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異世界からやってきた妹(自称)が、僕に甘々してくる話。  作者: 茉莉鵶
第一章 異世界からやってきた戸籍上は妹(自称)編
3/21

第三話 異世界からやってきた妹(自称)③


四月五日、七時二十分頃────


 僕が通う賎宮高校までは、家から歩いて二十分程の距離だ。登校時間は八時十五分までなので、普段であれば七時三十分頃に家を出ても、充分間に合う。

 今日は英莉菜の初登校という事もあって、通学路を覚えて貰う意味も込めて、普段よりも早く家を出てきている。


 「お兄ちゃん…?今日はぁ…私の為に早く出てくれてぇ…?ありがとっ…!!」


 「あれっ…?英莉菜、あえて今日は早めに家を出たって知ってたのか?」


 「う、うんっ…!!何となくぅ…そうかなぁってぇ…?折角ぅ…お兄ちゃんとのぉ…?通学デート姿をぉ…見せびらかそうかと思ってたのにぃ…!!」


 若干だが、英莉菜が緊張しているのが、繋いでいる右手から伝わってきている。それにしても、すべすべしていて柔らかい手だ。これで握られたらあっという間だろうな。

 それはそうと、こんな可愛い妹(自称)がこの世に存在してて良いのだろうか?しかも、今日から英莉菜は僕の後輩になる訳だ。


 まぁ…あまり比べたくはないけれど、賎宮高校の在校生の中にも、英莉菜に負けず劣らずな美少女は存在する。

 僕の所属する部活の先輩で、(ダブル)杉崎と呼ばれる二人だ。どうして、W杉崎と呼ばれているかだが、地元でも有数の資産家である杉崎家の本家の夢依(ゆい)先輩と、杉崎家の分家の夢那(ゆな)先輩の二人なのだが、怖いくらいに瓜二つで、誰も見分けがつかず間違える為、W杉崎さんと呼んでいる。

 昨日までは、そのW杉崎さんの一強だった訳だけど、今日からはその一強の牙城を崩す存在に成りうるのが、僕の妹(自称)の英莉菜だ。


 「ねぇねぇ…?お兄ちゃん…?」


 「ん?どうした?」


 「もしもぉ…?私がぁ…告白されてたらぁ…?お兄ちゃんはぁ…嫌ぁ…?」


 ──ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…


 英莉菜にそう言われた瞬間、僕の胸の鼓動が高まるのを感じた。そして、英莉菜が告白されている姿が頭を過った。


 「僕は、絶対に…嫌だっ!!」


 「まぁ、私は大丈夫だから!!お兄ちゃんは安心して?だって私、お兄ちゃん以外、興奮しないから!!」


 仮に英莉菜がそうだとしても、学校内外から常に恋愛対象として狙われ続けることになるのだ。それに僕以外の人間は記憶改竄されているので、僕が英莉菜の側に居たとしても、例えば恋人と誤認される事はなく、ただ兄妹で一緒にいるだけと認識され、諦める材料としては弱いだろう。


 「そうかもしれないが、充分気をつけてくれよ?いつも僕が英莉菜の側に居れるとは限らないんだからさ?」


 ──ギュッ…


 「はぁーいっ!!お兄ちゃん、私のこと…本当に心配してくれてるんだね?!こんなに…手に汗かいちゃって…。」


 「だって、英莉菜は…僕の妹になりたくて、なったんだろ?」


 「(シーっ!!お兄ちゃん、声がおっきいよ!!)」


 思わず熱くなってしまったが、英莉菜が口元に人差し指を当てながら、小声で喋る姿を見て僕は我に返った。確かに、今の僕の発言は、不特定多数の人間が居るような場所で、軽々しく話すような内容ではなく、迂闊すぎた。


 「ゴメン…。」



七時三十分頃───


 結局、英莉菜からの返事を聞くチャンスを逃したまま、賎宮高校の正門が見える場所まで、僕たちはやってきていた。

 僕は制服のポケットからスマホを取り出し、いまが何時かを確認したが、丁度いつも家を出るくらいの時間だった。

 今日は一年生は入学式、在校生は始業式が行われる為、珍しく部活の朝練は禁止されていることもあり、ここに来るまでの道中、うちの生徒の姿は殆どと言っても良い程、見かけなかった。


 「ほら、あれがうちの高校の正門だぞ?八時過ぎるとさ?風紀委員と生活指導の先生が、両脇に立って服装とか指導してくるからな?って…おいっ!!」


 家を出た時、英莉菜は制服を気崩すことなく、清楚な雰囲気がすごく出ていて可愛らしかった。

 いつの間に、英莉菜は着崩していたのだろうか?スカートの丈がやけに短くなり、ブラウスは第一ボタンが外されてはだけ、胸元のリボンもゆるゆるだ。


 「あれっ?!お兄ちゃん…こういうの好きじゃない!?」


 「ああ。悪いな?英莉菜は、制服ちゃんと着た方が似合ってるし、凄く可愛いぞ?」


 「はぁい…。【(何言ってるか分からない)】!!」


 ──シュンッ!!


 ショボンとした表情を英莉菜はすると、また聞いたことのない言葉を喋り始めた。喋り終わると一瞬にして、英莉菜の服装が家を出た時と同じ状態に戻っていた。


 「うんうん!!やっぱりこっちの方が、十五歳らしくて、凄く可愛いぞ?」


 ただでさえ英莉菜は可愛いのだから、余計な事はしない方が良いに決まってる。やはり、うちの高校の一強であるW杉崎先輩も、同様に普通の服装でいるだけなのに、凄く可愛らしいのだ。ただ…その裏では、海野先輩が厳しく目を光らせている可能性もあり得る。

 その海野先輩とは、僕とW杉崎先輩が所属するアニメ研究部の部長で、W杉崎先輩とは何とも言えない焦ったい関係にあり、目の前で繰り広げられる海野先輩をめぐるW杉崎先輩の駆け引きに、いつも僕は羨ましく思っていたくらいだ。

 だが、それも昨日までだ。もう、僕には英莉菜がいるので羨ましくも何ともなくなった。


 「お兄ちゃんのぉ…言う通りにするねぇ…?」


 今日、部活って無かったかな…?あれば、海野先輩達に英莉菜のこと、紹介できるんだけどなぁ…?

 ああ…でも、半日だった気もするから…。


 「ねぇねぇ?君、うちの新入生?滅茶苦茶、可愛いよねぇ?彼氏いるの?」


 ふと、考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか英莉菜が僕の少し後方を歩いていたようだ。それにも気付かず、英莉菜が誰かに声を掛けられた事で僕はようやく気付いた。


 「はい。新入生です。彼氏は居ませんが、好きな人なら居ます。」


 「じゃあ、俺にもチャンスあるって事だよね?」


 「そう言う事は、私…よく分からないので。私、お兄ちゃん待たせてますので、ゴメンなさいっ!!」


 ──ギュウッ!!


 「お兄ちゃんっ!!お待たせして、ゴメンなさいっ!!」


 下手に相手を期待させる事は言わず、僕の手を握ってきた。英莉菜をナンパした相手からすれば、通学途中にはぐれて、兄のもとへと急いだ妹として見えただろうか?はたまた、別の解釈だって出来るだろうが。


 「全く…どこ行ってたんだ?家出る時、お兄ちゃんから離れるなって言っただろ!?」


 「ゴメンなさぁい…。お兄ちゃん。」


 ああ…。本当に可愛いな。可愛過ぎる…。英莉菜が妹(自称)じゃなきゃ、もっと良かったのだが…。



十時三十五分頃───


 今日は、僕たち在校生は始業式の為、通常は朝学習の時間の八時十五分から、一時限目の途中の九時頃まで、講堂に集まり行われていた。

 それから在校生は、九時三十分から体育館で行われる入学式に参加する生徒会や応援団等を除いて、校舎へと戻されると、少し長めの休み時間となった。


 二時限目については、通常通りの九時四十分から、各クラス教室にてLHRが行われていた。

 賎宮高校では、二年生に進級する際に、学力レベルに応じたクラス替えが行われる。その為、クラスメイトのメンツがガラッと変わる傾向にあるので、必ず全員の自己紹介が行われるのだ。


 三時限目も引き続きLHRがあるのだが、自己紹介が長引き、五分程押し気味でようやく二時限目の休み時間となった。

 二時限目終了のチャイムが鳴った頃からだろうか、教室の外がやけに騒がしくなった。何だと思って、僕は教室から廊下へと出てみることにした。


 「よおっ!!藤邑!!今年の新入生にさぁ?滅茶苦茶可愛い子居たんだって!!なぁ?鈴木。」


 ほうほう。可愛い子ねぇ?


 「ああ!!多分…俺もその子、見た見た!!校舎から体育館へ向かう、新入生の中に居たんだよ!!」


 ほうほう。そんな遠くまでよく見えたな?


 「そうそう!!あれだよな?ロシ○レのお姉ちゃんを髪長くした感じのハーフっぽい子だよな?」


 ──ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…


 その特徴って…絶対に、英莉菜だろう…。

 しかも、僕に声を掛けてきたこの二人は、一年の時に同じクラスだった友人で、冗談を言うタイプではない。


 二年の廊下で、英莉菜の事が騒ぎになっているってことは、一年の間では…どうなってしまっているのだろうか…?

 この時間だと、まだ体育館で入学式が行われているのだろうが、両親が同席しているとはいえ、僕は英莉菜の事が心配になってきてしまった。

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