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こちらも観て欲しいです!「天才(馬鹿)とサンタは紙一重」


 ショッピングモールのトイレでの一件は、激しい呪いの気配を残しつつも、なんとか収束した。白夜とヒロトが“本の中”から無事に戻ったあと、混乱するショウタも含めて三人は呆然とその場に立ち尽くす。

 しかし次の瞬間、トイレの入り口付近で物々しい気配が湧き起こった。背後から人影がすばやく忍び寄る。黒い防護服に身を包んだ数名の隊員が、無言でトイレへ突入してきた。



 「一条白夜、碓氷ヒロト、そして……花巻ショウタか。全員、無事だな?」



 先頭に立って声をかけてきたのは、葬書隊(そうしょたい)の隊長・鷹村(たかむら)だ。手を挙げて合図すると、部下たちはすぐにトイレを封鎖し、外の客や警備員へ向けて速やかに“情報統制”を行う。

 あまりにも鮮やかな段取りに、ショウタは言葉を失うしかなかった。なんだ、この大がかりな対応は――と目を見開いている。



 「鷹村隊長……どうしてここに?」



 白夜が尋ねると、鷹村は短く息を吐きながら答える。



 「先ほど“異常な呪い反応”を感知した。お前たちが揉み消すには大きすぎる規模だったから、我々が動いたんだ。幸い、被害は最小限で済んだようで何よりだ」



 ショウタが眉をひそめながら、そっと白夜の袖を引く。



 「おい、白夜……こいつら、一体何者だ? なんでお前の名前知ってるんだよ?」



 しかし白夜は申し訳なさそうに視線を伏せて、「後で話すよ」と低い声で答えるだけだ。鷹村が一瞥してきたシャープな眼光は、ショウタをすくませるほど鋭かった。


 さらに、漆黒のコートを纏った女性がトイレに入ってくる。鬼更木(きさらぎ)アルカ教官だ。彼女はトイレ内の呪いの残滓(ざんし)を睨むと、鼻で息をつきながら「随分と面倒なことになったわね」と小さく呟く。



---



 葬書隊は迅速にモールの関係者へ「ガス漏れの疑いがあったため緊急点検を行った」という名目を作り、トイレ周辺を封鎖してしまった。一般人には余計な噂が広まらないよう、厳重に情報操作を進める。

 ショウタは目の前で繰り広げられる“大人の対応”にただ混乱するばかり。ヒロトはまだ呆然と地面を見つめているが、彼の体からは既に強い呪いの気配は感じられなくなっていた。


 鷹村は白夜に向き直ると、簡単に状況を確認するように言う。



 「ヒロトが“グール”として暴走しかけたが、お前が食い止めた――で、間違いないな?」



 「はい、なんとか……」



 白夜は苦しげにうなずく。ショウタにしてみれば「グール」という単語が出てきた時点で、訳がわからない話だった。



 「すまないが、三人とも葬書隊の拠点へ来てもらう。ヒロトについては検査と手続きが必要だし、花巻ショウタ――君には今回の出来事を秘密にしてもらうため、事情を説明する必要がある」



 鷹村の言葉に、ショウタは一気に緊張で喉が詰まる。



 「な、なんだそれ……白夜、どういうことだよ?」



 白夜は一度ショウタを見て、申し訳なさげに口を開く。



 「とにかく、一緒に来てくれ。ここで話しても上手く説明できないし、混乱するだけだ。信じてほしい……」


 そんな頼み方をされたら、ショウタには断る理由も余裕もない。やがて、ショウタは大きく息を吐いて「分かった……」としぶしぶ頷いた。

 こうして、白夜、ヒロト、ショウタの三人は葬書隊の隊員らとともにショッピングモールを後にした。



---



 葬書隊の拠点へ到着した三人。そこは人目を避けるように建てられた施設で、中央書禁管理局(ちゅうおうしょきんかんりきょく)と呼ばれるエリアの一角にある。

 案内された部屋には簡易のベッドや椅子が並び、医療的な雰囲気もある。ヒロトはそこで検査を受けることになった。

 一方、ショウタは鷹村に連れられ、映像資料や簡単な説明を聞く。



 「政府は紙の本を危険物と定め、“グール”の存在も公にはしていない。だから、君が見たことは絶対に外部に漏らさないでもらいたい」



 「そ、そうか……分かったよ。けど、白夜がお前らの仲間って……どういう……」



 ショウタが言い終える前に、別の部屋からヒロトと白夜が戻ってきた。ヒロトはどこか気まずそうな表情を浮かべて、ショウタを見つめる。



 「お前……まさか、葬書隊ってやつだったのか? 白夜も……?」



 ヒロトの視線は友人ふたりを行ったり来たりする。



 「ごめん、ヒロト……実は俺、ちょっと前から……訓練を受けてたんだ」



 白夜は頭をかきながら苦笑いし、ヒロトが目を見開いたところで鷹村が話を繋ぐ。



 「お前自身も“グール”の力を持っている以上、今後は葬書隊の監視下に置かれることになる。悪いが、暴走の危険性がある限り、普通の生活には戻れない。もっとも、危険を管理しながら日常を送るやり方はあるがな」



 そう言って彼はファイルを差し出す。それは、ヒロトに“葬書隊”としての特殊訓練と監視への参加を求めるものだった。



 「このまま放っておけば、またいつ暴走するか分からない。君も分かっているだろう?」



 ヒロトは下を向いたまま、しばらく黙り込んでいた。しかし、どこか決意を固めたように顔を上げ、ファイルにサインをする。



 「……俺……やるよ。父さんには迷惑をかけたくないし、あんな暴走は二度としたくないから」



 白夜はそんなヒロトを横目で見つめながら、小さく頷いていた。同じ“グール”として――その気持ちは痛いほど分かるのだろう。



---



 ショウタは、何とか状況を飲みこもうと必死だった。仲の良い友人がグールだった上、危険な力を持った“葬書隊”という組織に所属することになる。しかも白夜まで……。



 「白夜、お前……そんなヤバいことしてたのかよ。どういう神経してんだ……?」



 呆れとも驚きともつかない笑みを浮かべて問いかけるショウタに、白夜は肩をすくめて苦笑いする。



 「ホントに悪い。隠すつもりはなかったんだけど……言い出すタイミングがなくてさ」



 「はぁ、そうかよ……でも、ヒロトが助かったのは確かだし、それに、なんだろうな……ありがとう、というか、複雑だわ」



 ショウタの胸中はまだ整理しきれない。だが、ヒロトが命の危険を脱し、白夜がそれを救った事実は嬉しく、誇らしい。

 一方、ヒロトも小さく息を吐く。



 「ごめん、ショウタ。俺も、こんな形で迷惑かけることになるなんて……」



 「ま、いいさ。友達なんだから、気にすんなよ。俺にできることあったら言えよ。ただ、このことは誰にも言っちゃいけないんだって?」



 ショウタが鷹村の方を見ると、隊長は無言で頷いた。



 「政府の方針で情報統制している以上、外部に漏らすことは厳禁だ。頼むぞ」



 ショウタが「了解」と気をつけるように敬礼すると、鷹村はわずかに口元を緩めた。



---



 こうしてヒロトは“葬書隊”の一員として正式に登録され、白夜の後輩という形で訓練を開始することが決まった。ショウタは一般人として日常を送るが、彼が見た事実は固く口外禁止。

 すべての手続きが終わって、三人はようやく帰宅することになった。建物の外へ出ると、夜風がひんやりと肌を撫でていく。

 ショウタが小さく伸びをしながら言う。



 「なんか、一日で人生変わった気分だぜ……とりあえず、俺は頭を冷やして寝る。お前らも気をつけろよ」



 ヒロトは弱々しい笑みを浮かべて応じる。



 「うん、色々と心配かけたな……ごめん、それとありがとう」



 白夜はショウタとヒロトを交互に見やりながら言葉を探す。



 「俺も……二人を巻き込んでごめん。でも、ヒロトがちゃんと自分の力を制御できるようになるまで、俺も葬書隊の一員として支えるからさ」



 ヒロトは照れ隠しのように眉を寄せ、小さく頷く。



 「白夜……これからよろしく。俺、まだ複雑だけど、母さんのことも含めて前へ進んでみるよ」



 三人はそれぞれの思いを胸に、改めて顔を見合わせる。奇妙な縁で結ばれた“普通の高校生”たちと“葬書隊”。

 ショウタは沈黙を破るように大きく息をついて、努めて明るい声を出した。



 「よし! まずは試験も終わったし、明日はみんなで昼飯でも行こう。いつも通り、学校帰りにさ」



 白夜とヒロトが互いに顔を見合わせ、微かに笑う。互いに、今まで通りの高校生活を送れるのかどうか、少し不安は残るが――それでも、一歩ずつ進むしかないのだ。



 「そうだな。頑張ろう……これからも、三人で」



 こうして、激動の一日は幕を下ろした。

 だが、葬書隊の一員となったヒロトが、どんな運命をたどるのかは、まだ誰も知らない。

 白夜にとっても、ショウタにとっても、本当の試練はここから始まるのかもしれない――。



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