第五話 異世界からやってきた妹(自称)⑤
四月五日、十二時頃────
「お兄ちゃん?はぁい、あーんっ…。」
「あーん…。」
賎宮高校1-Aのクラスの生徒達にとって、波乱の幕開けとなった高校生活初日だったが、先生達のご尽力のお陰でどうにか乗り切る事が出来た。あの後、入学式に参列する保護者の為、駐車場として解放されていたグラウンドまで、我が家は騒動の発端となってしまった英莉菜がいることもあり、影山先生に個別でエスコートして頂き、無事に車へと乗り込み今のこの状況に至る訳だ。
因みに、教室からグラウンドまで向かう道中では、案の定言うことを聞かなかった生徒が残っており、入学早々に大石先生からイエローカードを貰う羽目になっていた。
「美味しいかなぁ…?お兄ちゃん…。」
全く…今、口に入れたばかりで喋れる訳がないだろ?可愛い顔して言ってきても、流石に無理なものは無理だ。
「はーい?健吾さん。あーん?」
「おいおい、久しぶりじゃないか?あーんっ…。」
英莉菜にでも触発されたのだろう、結以さんが健吾さんに同じことをしている。
そう言えば、今僕たちが来ているのは、自宅からはそれ程遠くない場所にある、子供の頃から通うハンバーグレストラン【び○くりドンキー】だ。ここに来る前、静岡の中でも全国的に知名度のある、炭焼きレストラン【さわ○か】の前を車で通ってみたが、やはり入学式とお昼時が重なっていることもあり、駐車場は満車で道まで車が繋がっており、いつものお店に決まった。そんな事もあり、入店するまでに少し時間が掛かってしまった。
ここに来ると、男性陣はチ○ズバーグディッシュの300gと、び○くりフライドポテトを必ず注文している。英莉菜は、結以さんの真似をして、お○しそバーグディッシュの150gを注文したようだ。因みに、席は四角いテーブルの四人席で、下座に僕と健吾さんが座り、上座に英莉菜と結以さんが座っている。健吾さん曰く、我が家の女性は上座に決まってる!!とのことだ。
異世界から来たと英莉菜は言っていたが、どんな場所だったんだろうか?僕のイメージする異世界は、未だに夢に見るあの場所だ。それにしても、お嬢様と呼ばれていた…僕の初恋のあの銀髪の女の子は、大きくなっているだろうか。高校生になった僕は、恋愛アニメを見るたびに、あの子に逢いたい気持ちが募っていっている。
「お兄ちゃん…?お兄ちゃんっ?」
「ああ、英莉菜か…。ゴメンゴメン。英莉菜がくれたハンバーグ、和風で美味しかったぞ?」
恐らく英莉菜は地球に異世界転生してきた際、これから自分の母親となる結以さんの髪の色や目の色を真似たとは思うが、顔や身体つきは全然似ていない。記憶改竄スキルとやらのお陰で、何とかなってるだけだ。
「ねぇ?英莉菜さんは、どうして暁人さんに恋人同士みたいなことするの?」
ああ、結以さん…やっぱり英莉菜の異常さに気付いちゃったか。
「だってぇ…私、お兄ちゃんのことぉ、ぜーんぶ大好きだからぁ!!」
「ああ、そうだったのね!!暁人さん、良かったじゃないの!!お年頃の妹に、そんなにも慕われてるなんて!!」
へ…?結以さん…ずっと貴女のこと天然かなって思ってはいたけれど、ガチの天然でした…。でも、これって…結以さんから英莉菜は、僕に対する恋人同士みたいな行為に…公認貰えたって事だよな?
「でしょでしょぉ?お兄ちゃんはぁ、私に想われてることぉ、光栄に思いなさいよぉ?はーい、あーんっ?」
「あーんっ…。」
まだ今朝出会ったばかりなのに、英莉菜はかなり我が家の雰囲気に馴染んできている。きっと、英莉菜なりに馴染もうと努力しているんだろうな。
それにしても、英莉菜は僕の妹(自称)なのに可愛すぎる。まぁ…血縁関係は一切ないと思うので、物理的には英莉菜を押し倒したりして…自分のモノにしてしまっても問題ない筈だ…。しかし、倫理的には戸籍上は両親の実子に改竄されている為、僕とは血縁関係にある妹ということになっており、色々と問題が生じる。
本当に、なんて面倒なことを英莉菜はしてくれたんだろうか?我が家の養女としての妹という道だって、選べたと思うのだが…。
「あ!!私、明日からぁ…お兄ちゃんと一緒にぃ…お昼食べれるんだよねぇ…?」
「ああ…そうだな。いや…でもなぁ…?英莉菜が歩くだけで、今日みたいに大騒ぎになるんじゃないか?」
こんな可愛い妹(自称)と、一緒にお昼を食べたい気持ちはある。でも、先程の英莉菜を一目見ようと集まった人だかりを思い出すとゾッとする。
それに加えて、明日の登下校どう切り抜けるかも課題の一つだ。
「じゃあ…私。お兄ちゃんと…一緒にお昼食べられないの…?」
「そんなこと言ってないだろ?僕だって、英莉菜と一緒に食べたいさ!!」
本音を言うくらいタダだし、こんな可愛い妹(自称)に嫌われたら死んだ方がマシだ。しかし、どう実現させればいいかは、未だ思い浮かばないが。
「良かったぁ…。私、お兄ちゃんにぃ…嫌われたかと思ったよぉ…。」
「さて、暁人さんと英莉菜さん?そろそろ家に帰ろっか?」
そうだった。英莉菜との話に僕が夢中になってしまったのだが、まだ僕たちは…び○くりドンキーの席だったのだ。食べかけだった、ポテトを急いで口に放り込むと席を立った。
十三時三十分───
また僕はあの日の夢を見ている。
でも今日は、いつものあの夢とは何かが違っている気がする。
いつも通りに、女の子に連れられて見知らぬ場所へやってきたのだが、隣で手を繋いでいる筈の女の子の背が大きく成長しているのだ。ここは僕の夢の中だ、だから…先程、成長しているであろう女の子に逢いたいと、僕が願ったからだろうか?
でも僕の背は幼いあの頃のままなので、女の子の長く銀色に輝く髪のせいで、下から見上げても女の子の顔を伺うことは出来なかった。
「お姉ちゃん!!」
どうしても、成長した女の子と話してみたくなった僕は、女の子にも聞こえるような大きな声で呼び掛けた。
「…ゃん。」
「お姉ちゃん!!」
すると、僕の声に反応するかのように、遠くの方で誰かが呼んでいるような声が聞こえ始めた。僕の声に反応して欲しいのは、目の前にいる女の子の方なので、聞こえてくる声に負けじと呼び掛け続けた。
「お姉ちゃん!!」
「…いちゃん?」
いくら僕が呼び掛けても、女の子は全く反応を示さなかった。すると徐々にではあったが、誰かが呼んでいるような声が、鮮明になってきていた。
更に、その声と連動するかのように、僕の身体の上へと誰かが乗っかっているような感覚がし始めた。
「お兄ちゃん?」
夢と現実の狭間にいる僕の耳に、ハッキリと聞こえてきたのは、英莉菜が僕を呼ぶ声だった。
「英莉菜?!」
慌てて夢から目を覚ました僕の目に飛び込んできたのは、ベッドに寝転ぶ僕の下半身の辺りへと腰を下ろし、グリグリと密着させている英莉菜の姿だった。
「お兄ちゃんっ…?大好きぃ…!!」
「な、何してるんだよ!?」
完全に、それぞれの制服と下着越しに、互いの大事なところ同士が重なりあっている。
「お昼食べて帰ってきたらぁ、お兄ちゃん、すぐに寝ちゃったからぁ…。私、寂しかったのぉ…!!」
そう言いながら、英莉菜は腰を前後に動かしながら、グリグリと密着させてくるのをやめようとしない。当然、僕の大事なところが、急激に大きく膨らんでいっているのが分かる。
「あ、あのさ…?英莉菜…。僕の上から…さ?もう、降りてくれないか?」
「お、お兄ちゃん…?英莉菜のことぉ…嫌いなのぉ…?」
この状態で英莉菜に乗られたまま、下半身を押し当て続けられれば、暴発してしまいかねなかったので、苦渋の選択だった。
「英莉菜のことが大事だからさ?だから、降りてくれるか?」
「はぁい!!お兄ちゃんはぁ…?凄く優しいんだねっ!!大好きだよぉ…?」
大人しく英莉菜は僕の上から降りると、僕の横に仰向けに寝転がってきたのだが、その顔は耳まで真っ赤になっていた。
もしかすると、僕は英莉菜に試されたようだ。