彼氏
「え?」
名前を呼ばれた方を見ると、野球のユニホームに身を包んだ男の子が立っていた。
「……駿くん。おはよう」
「おはよう! 帰りさ、部活終わったら寄り道しない?」
短髪がよく似合う、屈託のない笑顔を真凛に向け、日に焼けた肌が野球部少年らしい。
駿は真凛の彼氏で告白されて付き合っている。でも、正直好きなのか分からない。
――好きってどんな感じなのかな?
「うん、良いよ」
何となく流されてしまう。告白されたあの時も――。
* * *
1ヶ月前のこと。昼休み、真凛は別のクラスの男子に呼び出されていた。人気のない屋上。立ち入り禁止のはずじゃ?なんて頭をよぎりながらもその場にいた。
「桜木 真凛さん。俺は、大田 駿って言います!これ、読んで下さい!」
日に焼けた肌と短髪が特徴的な駿が、両手で掴み差し出して来たのは、手紙だった。
「手紙?」
「お願いします!」
それだけ言うと彼は一目散に走り去って行った。
家へ帰り封を開けて見るとラブレターで、シンプルに“好きです、付き合って下さい”とだけ、書いてあった。困った真凛は数日して駿を呼び出し、断ろうとしていた。
真凛はお昼休みに駿くんを呼び出した。
「ごめんね、突然」
「いや……良いよ」
少しの間沈黙が流れてしまう。
――話辛い……。でも、言わなきゃ!
「あの!」
「はい!」
緊張して大きな声を出してしまうと、駿もまた身構えたように固くなった。
「……手紙の返事……」
「う、うん」
「考えたけど……ごめんなさい!」
真凛は駿に精一杯頭を下げる。
「……やっぱり……」
「え?」
真凛が駿を見ると、困ったように微笑んでいた。
「そうじゃないかと思ってた。……でもさ、俺達何も知らないじゃん?」
「え? うん」
「だから……友達からで良いからさ。前向きに考えてほしいんだ」
真凛は断る理由が見当たらなくて、駿の提案を受け入れることにした。
「うん、分かった」
真凛がそう言うと、駿は弾けるような笑顔を真凛に見せる。
「マジで?! ありがとう、桜木さん!」
「あ、うん」
「これからよろしく!」
「うん……よろしくね」
そんな感じで真凛達は付き合うことになった。それが高校1年の秋、今から1ヶ月前のこと。