第二十話 可愛い来訪者はお兄さまが好き②
五月六日、七時四十五分頃────
「本当に…ゴメンなさい!!」
近所にある、外周を高い木々に囲まれた公園のベンチに、僕と謎の美少女は並んで座っていた。僕の寂しかったという一言に、美少女が反応したという状況だ。
「べ、別に…謝らなくても良かったのに…。」
「急な親の都合で…この公園に来れなくなってしまって。お別れも言えず…あの時は、本当にゴメンなさい…。」
「そうだったんだね。君が来るかなって、あれからも暫く通ったんだけど、いつの間にか僕もこの公園に来なくなっちゃってさ?あははは!!」
実際の話、そうだった。英莉菜もこの美少女も来ない公園なんて、あの当時の僕にとって何の価値もなかったようだ。
「でも、最近…また親の都合で、この街に来れたんです。」
ほうほう。確かに…あれからゆうに十年以上こんな個性的な特徴を持つ美少女なんて、この街では見かけたことはなかった。英莉菜や朱梨を見てもらえば分かるが、彼女たちがどこかに居るだけで人だかりが出来る。それを凌駕する美少女だ、今まで一度も噂にならない訳がない。
「いつ頃から、この街に?」
「四月の初め頃ですね。その時、お兄さまを見かけたんです!!」
四月から今日までの約一ヶ月もの間、こんな美少女がよく噂にもならずに来れたな…。
「ああ、そうなんだ?!その時、声かけてくれれば良かったのに。」
「お、お兄さまの隣に…ハーフ顔の女が…居たんです…。だから、声を掛ける勇気が出なくて…。」
あー。英莉菜だな…それは。徒歩で登校したのは入学式の時だけだから、その時だろうか?
あの翌日からずっと、芽莉沙さんに登校時は車に同乗させてもらっていた。でも、今思えば…妹の身を案じた姉が送ってくれてただけだったんだよな…。
「ああ…。あれは僕の妹だよ?」
まぁ、妹(自称)だけど…。それに、あと一年弱で妹(養女)になるけど…。
「そうなんですか…。あまり、お母さまにも…似ていないようでしたが。それに、彼女のような振る舞いでしたし…。いえ、お兄さまを疑ってはダメですよね…。良かった、ただの私の思い過ごしだったのですね!!」
あー。この感じは、バレたら本当にブスッとやられるな…これ。
「そう言えば、君の名前聞いてないかな…。」
「そうでした。申し訳ございません。私は、通信制高校に通っております、日野善莉澄と申します。」
善莉澄とか…完全キラキラネームだよな。イリスなんてファンタジー系のアニメとかゲームによく使われているから、ご両親が好きなのかもしれない。
そう言えば、魔王の娘たちが日本で使っている当て字の名前だけど、英莉菜は普通にあり得るし、芽莉沙はギリギリあり得そうだ。
「既にご存知かも知れないけれど、僕は近くの県立高校に通う二年生の藤邑暁人と申します。善莉澄ちゃん、宜しくね?」
言ってからハッとしたのだが、幼い印象だったため思わず、ちゃん付けで呼んでしまった。
「はい!!私の名前、お兄さまに呼んでいただけただけで幸せです!!」
仮に…善莉澄ちゃんが僕のストーカーだったとしても、今から普通に付き合ってしまえば、ストーカーではなくなるのでは?凄く安易な考えだが思いついた。
「もしも…だけど。善莉澄ちゃんが良ければ、僕と付き合ってみませんか?」
「えっ…?!あの、お言葉ですが…お兄さまには、朱梨さんという…頭脳明晰な彼女さんがいらっしゃいますよね?」
意外すぎる返事に、僕は驚きを隠せなかった。
案外、善莉澄ちゃんはモラルには厳しい感じかも知れない。
やはり、僕のストーカーとしか思えない言動に、流石に怖くなってきた。
「よ、よく僕の彼女のこと…善莉澄ちゃん、知ってるね?」
「えっ!?お兄さま…ご存知ないのですか?!この辺りの学生の間では、高校二年デビューした美人の新星として、賎宮高校の石川朱梨さんは有名なのです。更に…暁人というアニメオタクが彼女の心を奪ったと悪名高く、連日大騒ぎですよ?」
「その話、マジ?!」
「はい。そんな悪名高きお兄さまは、それでも二股したいのですか?私は別に構いませんが…朱梨さんがどう思われることか、心中お察しいたします。」
そう言えば、芽莉沙さんも彼女に加えたばかりで…英莉菜も頭数に入れれば、もう既に三股状態だ。
もし、今日…善莉澄ちゃんも加われば、僕は四股状態となる訳だが。流石に、そんなことが知れたら、周囲の学生たちからのヘイトで、僕自身がヤバいことに巻き込まれそうだな…。最悪、どこかに呼び出されて、○ろされるかもしれないな。
「僕は、善莉澄ちゃんの気持ちが知りたい。」
この期に及んで、何言ってるんだか自分でも訳がわからない。
「お兄さまが、綺麗な身体であったなら…すぐにでもお付き合いしたい気持ちはございますが、今の状態では…妹を自称させていただき、お兄さまの…お側に居させていただければ嬉しいです。」
妹を自称って…なんか既視感が凄いな。魔法で勝手に記憶改竄して妹になった、英莉菜よりは幾分か未来がある。ただ自称してるだけだから、英莉菜と違って、戸籍上も赤の他人なので安心して付き合ったり、結婚だって即日可能だ。
ストーカー疑惑は残るが…妹として側に居てくれたら、今後のことも見据えれば、良いかもしれない。
「分かった。じゃあ…妹って自称して良いから、僕と付き合ってくれるかな?」
「何度も…お兄さまには申し上げております通り、朱梨さんをお推しされております方々からのヘイトリスクが大きすぎる為、現状のお付き合いするのはお互い得策ではございません。時期が来るまで、その件に関しましては我慢頂けますか?私も、お兄さま以外との交際は、当面の間は控えさせていただきますので。それで、宜しいでしょうか?」
「仕方ない、我慢することにする。でも、色々考えてくれた末の答えだろうから、善莉澄ちゃん?ありがとう。」
グウの音も出ない善莉澄ちゃんからの僕への返事には、なす術がなかった。
「はい!!お兄さま。そういえば、先程からこちらの方をじっと睨むように見つめてきているハーフ顔の女が、あちらに見えるのですが…。」
この公園の奥の方には東屋が設置されており、家族連れが休憩や食事の際に使ったり、急な雨の時にその下で凌いだりすることが出来るのだが、善莉澄ちゃんはまさにそちらの方向を指をさしている。
確かに…東屋の柱の辺りに、明らかに髪の長い人影が見える。
「多分、妹の英莉菜だと思う…。」
「あちらで凄く怖い顔をされてる英莉菜と言う妹さん、極度のブラコンなのでしょうか?」
まぁ、当たらずとも遠からずといったところか。やはり…赤の他人から見れば、僕の妹としての英莉菜の行動は、相当ヤバかったんだろう。結以さんがマトモじゃないと思ってしまうくらいだ。
「うん、そう思ってくれていい。もし、善莉澄ちゃんが英莉菜に何か言われても、虚妄の世界で生きてると思って聞いて欲しい。」
「そうなのですね。お兄さまの…妹さんなのですが、あまり相手にしたくはないですね。」
ストーカー気質全開な善莉澄ちゃんでさえも、そう思うくらいだ。善莉澄ちゃんの方を向いて話していた僕は、英莉菜の動向でも生暖かく見守ろうと、東屋方面へ目を向けた。
あれ?東屋にあった英莉菜らしき影が居ない…。
「お、お兄ちゃんっ?!と、隣のツインテの可愛い美少女、誰っ!?」
遅かった…。流石、異世界の魔王の娘、移動速度が早すぎる。
「はじめまして、英莉菜さん。私、日野善莉澄と申します。」
おおおおいっ!!英莉菜のこと、相手したくないって…今言ってたよね?!
「はあぁ…声までぇ…可愛すぎるぅ…!!」
ん?一触即発と思いきや…意外な反応を英莉菜が見せた。




