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プロローグ

世界から「本」が消えてから、どれほどの時が経っただろう。


時は西暦5067年、電子書籍のみが許され、紙の本は危険物として取り締まられる時代。

だが、その理由を本当の意味で知る者は少ない。

ただの環境保護、ただの効率化――そう信じさせられている人々の背後で、深い闇が蠢いている。


実物の本には力が宿る。

物語に込められた「思い」が形となり、読み手の中で生き始める。

そして、その力を自在に操る者――人間とは見分けがつかないが、本を所有することで特殊な力を得る「グール」と呼ばれる存在が、密かに世界の均衡を揺るがしてきた。

彼らの中には禁断の衝動に駆られ、紙に物語を刻む者がいる。その行為がもたらすのは、圧倒的な破壊力を持つ呪いだった。

「本」に込められた思いが呪いとなって猛威を振るい、災害として人を襲うのだ。



呪いの本が引き起こした数々の惨劇は、政府をして紙の書籍を全面的に禁止させるに至らしめた。そしてグール狩りが密かに行われた。

一般の人間は凶悪犯罪者とだけ伝えられ、指名手配される。世界は「安全」で「秩序だった」ものへと変わった――かに見えた。



---


高校帰りの夕暮れ、主人公の一条白夜(いちじょう びゃくや) は日課となっている日記を綴っていた。

古びたノートにペンを走らせる行為には、不思議な安心感があった。

学校での些細な出来事、友人との会話、胸の中に生まれる言葉にならない感情。それらを文字にすることで、自分が自分でいられる気がしたのだ。


だが、その日記が異変を見せたのは、初めてのことだった。


書き終えたページから微かに黒い靄が立ち昇り、遥の指先に冷たい痺れが走る。

ノートの表紙に触れると、不快なほどの熱が手に伝わる。

驚いてページをめくると、そこに記されている文字が、まるで血のように赤黒く変色していた。



「――なんだ、これ……」



白夜は背筋に走る恐怖を押し殺しながら、ノートを閉じようとする。しかし、その瞬間、彼の中に強烈な感覚が押し寄せた。 


目に映る世界がぐにゃりと歪み、耳元で囁く声が聞こえる。



「気づいたか?」



思わずノートを床に落とし、息を荒げる白夜。だが、その声はもう白夜の中に響いていた。



「お前はグールだ――書く者としての血が目覚めたのだ」



その声を聞いた直後、白夜は気絶するように寝る。翌朝、悪夢と認識したまま彼はいた。



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