弟
「ん?」
「……柏木くんは?」
真凛は横になった姿勢から起き上がろうとする。匠はとっさに体を支える。
「今、手術中だよ」
「私も、行く」
「……大丈夫? 動ける?」
「うん、行きたい!」
真凜はベッドから出ると廊下へ移動し、手術室の方へ向かった。真凛が匠と歩いていると、手術室の前の長椅子に座っている恵美がいた。
「恵美さん……」
「あ、真凜ちゃん」
恵美の顔はいつものように明るい笑顔ではなく、顔面蒼白だった。真凜は恵美の隣に座る。
「恵美さんがどうしてここに?」
「私の弟だから」
「え? 柏木くんのお姉さんなの?」
「うん」
「真凜ちゃんのこと庇ったんだって?」
「はい、ごめんなさい、私の変わりに柏木くんが……」
「ううん。むしろストーカーに刺されそうになった真凜ちゃんを助けようとしたんだから、弟ながら誇りに思うよ。好きな子のことを助けなかったらそれこそどうかと思うし……」
「恵美さん……」
「だけどさ、目の前に飛び出すとか後先考えなさすぎ! 真凜ちゃん助けて死んだら意味ないじゃん!」
「恵美……」
「あ、ごめん」
匠の言葉に恵美は真凛に謝る。真凜は今にも泣きそうな顔をしていた。
――やっとこの人生で再会出来たのに……! 柏木くんが助かるなら、生きて幸せでいてくれたら、もう何も望まない!
真凜はそう願っていた。
「大丈夫だよ。今、真くんは頑張ってる。絶対に助かるから」
「……うん」
恵美は真凜の手をそっと握る。
「信じよう、真は絶対助かる」
「恵美さん……うん、信じる」
それから数時間が経過し、手術室から人が出たり入ったりしている。やがて医師が姿を現した。
「柏木さんのご家族の方は?」
「私です」
恵美は椅子から立ち上がり医師に近づく。
「手術は成功しましたよ。しばらくすれば麻酔も切れるので、目を覚ますでしょう」
「ありがとうございます!」
恵美は医師に頭をしっかりと下げた。
「ありがとうございます」
続いて真凜と匠もお礼を告げると、医師は軽く会釈をした。
* * *
真は夢の中にいた。前にも来た何もない空間。遠くで真凜や姉の声が聞こえる。
『真』
――え?
『真、僕だよ、エドワーズ』
「あ」
声のする方を見ると金髪碧眼の男性が浮いていた。
『真、ありがとう。君達のお陰で僕達は不幸にならずにすんだ』
「いいえ、あのような結末で良かったのですか?」
『ああ、充分だよ。それにあの後に続きがあるんだ』
「え? 続き?」
『そう。それは今は言えないけれどね』
『真。君は今生死の狭間にいる。君は僕達が出来なかったことを成し遂げてほしい』
「エドワーズ様達が出来なかったこと?」
『そう。真凜と添い遂げてほしいんだ』
「え? 添い遂げる?」
真は思わぬ言葉に動揺してしまう。




