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愛しい人

 マリアが帰ると厨房から奥さんが出てきた。

「今の娘が大事な()なのかい?」


 エドワーズはサンドウィッチを、頬張りながら奥さんの用意してくれた紅茶を飲む。


「ええ。彼女が僕の愛しい人です」


 エドワーズは無意識なのかとても優しい瞳をしている。


「全く……デレデレだね。……良い娘みたいじゃないか?」


「はい、凄く素敵な女性です」


「気をつけなよ」


 思いがけない言葉にエドワーズは驚く。


「何をですか?」


「あんた、女性にモテそうだからね。あの娘が妬まれないように。女の嫉妬は怖いからね。しっかり守りなよ?」


 サンドウィッチを食べ終えたエドワーズは、しっかりと返事をした。


「マリアは僕が守ります。だから大丈夫です」


「そうかい? なら大丈夫かね?」


「はい」




* * *




 1週間後。エドワーズはすっかり仕事を覚えていた。ご婦人方もエドワーズのファンになったようだ。しかし、中には熱烈なファンもいて帰りに待ち伏せをするようなご婦人もいた。


「エドワーズさん!」


 マリアが来たのかと思ったエドワーズは御婦人を見た瞬間、瞳から光が消え失せた。

 一般的には金髪でブルーの瞳の美人なのかもしれないが、エドワーズには霞んで見えた。


「……こんばんは」


「こんばんは、ねぇ? これから食事に行かない?」


 御婦人はエドワーズの腕に自分の腕を絡めた。流石に不快に思ったエドワーズは、努めて冷静に対応した。


「申し訳ありません。家で愛する女性が待っているので」


「愛する女性?」


「ええ、婚約者です」


 婚約者。これは噓ではあるものの、エドワーズはいつかそうなれたら……と望んでいた。


「……どんな女性なの?」


 御婦人の瞳には嫉妬の炎が燃え始める。


「素晴らしい女性です。僕にはもったいないほどの」


「……そう」



* * * 


 マリアはエドワーズの為に今日もサンドウィッチを持って来ていた。人がいなくなるのを見計らっていると、あの御婦人が現れた。


「ちょっと、貴女」


 妙に棘のある声でマリアを呼び止める。


「私……ですか?」


「ええ、そうよ」


「……貴女がエドワーズさんの婚約者?」


「え?」


「……エドワーズさんが言っていたのよ。家に愛する女性がいるって。婚約者だって」


 御婦人はマリアを睨むように見ながら話をした。


「あの、私は……」

 マリアは御婦人もエドワーズが好きなんだと悟ったものの、どうしたら良いのか分からない。


「……その包みは何?」


「え? これはその……」


「まさか、エドワーさんへの差し入れ?」


「……はい」


「良いわね、婚約者って」


 店の目の前で話していた2人は揉めてるように見えたのか、中からエドワーズが出てきた。


「マリア!」


 マリアの元へ駆け寄ると、エドワーズはマリアの目の前に庇うように立ちはだかった。


「エドワーズさん……」


「困っているように見えたから……大丈夫? マリア」


 後ろを振り向きながらマリアに優しい言葉をかけてくる。


「ええ……」


 大丈夫なのを確認すると、エドワーズは御婦人に向かって毅然(きぜん)とした態度を見せた。


「《《お客様》》、いつも当店をご利用頂きありがとうございます。《《お客様》》。僕のマリアが何か気に障ることを致しましたでしょうか? もしそのようなことがあれば、お詫び致します」


 エドワーズは紳士的に深々とお辞儀をして見せた。その姿に御婦人はエドワーズの態度に罪の意識を感じたのか戦意を失ったようだ。


「いえ。私はただ……貴方のファンで……」

 それだけ言うと口をつぐんでしまう。



 それだけ言うと女性はエドワーズに背を向け、去って行った。

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