逢引き
屋敷を抜け出したマリアは、エドワーズの元へ向かった。城へ着くものの中へは入れない。
どうしたものかと城門の近くで考えていると、エドワーズに遭遇した。考えてることは同じだった。
「マリアさん!」
「エドワーズ様!」
暗がりの中2人は駆け寄り抱きしめあった。
「マリアさん……どうしてここへ?」
「エドワーズ様にお会いしたくて……」
優しい瞳で微笑むエドワーズはマリアの頭を優しく撫でた。
「僕も会いたかった。しかし、このような夜更けに一人で出歩くのは危ないよ?」
「大丈夫です。騎士が付いてますから」
「そうなのか?……実は君を迎えに行こうと思ってた。裏に馬車を待たせてる。少し移動するけどかまわないかい?」
「ええ、かまいません」
馬車に乗り込みエドワーズとマリアはヒソヒソ話し始める。
「国王に話したんだ。君とのことを」
「ええ……」
暗がりの中、ほのかな灯りを便りに見えるエドワーズは、視線を落とし口をつぐんでしまう。
エドワーズにマリアは悲しげな瞳を向けた。
「エドワーズ様? 反対されたのですか?」
「ああ……認めて貰えないのなら王家を捨てるとまで言ったんだけどね……」
「それは、いけません!」
「マリアさん?」
「この国の王子が一人の女性の為に国を捨てるなんて……」
その瞳には悲しさ、やるせなさ、嬉しい気持ちと複雑な気持ちが混ざり合った涙がにじんでいた。
「マリアさん……」
エドワーズは優しく瞳ににじんだ涙をハンカチで拭き取る。
「……ありがとうございます」
「……父上が言ったんだよ。一度好きにしてみなさいって」
「え?」
エドワーズは隣に座っているマリアの手をそっと握った。
「2人で暮らそう?」
「そのようなことが出来るのですか?」
気配を消すように座っていたジャクソンに、エドワーズは声をかける。
「ジャクソン、頼んだことはどうなってる?」
「お二人のお住いはすでに手配しております」
「ありがとう」
「当面の生活は王家からの予算でまかなえます」
「いや……僕も働くよ。王家を出るんだ。頼りきりでは出たことにならないだろう?」
「しかし……」
「大丈夫だよ。やりたいんだ」
ジャクソンの心配をよそにエドワーズは乗り気だった。
2人の住む場所は2階建ての家だった。それなりにしっかりした作りで石造りで出来ている。
メイドなどはおらず、完全に2人きり。
家事はマリアがすることになる。
「こちらがこの家の鍵です。無くさないでくださいね」
ジャクソンからエドワーズは鍵を受け取る。
部屋は少なく、キッチン、広々とした食堂に、応接室もあり、寝室やトイレがある。
「こんな夜中に移動してお疲れでしょう?」
エドワーズはマリアを気遣っている。
「いえ。私は大丈夫です。エドワーズ様こそ、お疲れではありませんか?」
「僕も大丈夫。君とこうして過ごせているから嬉しくて、今日は眠れそうにないな……」
「エドワーズ様……」
2人は微笑みながら見つめ合う。
エドワーズとマリア・真と真凛はすっかりエドワーズとマリアになりきっていた。
2人は自分たちが真と真凛だと言うことを忘れかけ、前世のエドワーズとマリアとして気持ちが動き始めていた。
――エドワーズ様が気になるのは、マリアとしているから?
真凛は前世のエドワーズに惹かれる自分に戸惑っていた。