぬ笑顔に、深いお辞儀。

 

ーー日本人は働き者ばかりだとあの人に聞かされていたがここまでとは。


 彼は呆気にとられながら列を離れた。


 しかし、ここまでの行動に一体何の意味があったのだろう。

 改めて確認するが、メモには『ジンジャーエール(氷多め)』以降、何も書かれていない。


ーー大食漢の案内役でも迎えに来るのだろうか。


 疑問に思いながら彼はメモをブレザーのポケットに突っ込む。


 そして気づく(、、、、、、)


ーーそういえば、会計は・・・・・・?


 刹那、彼の視界がぐらりと揺れた。


 平衡感覚を忘れ、自分が立っているのかもわからなくなりながら微かに手に持った番号札を視界に捉えた。


 その一瞬で彼は理解する。


 彼が店員から受け取った黄色いそれは番号札ではなかった。

 記されているのは客を分類する番号ではなく、魔法式。それもかなり高度な魔法を扱うものである。

 おそらくこの札自体が膨大な魔力の込められた魔具まぐの一種であり、魔法を引き出している。


ーー転移魔法がスクールバス代わりというわけか。


 まるで宇宙空間にでも投げ出されたような暗闇の中で、彼は微笑む。

 予想外で想像以上の幕開けに、珍しく彼は子供みたいに期待に胸を膨らませた。






 突如男子高校生が消失した事象を認識したのは、例の黒人男性を含めて店内に六人居た。しかし、多少驚いた者はいれど、その六人全員が数秒後には自らの日常に戻ってゆく。


 事実、レジに一番近いテーブルで朝食を取っていたスーツの男性は、マフィンにかぶりつきながら胸の中でこう呟いていた。


「ああ、魔女の仕業か(、、、、、、)」と。

 

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