第四話 異世界からやってきた妹(自称)④
四月五日、十一時三十分頃────
今日は入学式と始業式があった事もあり、授業も三時限目迄の午前授業だった。三時限目は自己紹介の続きと、担任、副担任の先生による為になるお話がされたのだが、英莉菜の事が心配で心配で、終始僕の心ここに在らずだった。
入学式が終わった一年生は、教室へと戻り保護者の参観のもとで、担任、副担任の先生による為になるお話がされて、今日は解散だった筈だ。
実は、この後英莉菜と両親と一緒に、昼食をお店に食べにいく話になっていた。その為、帰りの挨拶が終わると、僕は二年の教室がある三階の階段を上り、急いで一年の教室がある四階へと向かっているところだった。
「マジで可愛いよなー。1-Aの藤邑って子。」
「あんな可愛い子、本当に存在するのか!?」
階段を上っている中で、下ってくる一年生とすれ違った際、そんな会話を耳にした。この時、僕は初めて英莉菜が1-Aだと知った。
一応、賎宮高校は公立の進学校で、クラスはX、S、A、B、C、Dの六つに別れており、学力レベルは左から右へと下がっていく。簡単に説明すると、Xはメ○サ会員が複数在籍する異次元レベル、Sは難関大学現役合格狙えるレベル、Aは学校推薦狙えるレベルだ。因みに…僕はと言えば、1-Bから2-Aだったので…本来なら喜んで良いかもしれない。
どんなチートを使って、英莉菜が入学出来たのかは知る余地もないが、そこそこ勉強はできると思って良いのだろうか?
ふと階段を上っていて気付いたのだが、やけに階段を下りてくる一年生が少ないのだ。息を切らせながらようやく階段を上り終えると、一年の教室の中で一箇所だけ、異様な程の人だかりが出来ていた。
その教室のクラス名プレートを見ると“1-A”と書かれている。僕の恐れていた事が現実となってしまったようだ。
──ドンドンドンドン!!
「藤邑さんって子、どこ!?見えないんだけど!!」
「藤邑さーん!!付き合ってー!!」
「おーい!!藤邑さーん!!」
──ドンドンドンドン!!
「開けてー!!」
状況から想像するに、英莉菜の姿をひと目見ようと、先にLHRが終わった他のクラスの生徒達が、1-Aまで詰めかけたようだ。防犯上、授業中は教室の引き戸に鍵を掛けておく規則の為、最悪の事態は魔逃れたようだ。外から引き戸を叩いている生徒が居るのがその証拠だ。
「はいはい、そこまで!!1-Aじゃない生徒は、早く帰宅しなさい!!みなさん、初日からイエローカード貰いたいんですか?」
1-Aの教室の中から、在学中に聞いたことのない凛とした声が周囲に響き渡った。
流石にイエローカードという言葉を聞いてか、1-Aの入り口を取り囲んでいた一年生達は、蜘蛛の子を散らすようにゾロゾロ帰り始めた。
「おいっ!!そこの一年生達!!1-Aの教室の前で何やってるんだ!!昇降口で親御さんが待ってたぞ!!とっとと帰れ!!」
生活指導の大石先生の大きな声が、僕が上がってきた1-Sの教室付近の階段とは別の、1-Cの教室付近にある階段の方から聞こえてきた。
その声で一気に一年生達が慌てふためく間を縫って、僕は1-Aの教室の方へと歩みを進め始めた。
「お…っ…!!なんだ…藤邑じゃないか。藤邑も騒ぎを聞いて、状況確認しに来たのか?」
「はい!!今日の授業が終わった筈なのに、一年生の下ってくる数が、少な過ぎるなと思いまして。」
そんな時、大石先生も前方から一年生達に声を掛けながら歩いてきており、目が合った瞬間怒られるかと思ったが、自分が風紀委員だった事をすっかり忘れていた。生活指導担当の大石先生は当然の事だが、風紀委員会の顧問でもあるので、本当は英莉菜を迎えにきただけの僕は、運良く難を逃れられた。
「全く、藤邑は風紀委員の鑑だな。」
おまけに、大石先生からの株を上げる結果となった。
──ガチンッ…!!
──ガラッ…!!
急に教室の引き戸の鍵が解除される音がすると、引き戸が開いた。すると、これまたアニメの世界から抜け出してきたような、長身のハーフ顔の美女が開いた引き戸から顔を覗かせた。
「お、大石先生…ですか?!来てくださったのですか!?」
「はいっ!!新任の1-A副担任、影山…芽莉沙先生…ですよね?着任早々、災難でしたね…。」
──ガラガラガラガラッ…!!
さっきの凛とした声の持ち主は、目の前のハーフ顔美女…もとい、影山先生と言うようだ。大石先生の顔を見て教室の中へと影山先生が引っ込むと、大石先生が引き戸を全開にして教室の中へと入って行った。
「皆さん、入学式の時に少しスピーチさせて頂いた、生徒指導の大石です。入り口に張り付いていた生徒達は、追い払っておきました。本日は、1-Aの皆さん並びに保護者の方々、大変お時間とご迷惑お掛け致しました。」
皆の前で大石先生が謝罪の言葉と共に、深々と頭を下げた。すると、多くの保護者から、『先生が謝る必要はないので明日にでも学年集会を開いて、1-A以外の生徒達に深く反省させて欲しい』との言葉を受けていた。そのどさくさに紛れ、僕は全開になった引き戸から、1-Aの教室内へと足を踏み入れた。
すると、教室の中では生徒達が窓側に寄って、誰かを匿うような人だかりが形成されていた。今日のこの出来事で生徒同士の団結力が一気に高まったように見えた。
「はいっ!!それでは1-Aの生徒の皆さん?保護者の方々?私と影山先生で、前後を見張りますので、皆んなで教室を出て下校しましょう!!」
下校するよう声を掛けたのは、去年三年の学年主任だった、女子から大変人気の男装の麗人こと高橋先生だった。恐らく今年は1-Aの担任なのだろう。
廊下では、仁王立ちの大石先生が周囲に目を光らせる中、1-Aの教室内では、廊下側の座席の生徒とその保護者から順に、高橋先生が教室の外へと案内し始めていた。
賎宮高校のクラスの座席については、四月の新学期の時やテストの際は、姓の五十音順で決められた出席番号順で、教室前方の黒板を向き前から後ろへと順に座席が置かれており、窓側から廊下までを折り返しながら並んでいる。
妹(自称)の英莉菜については、姓が藤邑の“ふ”の為、本来であれば廊下側に近い座席の筈なのだが、僕は未だに英莉菜の姿が確認できないでいた。
「おーい?英莉菜?大丈夫かー?」
「え…!?お兄ちゃんが居るのぉー?!どこどこぉ…?」
先程の窓側の人だかりの中から、英莉菜の声が聞こえてきた。
「次っ!!藤邑さん!!」
タイミングを合わせたかの如く、影山先生から英莉菜は名前を呼ばれた。いや…正しくは、両親と英莉菜が呼ばれた。なので両親と僕は、教室の入り口付近にいる影山先生のもとへと移動した。
「はぁいっ…!!皆んなぁ、ありがとう!!」
人だかりの中から英莉菜は姿を現すと、周囲のクラスメイト達に向かって頭を下げ、お礼を言った。その様子を見た両親と僕は、偉い偉いと感心していた。
「お兄ちゃああああんっ!!」
──ムギュッ…!!
すると英莉菜は急に駆け出すと、皆んなが見ている前で僕に飛び付いてきたのだ。
「ねぇ…お兄ちゃん?大好きっ!!」
「おほんっ…!!人前ですので…藤邑さんは少し場を弁えるようにして下さいね?」
影山先生の鋭い視線が何故か英莉菜ではなく、僕に向けられているように感じた。
「はぁーいっ!!気をつけまぁーすっ!!」
おいおい…。さっきから英莉菜の言葉遣いが、やけに子供じみている。
「英莉菜ちゃーん?暁人くんの事、困らせちゃダメよー?」
「結以、あれくらい平気平気!!だよなー?暁人。」
僕の両親の結以さんと健吾さんは、流石に外では名前に“さん”付けをしないように、気を付けいるみたいだ。
「藤邑さーん!!早くこっち来て下さーい!!」
教室の外で待っている高橋先生に呼ばれてしまい、僕たち四人は急いで教室を後にしたのだった。




