2人の朝
昨晩は夜中に着いた為、マリアとエドワーズはそれぞれ別々の部屋へ行き、すぐに眠りに付いた。
マリアは明け方に目を覚ますとキッチンへ向かい、現代とは違う使用に戸惑いながらも何とか料理をしようとした。
「おはようございます」
不意に後ろから声が聞こえ振り向くとエドワーズが眠そうなまぶたを瞬かせながら、微笑みながら立っていた。
「エドワーズ様……おはようございます。お早いんですね」
「ああ……やはりあまり眠れなかったよ」
「大丈夫ですか?」
「ああ……大丈夫」
ふと見つめ合うものの何となく気恥ずかしくなり、目をそらしてしまう。
「朝食を作ろうと思ったのですが……ジャクソンさんが色々買い揃えてくださったようで……」
卵やお肉、魚や野菜。庶民にはなかなか手に入りにくい物まで揃えられている。
「ああ、ジャクソンは出来る男だからね」
ジャクソンの話をするとエドワーズは顔をほころばせ、嬉しそうになる。
「ジャクソンさんと仲がよろしいのですね?」
「そうだね。長い付き合いだからね」
「素敵ですね。エドワーズ様、何か食べられない物はありますか?」
「そうだね……特に好き嫌いはないよ」
「分かりました。それでは質素ですが、パンと卵と、サラダとフルーツにしましょう」
「パンは近所のパン屋さんで焼いてもらって下さいと、ジャクソンさんに教わりました」
「僕が行くよ」
「え? ですが……」
驚くマリアにエドワーズは優しく微笑む。
「マリアさん、これからは2人で暮らすんだよ。2人で協力して行こう? 僕が出来ることはするし、王子としてではなく、1人の男として君の傍にいたいんだ」
「……分かりました。私も令嬢ではなく、1人の女性としてエドワーズ様のお傍にいたいです」
「そうと決まれば、まずは……その様付けをやめようか?」
「え……」
「様付けをしていたら、聞いた人が何かと思うよ?」
「そうですね……それでしたら、エドワーズさん? でしょうか?」
「良いよ」
エドワーズは笑顔で答えると、マリアに提案した。
「君のことはマリアと呼んでも良いかな?」
マリアと呼ばれた瞬間、心臓が大きく脈打ち、真凛はマリアそのものになった気がした。
――どうしよう……このままここにいたら、真凛だって忘れそう……。
「マリアさん?」
返事を忘れているマリアにエドワーズは尋ねる?
「あ、ごめんなさい。マリアと呼んで下さい」
マリアはエドワーズに微笑みながら告げた。
「ありがとう。それでは、パン屋へ行ってくるよ」
「はい。行ってらっしゃい」
「行ってきます」